第六十八話 超再生
「じゃ、手当てに入ります」
まず小天狗は手甲をつけた右手を、浄化消毒するイメージで気を集め、横になった暗鬼の脇腹の傷口に、その右掌で蓋をするように置くと、その上に左手を重ねて気を送り、しばらく殺菌消毒した。
そして、傷を負った細胞を修復、再生するようにイメージして気を送ってみて、小天狗は驚いた!
怪我の気の治療に関しては、自分の身体で試した程度の経験しか無い。
その時は、健常な細胞と傷ついた細胞の区別はついたが、傷ついた細胞が修復されていく経過が、時間をおいての差異でしか感じ取れなかった…。
しかし、九尾の尻尾の霊力を加えたおかげで、気を送った部位の細胞の修復の経過を、ダイレクトに感じ取ることが出来、その速さも相当なもので、五分ほどで修復治療は完了し、棒手裏剣が刺さった場所だけでなく、その周りの傷跡さえも消えていた。
「本当に凄いな!君とその尻尾は」
暗鬼は、打ち解けてからも解かなかった、おそらく職業病ともいえる、小天狗や周りに対しての警戒感を初めて消し、素の笑顔を見せた。
「あの雑で粗野な、黒曜丸の親戚とは思えないな…」
そう言ってから、暗鬼の表情が少し曇ったのを、小天狗は見逃さなかった。
「黒曜丸さんに何かあったんですか?」
暗鬼は前髪をかきあげ、
「
目を閉じたまま、大きく一つため息をついて、衝撃的な事実を口にした。
「鱗王軍の手練れとの戦闘で、左腕を失う大怪我をして、戦線を離脱したそうだ。今は、近くの町にある、蘇童将軍の家で治療中だと報告を受けた…」
昨日、ここから気を探った時に、戦闘中の黒曜丸の闘気が、急に消えた理由がやっとわかったが、悪い予感の方が当たってしまったことに、小天狗はショックを受けた。
(今日の夕方、小桜さんたちに、どんな顔して会えばいいんだ…⁉︎)
暗鬼はあえて小天狗に話しかけず、心の整理が出来るのを待ってくれた。
「ご家族に知らせは?」
一人悩むより、現状を把握しようと、小天狗は暗鬼に尋ねた。
「王都の剣士隊本部には、鳩を飛ばしてあるので、家族にも、今日中には伝えられるだろう」
自分が伝える役にならずに済むことに、小天狗は少しだけホッとしたが、肝心なことを聞いていないことに気づき、
「黒曜丸さんの容体はどうなんですか?」
と、更に暗鬼に尋ねた。
「六番隊の隊員がすぐ側にいたので、命に別状はなかったようだが…」
小天狗の質問に、暗鬼は複雑な表情で浮かべ…、
「意識が戻って唯一話したのは、隊長職の辞意だったそうだ」
あの自意識過剰で、自信の塊りのような黒曜丸が、発する言葉を失ってしまうほどの、精神的な衝撃を受けるとは…。
よほど屈辱的な左腕の失い方をしたのか…?それとも、大太刀を振るうことが出来なくなる、今後への絶望感からなのか…?
小天狗は、同じ状況と立場に置かれない限り、黒曜丸の気持ちは理解出来ないと、頭では理解していても、つい考えてしまう自分がもどかしかった。
そんな時であった…。
タイミングよくなのか?悪くなのか?は、わからないが、メルラの指示で、バレ将軍の配下の兵士を受け取りに来た、鱗王軍の一行が、小桜山を登って来る気配を感じ取り、小天狗は気持ちを切り替えた。
彼らがここに来るまでに、暗鬼にこれまでの、事と次第を説明しなければ、彼らの生命を危険に晒すことになり、せっかく戦争を終わらせるために、動いてくれているメルラの努力が、無駄になる可能性がある。
小天狗は、暗鬼の妹の鬼灯が、鱗王軍の指揮官メルラを助けたところから、登って来ている鱗王軍の一行のことまでを、かいつまみながらも、出来る限り正確に話した。
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