第六十一話 決着
(私たちでも、王様になれる場所を探しに行きたかっただけなのに…)
無尽蔵であるかのように感じた、ダラの大きく狂気を孕んだ気は一気に小さくなり、その身体の中で、絡み合うように蠢いていた気の糸の動きも、さざなみのように穏やかになっていた…。
(私たちが将軍になってからも、貧民街出身だってことで、王族の連中は心の中では蔑んで、馬鹿にして嘲笑ってたわ。角もない下賤な私なんかに、全部聞かれてるなんて、想像すらしないでね…)
少し離れた場所で、ダラの始めた話を聞いていたメルラは、立場こそまるで違うが、角が生えなかったことで、王族の地位を剥奪され、悩み苦しんだ頃の自分を重ねて、心を傷めた。
(弟はずる賢い一面もあったけど、バカで単純だったから、王族連中の薄っぺらい表面上だけの、賛辞の言葉に乗せられて働いてたけど…、私には腹の中が全部聞こえてたし、
ダラは普通に話していたが、失った右腕の付け根辺りから、身体が消え始めていた…。
(あの身体…)
小天狗は、ずっと感じていた違和感の正体が、やっとわかった気がした。
今、目にしているダラの肉体を形作っているのは、未成熟なダラの本体を核にした、気の糸を絡めてまとめたもので、その表面を、バレ将軍の細胞を吸着させた気の糸で編んだ皮膚で覆った、動くぬいぐるみのようなだったのだと。
(気持ちが切れて、形を維持出来なくなったのか…)
気力とはよく言ったものである。
肉体が未成熟だったがゆえに、並外れた気を扱う能力を身につけ、気の力で新たな肉体を生成したダラにとって、気力だけが生命線であった。
(どんなに強くたって…王族全員殺せば王様になれるほど、鱗王の国は小さくないし、いろいろ嫌気がさしてた時に、ここのことを耳にしたのよ…)
そう話している間にも、ダラの肉体の崩壊は止まらず、皮膚の表面に虫食いのような穴があちこちに出来、徐々に大きくなっていった。
(鱗王には、失われた建国の神器の一つが、ここにあるって嘘の進言をして、侵攻の許可をもらったわ、どうせ、戻るつもりはなかったしね…)
ダラの始めた告白によって、メルラはやっと、今回の刃王の国への進軍の全容を掴むことが出来た。
犠牲になった兵士の数を考えると、バレ将軍とダラのしたことは、到底許される行為ではないが、同じように鱗王の国の王族の特殊性に、翻弄され運命を狂わされた者として、その心境を完全に否定することが出来なかった…。
(アンタたち…特にアンタのことは、鬱陶しくて大嫌いだけど…)
身体の皮膚のほとんどが無くなり、頭の上半分を残した状態になって、ダラはやっと小天狗を見つめ、
(私はずっと日陰の存在だったから、カラダを作って本気で闘えて楽しかったわ!)
ダラの大きな目も下の方から無くなっていき、楽しかったの言葉と相まって、笑ったように見えた。
(俺も、こんな痛い思いしたの初めてなんで、あなたのことは忘れません!)
小天狗はそう言って、深く頭を下げた。
(そうなんだ、良かったわ死なないでくれて…せいぜい長生きして、嫌な思い出として私のこと、時々でいいから思い出しなさい…)
ダラの皮膚は全て消え、身体を形どった気の糸の固まりが、膝をついて座り込んでいた。 そして、絡みあった無数の気の糸は、まるで導火線さながらに、端からパチパチと
最後に、ニワトリの卵ほどの大きさの繭が残り、ゆっくりと地面に落ちると、ラムネが溶けるように消え、中から丸まったワニになる前の、核となった幼体のダラの本体が現れたが、それは一瞬で干からびた。
小天狗は九尾の尻尾の武器を、尻尾の状態に戻して首に巻くと、干からびたダラの本体の側まで行き、しゃがんで目を閉じて手を合わせた。
身を隠していた銀嶺郎とメルラも、茂みから出て来ると小天狗に近づき、銀嶺郎は立ったまま手を合わせ、メルラは胸に手を当てて片膝をつき、哀悼の意を表した。
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