第九十一話 お節介

 蹄の音がする方向に探索の気を放つと、馬に乗った人間が五人、一人が逃げ四人が追っているようだった。

 

 逃げているのは女性で、追っている四人は男性、気から受ける印象はあまり良くない。

 

「助けるべきだよな…」

 そうつぶやいて、小天狗が子狼を見ると、そうするべきだと言わんばかりに、子狼は目を輝かせてこちらを見ていた。

 

 

 小天狗のいる傾斜のある場所から、緩やかにくだった位置に道があり、おそらくその先から、馬に乗った者たちは近づいてきていると思われる。

 

 小天狗はおもむろに立ち上がり、傾斜をくだって道の脇までおりて、馬に乗った一行を待った。

 もちろん子狼も、しっかりついてきている。

 

 蹄の音が大きくなり、目視出来るところまできたので、小天狗は気で視力強化して、目で確認することにした。

 

 先頭の馬に乗った若い女性は、馬に乗るにはそぐわない、美しい着物の裾をはだけてまたがり、必死で馬にしがみついている。

 後方の四人は、良くない気の印象通りの、見るからに粗暴な感じの、山賊っぽい身なりをした連中で、逃げる女性をいたぶるのを楽しんでいるかのような、下卑た笑みを浮かべて追っていた。

 

「これで女性の方が悪人って展開は…無いと思いたい」

 

 先頭の馬が近づいて来たので、小天狗は身体を少しだけ宙に浮かせ、通り過ぎざまに飛び込み、女性の乗る鞍の後ろに手をかけた。

 しかし、女性は小天狗に気づかず、最初から宙に浮いていたので、馬に負担がかかることもなく、馬も気づかなかった。

 

 いきなり飛び出してきた小天狗に、追手の四人は驚いたが、まるで旗がたなびくように、馬に引っ張られる姿に、

 

「何やってんだアイツは⁉︎」

「カッコつけて出てきといて、何なんだありゃあ?」

 そう言って大笑いした。

 

「あのぉ?いきなりすみません!」

 蹄の音でかき消されないように、少し大きな声で、小天狗は女性に声をかけた。

 

 女性は、すぐ後ろから声をかけられたことにまず驚き、声をかけた人物が鞍を掴んで、たなびきながら引っ張られていることに、二度驚いた!

 

「なっ何者じゃ⁉︎」

 振り返った女性は、小天狗と同じ歳くらいであろうか?身分の高そうな言葉遣いで、聞いてきたので、

「通りすがりの高校生です」

 小天狗は、たなびきながら笑顔を見せた。

「孝行せい…?怪し過ぎるわ!手を離さんか!」

 と、女性が鞍にかけた小天狗の指を、はずそうとしたので、

「わかりました、離します」

 自分から手を離し、飛行の気を使って、馬と同じ速さで並んで飛んだ。

 

「これで話を聞いてもらえますか?」

 あくまで冷静に、丁寧に話かけたのだが、

 

「おのれ!ものの怪であったか⁉︎」

 否定すると話が進まなくなりそうなので、

「ハイハイ、ものの怪でいいです」

「やはりそうか!何用じゃ⁉︎」

 小天狗の思惑通り、話が進んだ。

 

「助けは、いりますか?」

「助けるかわりに、何かを求めるつもりじゃろう⁉︎」

 ここも敢えて否定するのはやめ、

「ハイ、金子きんすを少々」

「金でよいのか?では、あやつらを成敗してたも!」

 

 なかなか面倒なやりとりだったが、やっとこちらの意図をわかってもらえ、

「じゃ、成敗してきます」

 とは言っても、小天狗的には懲らしめて、捕まえるくらいのつもりである。

 まずは追手の連中に、馬から降りてもらうことにした。

 

 小天狗は女性と並んで飛ぶのを止め、くるりと反転すると、両手両足を広げた大の字の状態で、空中に浮いたまま、追手の馬の前に立ち塞がるように接近した。

 

 追手の馬たちは驚いていななきながら、前脚を大きく上げて立ち上がり、乗っていた追手の連中を振り落とした。

 そこに、後を追って来た子狼が、馬たちを威嚇し追い回したため、馬たちは散り散りに逃げて行った。

 

「やるじゃん!」

 子狼の奮闘を見届けてから、小天狗はゆっくりと地上に降りると、腰に手を当てて追手たちの前に立った。

 

何者ナニモンだ、テメェは⁉︎」

 馬から振り落とされて、まだ腰をついたまま、追手の一人が叫んだ。

 

「アンタたちこそ、男四人で女性一人を追い回して、何者ですか?」

 小天狗は至って冷静に、そう尋ねた。

 

「テメェにゃ関係ねぇだろうが、すっこんでろ!」

 落ちた時に打ったところの痛みをこらえながら、立ち上がった別の男が息巻いた。

 

「一応、あなた達を成敗するように頼まれたので、関係はありますよ」

 

「成敗だと、ふざけんな!痛ぇ目みねぇとわかんないようだな、このガキが!」

「喧嘩売る相手、間違まちげぇてんだよ」

 四人とも立ち上がり、各々、腰に差した刀や短刀や斧を抜き、臨戦態勢に入った。

 

 小天狗は九尾の尻尾を使うことはせず、辺りを見回して見つけた細い木の枝を、導気を伸ばして手繰り寄せ、気を纏わせて刀を受けられるように強化した。

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