第七十三話 再会

刃王軍の陣営。

 

 華鈴、小桜、銀嶺郎の三人は、戻る前にもう一度蘇童将軍に挨拶をするために、陣営に寄った。

 しかし、朝来た時とは違って、陣営内の雰囲気が騒々しく、兵士たちも慌しそうに動いていた。

 

「何事でしょう?」

 誰かを呼び止めて聞いてみたかったが、部外者が口をはさむべきではないと、華鈴は声をかけるのを思い止めた。

 

「もしかしたら?」

 銀嶺郎には思い当たるふしがあり、覚えたての気の探索をかけてみた。

「やっぱりそうだ!」

 銀嶺郎の探索に引っかかったのは、とても馴染みのある気である。

 

(銀嶺郎君か?)

 向こうも銀嶺郎の気の探索に気づいた。

 

「メルラさん!来てたんですね?」

(君こそ何故ここにいる?)

「兄の見舞いで」

(そうか、私はこれから将軍と停戦交渉だ)

「蘇童将軍とですか?」

(ああ、いま案内されて向かっているところだ)

 

「銀嶺郎、誰と話しているのじゃ?」

 いきなり独りで誰かと話し出した銀嶺郎を訝しんで、華鈴が声をかけた。

「ホラ!一昨日話した、鱗王軍の将校のメルラさんです」

 華鈴と小桜は、小桜山での出来事を、嬉々として話していた銀嶺郎を思い出した。

 

「銀ちゃん、声に出さないと話せないの?」

 小天狗と心での会話に慣れている小桜が、可笑しがってそう聞いた。

「姉上、これはまだ練習中で、とぉ〜っても難しい技術なんです!」

(そうなんだ、頑張ってね銀ちゃん)

 突然頭の中に小桜の声が響いて、銀嶺郎は目を丸くした。

「姉上っ、出来るんですか⁉︎」

(あ、ちゃんと伝わったのね、良かった)

「あ〜っ、もぉ小天狗さん、姉上だけに教えてズルいよぉ!」

 

 一人蚊帳の外に置かれた華鈴であったが、小天狗が来てから、二人ともが成長したことは理解し、そのやりとりを微笑ましく聞いていた。

 


「こっちです」

 銀嶺郎は、メルラと蘇童将軍の気のある方向に、華鈴と小桜を案内した。

「何故わかるのじゃ?」

 自分の知らない息子の能力に、華鈴は驚かされていた。

「気って一人一人違いがあって、その人の気の特徴さえ覚えていれば、ある程度離れていても、探すことが出来るんです」

 

 銀嶺郎は簡単に言ったが、まず気を扱う資質があって、それを練って昇華させる才能がなければ、出来ないことである。

 

 

 

 メルラが案内された幕舎の前には、蘇童将軍、十文字焔、多々羅銅弦の三人が待っていた。

 鱗王軍側の通訳官が、拙い言葉で刃王側の三人に、現鱗王軍総指揮官のメルラを紹介した。

 角が生えてから、気の練度が著しく上がったメルラは、目の前の三人も気の練度が高いことを感じ取り、直接話しかけてみることにした。

 

(驚かないで聞いてもらえますか?)

 

 頭の中にいきなり話しかけられて、蘇童将軍ら三人に緊張が走り、瞬間的に刀に手をかけ身構えたが、そこに…、

 

「大丈夫です!メルラさんに敵意は無いですから!」

 声を上げながら、銀嶺郎が宙から舞い降りた。

 

「君は黒曜丸隊長の弟くん!」

 蘇童将軍は、空から降って来た少年が、銀嶺郎であったことと、鱗王軍総指揮官の名前まで知っていたことに驚いた!

 

「ボクが来るまで待っててくださいよ」

 銀嶺郎はメルラに駆け寄り、ニコニコと笑いかけた。

(すまない、この三人なら通じる気がしたので、先走ってしまった)

 もちろんこの会話は、三人にも聞こえるように話しており、

 

「君、どういうことか説明してくれるか?」

 身を乗り出して聞いてきたのは、剣士隊一番隊隊長、十文字焔であった。

 

「ハイ、ボクは尾上黒曜丸の弟の、銀嶺郎と申します」

 黒曜丸の弟と聞き、十文字焔と多々羅銅弦は、再び驚いた。

「仕組みや理屈はわかりませんが、気が合うって言葉があるじゃないですか!たぶん気の波長が合うことで、考えてることが伝わるんです」

「では、その指揮官が我らの気と波長を合わせて、話しかけたということか?」

「ハイ、考えや思いなので、言葉は関係ないみたいです」

 銀嶺郎の説明を補足するように、メルラも続けた。

(いきなりで失礼しました。気の練度が高いあなた方なら、通訳を通すより良いかと思いましたので)

 

「こんな気の使い方があったとは、長生きはするものだな」

 多々羅銅弦は、元々親交があり年齢も近い蘇童将軍の肩を叩き、笑いかけた。

「そうだな、おまけに話も早いしな」

 蘇童将軍はそう言いながら、銀嶺郎とメルラに向き直り

「ところで、二人はどういった関係なのだい?」

 

 銀嶺郎とメルラは顔を見合わせ、

「戦友です!」

(そうだな)

 と、息の合ったところを見せた。

 

 しかし、停戦交渉を進める中、二人は避けることが出来ない、辛い現実を知ることになる。

 

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