第七十七話 贈り物
(何なんすか今のは?白露様が呼び寄せたんですか?)
しっかり待たされている間に夜は明け、不機嫌さを露わに小天狗は聞いた。
(前にも言ったであろう、私は百年以上この姿になっておらぬと)
普段の白露は、逆にあのコオロギの餌になりそうな、小さな白蛇の姿をしている。
(過去に数回、アレが出て来たことはある、しかし、ここのところは全然なかった)
白露は真っ直ぐ小天狗を見て、
(どこかの誰かが、何度も行き来するから、結界が緩んだのではないかの?)
少し意地の悪い言い方をした。
(起きてたんですか?)
(夕方に、お主が戻った時に、少し目が覚めた…そのあともう一度眠り、今ので完全に覚めたのじゃ)
(目が覚めていきなり食事って…。)
そもそも種が違うので、自分の常識は通用しないのかもしれないが、小天狗は心を閉じたままあきれた。
(私の代わりに、この場を任せてすまなかったの、何か変わったことはあったか?)
(大ありですよ…)
小天狗は白露が眠りについた後、ダラが氷を割り出て来て、変態したダラとの死闘が再び始まり、それが如何に大変だったかを話した。
(そうか…それはすまなかったの…)
変態前ですら厄介だった、あのダラとの戦闘を、小天狗一人に任せ、無責任に眠り込んだ自分を、白露は深く反省した。
(礼といってはなんだが…)
白露は大きく口を開けて下を向くと、喉の奥から少し大きめのビー玉ほどの珠を吐き出した。
小天狗はそれを拾い上げ、着物の端で白露の唾液を拭いてから、その珠を観察した。
それは、所々濃さの違う乳白色の玉の中に、光の加減でさまざまな色が浮かび上がる、白いオパールのような美しい珠であった。
(これって…)
(コオロギの目玉じゃ)
(えっ⁉︎)
小天狗はその珠を、投げ捨てそうになったが、その美しさがそれを踏み留まらせた。
(ウソじゃ)
御神獣ジョークをかましてから、
(お主の巻いておる尻尾ほどの霊力は無いが、私が見せた技の種のようなモノじゃ、使いこなせるかはお主次第じゃがな)
白露は、その珠の力の説明をした。
(マジですか⁉︎眼縛とか炎とか氷結の力を、使えるようになれるんですか?)
小天狗は目を輝かせて、白露とその珠を交互に見た。
(どうやれば使えるようになるかは知らん!が、柊は使いこなしておったぞ)
この小桜山に結界を張ったのが、柊である以上、その名前が出て来ても、なんら不思議ではないのだが…、
師匠の天狗や白露の口から、その名前が出てくるたびに、柊が自分よりはるか高い領域にいることを思い知らされ、違う時代に生きたことを残念に思った。
(ちなみに、その珠を与えた時に、柊が名のなかった私に『白露』と、名付けてくれたのじゃ)
(じゃあ、俺も珠をもらったんで、あだ名でもつけましょうか?)
そう言って、小天狗はニヤリと笑った。
(あだ名なんぞ『はーちゃん』だけで充分じゃ!余計なことはせんでよい!)
己れの尊厳を
白露が目覚めたことで、お役御免となった小天狗は、面会を要望された三将に、会いに行こうと思っていることを、白露に告げた。
(帰りには、またここに来るのか?)
少し名残り惜しそうに白露に尋ねられ、
(どのくらいの時間、飛行出来るのか試してみたいんで、飛んで帰ってみます)
小天狗はそう言いながら、少し身体を宙に浮かせた。
(あっちの世界に戻る前には、必ず挨拶に来ます、『白露の珠』もありがとうございました、絶対使いこなせるようになりますね!)
小天狗はゆっくりと宙空に舞い上がり、
(あ!もしかしたら、剣士隊隊長の柘植暗鬼って人が、そのうち訪ねて来るかも知れません。行ってきます!)
(わかった、無理だけはするなよ)
小天狗の姿が見えなくなるまで見送ってから、白露は小さな白蛇の姿に変わり、小桜山のお社の中に戻った。
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