第六十五話 蜘蛛の糸

 同日、小桜山。

 

 御神獣の白露が眠るお社の傍らで、小天狗は地面からほんの数センチ浮かんだ、いつもの胡座の姿勢で精神を集中させていた。

 

 今朝がた辰巳野の砦から、鱗王軍の兵士の集団の気が、こちらに向かって来ているのを確認し、その動向を含めて、小天狗は小桜山周辺を丁寧に、気で探索していた。

 

 その探索の網の中、鱗王軍の集団の側に、巧みに気を消してはいるが、時々人の気が現れては消えるという、普通では起こりえない現象が起きていた。

 昨日、鱗王軍を監視する忍びの鬼灯と出会っていなければ、小天狗も少し混乱していたであろう。

 

(いきなり襲うってことは無いと思うけど…)

 昨日は気づかなかったが、もしかしたらここも、監視されているのかも知れない。

(アイツにも来たきゃ来いって、言っちゃったしなぁ…)

 

 とにかく、昨日から両国間での戦闘は起こっていないし、メルラは約束通り、鱗王兵の受け取りのための兵を送ってくれた。

 少しでも早く戦争を終結させるためには、余計ないざこざは起こって欲しくないのだ!

 

(引き渡す兵士たちの近くに、いた方がいいかもな、他にもアイツみたいなのがいたら、いきなりクナイが飛んでくる可能性もあるし…)

 

 小天狗は用心のために、首に巻いた九尾の尻尾を外し、右手に巻き付けて手甲をイメージすると、九尾の尻尾は一瞬で、真っ白な毛皮で出来た手甲に変化した。

 

(うん、この方がいざという時に、使いやすいな!)

 継ぎ目も重さも無く、全く圧迫感も感じずに、腕にフィットした尻尾の手甲を、小天狗は満足そうに眺めると、少し離れた場所にある木の、葉っぱの一枚を狙って、昨日見たダラの気の糸のように、手甲の甲の部分の毛を一本、真っ直ぐ伸ばして葉っぱの根元に巻き付けると、毛を戻してその葉っぱを手元にたぐり寄せた。

 

(おお〜っ!蜘蛛男じゃん‼︎)

 イメージさえ出来れば、冗談抜きで網にも出来るだろう。

(網か…)

 小天狗は、このチートな尻尾のおかげで、新しい気の探索方法を思いついた。

 

 気を消した相手の場合、その相手の練度が上がるほど、隠れた相手を気で見つけることが困難になる。

 しかし、気を細く糸状にして、蜘蛛の巣のように広げておけば、相手が気を消していても、それに触れさえすれば位置がわかる!ただし、相手が気が見える場合もあるので、気づかれないだけの糸の細さが重要になってくる。

 繊細な気の操作になるため、気の消耗を考えれば、その範囲は限られるが、相手に行動を起こされた時に、すぐ対応出来る範囲くらいであれば、急激な気の消耗は避けられるだろう。

(蜘蛛ってすげぇな!)

 

 小天狗はまず、蜘蛛の糸をイメージして、一本だけ一メートルほど伸ばし、それがどの程度目視出来るかを試した。

(まだちょっと見えるか…じゃ、この気の量のまま、十メートルまで引き伸ばして…)

 正直なところ、その気の糸の細さは、小天狗のイメージ出来る細さではなかった。

 しかし、それは強化した視力でもほとんど見えず、小天狗が望んだ細さの気の糸であった。

(この細さを何十本も、放射状に放つのは難しいから、一本ずつコピペして並べるか…)

 

 小天狗は、三十メートルほどまで伸ばした、その超極細の気の糸の複製を、三十本ほど作ってから、自分を中心に扇を広げるように、一本ずつずらして配置していった。

 最後に、イメージ出来る細さの一本を、螺旋状に引き伸ばしながら、横糸として張っていき、小天狗の気の蜘蛛の巣が完成した。

 

 小天狗はその蜘蛛の巣の形と、気の量を感覚として記憶すると、一旦気を解除した。

 (で、今度はそれを一発で!)

 そう集中したと同時に、小天狗の周りに再び、目視することが難しい、気の蜘蛛の巣が張られた。

 

 嬉しい誤算だったのは、蜘蛛の巣を一つの形として記憶して作ったことで、その繊細さには関係なく、気の消費量がかなり抑えられたため、並行して気の探索をすることも出来た。。

 

(上手くはいったけど、獲物がかかったらかかったで、逆に困るんだよなぁ…)

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