第七十九話 侮蔑
幕舎の中には、既に一番隊隊長十文字焔、二番隊隊長多々羅銅弦が席についており、蘇童将軍が入ると席を立ち、敬礼した。
蘇童将軍に手で着席を促され、二人は席に座ると、将軍将軍について入ってきた、小天狗に注目した。
口髭の方のおじさんはにっこりと、小天狗に笑いかけたが、少し若い細い目の方は、鋭い眼光で、品定めをするかのように観察してきた。
両者とも蘇童将軍に勝るとも劣らない、練度の高い気の持ち主であることは感じ取れたが、口髭のおじさんは穏やかに抑え、細い目の方は威圧するかのような、尖った気を纏っている。
「二人ともすまないね、こちらが尾上小天狗くんだ」
蘇童将軍が小天狗を紹介すると、
「将軍自らが、わざわざ出向かれる必要はないのでは⁉︎」
細い目の方が、位では上であろう蘇童将軍に、嗜めるように聞こえる、失礼な言い方をした。
裏を返せば、小天狗に対して、お前にはそんな価値はないと、暗にわからせようとする言い方である。
(コイツ、感じワルっ!)
これまで会った剣士隊の隊長は、黒曜丸を除けば口髭の人も含めて、大人を感じさせる雰囲気を持っていた。
小天狗は出会って十数秒で、この細い目の陰険な男が嫌いになった。
「私が出迎えたくて行ったんだ、将軍ではなく樹蘇童個人がな!」
蘇童将軍が大人の対応をしてくれたので、細い目の態度には目をつぶって、口髭のおじさんにするつもりで、
「初めまして、尾上小天狗です。よろしくお願いします」
笑顔を作って挨拶した。
口髭のおじさんの方が近づいてきて、
「私は多々羅銅弦、二番隊の隊長だ。よろしくね小天狗くん」
そう言って、小天狗の肩に手を置いて、目を見ながら軽く二回叩くと、
(アレが失礼したね、代わりに謝るよ)
小天狗にだけ聞こえるように、心の声で謝罪してくれた。
(ありがとうございます、いつもあんな感じなんですか?)
銅弦は微かに驚いた表情をして
(凄いなキミは⁉︎私は昨日出来るようになったばかりなのに…驚かそうと思って逆に驚かされたよ)
小天狗は一瞬キョトンとした顔で、銅弦を見てから
(ああ!メルラさんとの交渉で!)
銅弦の言葉の意味を理解して、小天狗は笑顔を見せた。
凄いとか驚かされたと言われたが、小天狗からしてみれば、昨日の今日で、自分だけにしか聞こえないように、話しかけることが出来るようになっている、銅弦の方がよっぽど凄くて驚かされた。
何事もなかったように、自分の席に戻った銅弦は、
「自己紹介くらいしなさいよ」
と、十文字焔に声をかけた。
十文字焔は
「刃王国剣士隊筆頭、一番隊隊長、十文字焔だ」
目を閉じて、腕組みしたまま名乗った。
(剣士隊筆頭⁉︎てことは一番強いのか?)
こんなに感じの悪い偉そうな奴が、この国で尊敬を集める剣士隊の筆頭だなんて、小天狗には到底信じられなかった。
しかし、この男の纏っている気には、小天狗も否定出来ない、研ぎ澄まされた練度を感じ、表には出してない気の大きさが、相当なのも感じ取れる。
(強くて性格に難ありって、一番最悪じゃん!)
小天狗も席に着くと、小桜山での状況説明を求められた。
「メルラさんからは、どの程度聞かれたんですか?」
小桜山の抜け穴についてや、自分自身の余計なことは話したくないので、まずそれを聞いてみた。
「君も尾上家の人だし、小桜山が異界と繋がっている場所なのは、知っているだろ?」
今日見る一番真剣な表情で、蘇童将軍が説明を始めた。
「ハイ」
「そこを鱗王の国の将軍が、私的に手にするため、今回の戦を仕掛けたということと、それに気づき阻止しようとした、メルラ殿を君と小桜山の御神獣様が助け、その将軍を倒したということを聞き、君に来てもらった」
「御神獣様がその将軍を倒すのを、少し手助けした程度なのだろ?」
十文字焔が、また意地の悪い言い方をしたので、
「そうです。じゃ、もういいですか?」
投げやりにそう言って、小天狗は席を立とうとした。
「待ってくれたまえ、その状況を具体的に聞きたいのだ」
慌てて蘇童将軍が引き留めたが、
「でも、自分が何言っても、その人信じないですよね?」
嫌いな感情が先に立って、蘇童将軍に悪いと思いつつも、意固地になってそう言った。
「十文字隊長、彼は我らが招いた客人なのだよ、無礼を詫びたまえ!」
蘇童将軍も先程からの、十文字焔の態度や言い方が気になっており、叱責した。
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