第8夜 「熱波の王」パズス
「俺の顔に一撃入れたのは褒めてやるけど、お前は殺すよ?」
パズスはそう言って一歩、前に進み出る。
「覚悟の上さ」
「言うじゃないか。でもな……」
そう言ってパズスは、
――ボッ!
その瞬間、僕のいるところにまで熱風が飛んできた。前髪が焦げる匂い――その向こう側で、
「お前たち人間なんか、この程度で焼けてしまうんだろ? 一発先に殴らせてやったところで、ハンデにもなりはしない」
パズスが発する熱波――空気が揺らぐほどの高温が
「
僕は叫んだ。パズスは顔を歪め、笑う。
「心配するな。貴様もまとめて、一瞬で焼き殺してやる……!」
パズスがそう言うと、熱波の勢いがさらに増し、ついに
「……おぉぉるあぁっ!」
――と、
「……ふん!」
踊りかかる
「くっ!」
パズスはそれを腕で受け、防ぐ。そのまま勢いで後ろに下がり、
「こんなもん、熱いだけだろ? 我慢すりゃどうってことはねぇ」
「うおおおぉ!」
パズスにラッシュをかける
「……それに、防戦に回ればお前の熱波は弱まる。そうだろ?」
「……ふん、小賢しい」
パズスは頬を引くつかせる。
「ならば、こういうのはどうだ?」
そういうとパズスは両腕を広げ、目を見開く――と、その全身が赤く輝き、熱波が溢れ出す。パズスの身体から溢れ出した熱波は、ソファなどの調度品を焦がしながら広がっていき、「シルバー」のフロア全体を包み込んでいった――
* * *
「んがっ!?」
アモンの掌打をまともに受け、シモンはフロアに転がった。アモンは構えを解かず――しかし、シモンの
「くそっ……!」
シモンは立ち上がり、再び
「……なんだ!?」
フロア全体に、熱波が及ぶ。バーカウンターの上に零れた酒が、蒸発するような熱気が、周囲を包み込む。乱闘に興じる「アークライト」と「ブラストヘッズ」のメンバーたちもまた、その熱波に当てられ――
「ウ……ウオオオオオオ!!」
熱波に包み込まれた男たちが吼えた。その目が明らかに正気を失っている。
「こ、これは……!?」
シモンはその様子に驚きつつも、自分の中にもまた、狂騒が沸き上がってくるのを感じていた。
「……パズスの力だ。奴の熱波は人を狂奔させる」
「……!!」
周囲の男たちが狂騒に駆り立てられ、暴動を始めていた。それまでの乱闘ではない――敵も味方も構わず、自分が傷つくことさえも一切厭わず、ただ暴れ、破壊の限りを尽くす。
「くそっ……!」
やめさせないと――とシモンは思うが、しかし、どうすればいいかわからない。なにより、目の前には敵がいる。
「仲間を助けにいくか? だが、背を見せればそれを打つのが俺の戦いだ。わかっていような?」
「……ああ、よくわかった。つまりはあんたもパズスも、すぐにぶっ倒さなけりゃなんねぇんだな?」
シモンは
* * *
「これは……!」
不意に聞こえて来た外からの声。そして、ガラス張りの窓から見下ろすフロアで巻き起こる暴動。明らかに先ほどまでとは違う狂奔。まさか、これが――
「我は『熱波の王』パズス……人間どもの狂騒は我が最大の快楽。そして」
パズスの身体の放つ赤い光が、強くなる――
――ブォン!
と、次の瞬間、赤い光が尾を引いて奔り――パズスの拳が、
「ぐあっ!」
「我ら神魔にとって、熱狂こそは力……哀れな人間どもが熱狂するほど、我らの力は増す! 『熱波』によりそれを増幅し、この俺は無限に強くなるのだァァァァッ!!」
立ち上がった
――ガガガガガッ!!
瞬時に叩きこまれる拳と蹴り、その他無数の打撃。
なんてことだ――つまり、パズスの力は自分に熱狂する人間が多いほど強くなる。だから、他のチームを潰して「ブラストヘッズ」を拡大していたのか――本人によれば、それはこれから起こるという「戦争」のために?
「……ひとつ、教えておいてやる。人間よ」
攻撃を放ち終えたあと、パズスは悠然として言った。
「お前の探している
「…………!」
「彼女は俺のものだ。だからお前らがここに来るより前に逃がした。その方がお前も安心だろう?」
「そうかい」
「それじゃ、心置きなくお前をぶちのめしたらいいんだな」
「そういうことだ。お前にやれるならな」
「やれるさ」
「熱波だか熱狂だか知らねぇが、他人のふんどしで強くなって威張ってるやつに、俺が負けるわけないからな」
顔を上げ、言い切る
「虫けら如きが、アサグ程度をぶちのめしたくらいで調子に乗るなよ?」
パズスは言い、体勢を整えた
――ドグォッ!!
お互いに踏み込んでの、全体重を乗せた右ストレートが、交錯した衝撃で鉄筋コンクリートの建物が揺れた。
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