第六十話 反撃

(ホント邪魔だわ、あの尻尾!)

 

 ダラは辺りを見回すと、食べ残した元バレ将軍の抜け殻の、大きな尻尾を拾い上げて右手にはめ、そこに糸状の気を張り巡らせて同化させた。

 

(このカラダにはちょっと大き過ぎるけど、尻尾には尻尾!これで気を消されることはないわ)

 そう言って、その尻尾のついた右手を振ると、右手の尻尾はゴムのように伸びて、その尻尾は少し離れた広葉樹の木の幹を叩いた!

 広葉樹の木は、ミシミシっという音を立てると、ゆっくりと裂けるように折れて倒れた。

 

 身体に不釣り合いな尻尾のついた右手を引きずりながら、ダラは小天狗の持った武器の届かない間合いまで近づくと、その尻尾のついた右手を伸ばし、鞭のようにしならせて地面をを打ちつけた。

 

(爪の時はネチネチ叩いてくれたから、力も回数も何倍にも増やして、打ち据えてあげるわ!)

 そう言うと、広葉樹の木を叩き折った勢いそのままに、尻尾の大きさを感じさせない速さで振り、何度も何度も小天狗を打ちつけた。

 

 小天狗はダラの重い鞭の攻撃を、九尾の尻尾を変形させた武器で全て防御し、直接的なダメージは受けなかったが、その圧力に、回復しかけた気を、少しずつ削られ始めていた。

 

(ほらほら〜、さっきまでの勢いはどうしたのぉ?)

 思い通りに攻撃が出来ている高揚感に、ダラは大きく目を見開き、口を開けて笑いながら、一心不乱に尻尾のついた右手を振り続けた。

 

(そっちが、そうくるなら…)

 ダラの攻撃を、九尾の尻尾の武器で受け流しながら、そのまま大きく振りかぶると、小天狗は半月状の刃の部分が、鎖で繋がってるとイメージし直し、ダラの右腕の付け根目掛けて振り下ろした。

 

 半月状の刃は狙い通りに飛んで行き、攻撃の高揚感で油断し切ったダラの、尻尾のついた右腕の付け根に命中、切断して小天狗の元へ戻った。

 

 ダラは振りかぶろうとした腕が、無くなっていることに一瞬驚いた表情をしたが、

(まだ、そんな元気があったのね…)

 ニヤッと笑うと、切断された右腕の付け根から、気の糸の束をうねうねと伸ばし、地面に落ちた右腕を再結合しようとした。

 

 しかし、右腕の付け根から伸びた気の糸の束が、落ちた右腕の切断部に届こうとしたその瞬間、尻尾のついた右腕は大きく跳ね上がり、樹々の上を超えて遠くまで飛んでいった。

 

(何してくれてんのよ⁉︎アンタらぁ〜‼︎)

 ダラは右腕の飛んでいった方向の茂みを、怒りの形相で睨みつけると、何本かの気の糸を伸ばし、その茂みを切り刻んだが、既にそこには誰もいなかった。

 

(ありがとう、銀嶺郎くん、メルラさん!)

 

 

 それは、ダラと小天狗の闘いを離れて見ていた、銀嶺郎とメルラの咄嗟の機転だった。

 

 銀嶺郎は、ダラの右腕の付け根から気の糸の束が出たのを見て、ダラが何をしようとしてるのかを理解した。

 そして、近くにいたメルラに目配せしてから、両手の気を伸ばし始めた。

 メルラもすぐに銀嶺郎の意図を理解して、両手の気を伸ばした。

 二人はダラの右腕を掴み、タイミングを合わせて、力の限り自分たちの後方へ投げ捨てると、同時にその場から離れたのであった。

 

 

 茂みを切り刻んでいた気の糸を、小天狗は半月状の刃で断ち切り、頭上で数回その武器を回転させてから、ダラに半月状の刃を突きつけるように構えた。

 しかし、ダラは何の反応も示さず、その大きな目は小天狗を見ていなかった。

 

(どうして…?)

 ダラはその場に膝をつき、力なくそうつぶやいた。

 失った腕を修復もせず、右腕の付け根から伸びた気の糸は、徐々に淡くなって消えた。


(アンタたちが現れてから、何一つ上手くいかなくなったじゃない…)

 独り言のようにダラは話し始めた…。

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