第五十九話 負傷

 ダラは綱の追撃を一旦止めて消すと、

(それで逃げたつもり?バッカみたい…)

 そう言って、新たに背中から無数の気の糸を放出すると、その気の糸は織り込まれ、コウモリのものに似た翼になった。

 ダラは翼を大きく羽ばたかせて宙に舞い上がり、空中で小天狗と対峙し、

 

(ホントは無くても飛べるんだけど、アンタ達の真似したって言われるのは不愉快だからね、どぉ?雰囲気出てるでしょ?)

 そう言いながら両方の掌の中で、複雑に気の糸を絡ませて編み込むと、先の尖った大きなやじりのようなモノを作った。

(編み込んであれば、その御自慢の尻尾の刀でも、簡単には消せないものね!)

 

 ダラは両手を前に突き出し、やはり編み込まれた気の糸で繋がれた、その二つの大きな鏃を、小天狗目掛けて放った。

 

 小天狗はその二つの鏃の攻撃を、鏃の先端部に九尾の尻尾の刀を、左右に分かれるように軽く当てて軌道を変えると、目の前に出来た、二つの編み込まれた糸で出来た花道を、ダラの目の前まで一気に距離を詰めた。

 

 小天狗の九尾の尻尾の刀が、振り下ろされる寸前に、ダラは両手の気の糸をを消し、包み込むように翼で自分を覆い、小天狗の攻撃をガードした。

 そのまま翼の先端を尖らせ、身体は覆い隠した状態で、先端部だけを巧みに操って、小天狗に反撃した。

 ダラは巧みな気の操作で翼の先端を操り、小天狗の素早い打ち込みを全てかわし、反撃の隙を見計らっていた。

 

 小天狗が上段から打ち下ろした刀を、ダラは二本の翼の先端を交差させて受け止め、そのまま翼の先端を、小天狗の九尾の尻尾の刀に絡みつかせ、動きを止めると、翼の皮膜を支える二番目の骨の部分を伸ばし、がら空きになった小天狗の胴体に突き刺した。

 

 腹部に受けたその激痛に、小天狗は身体をくの字に曲げ、息を詰まらせた!

 

 小天狗はこれまでの闘いで、直接的なダメージを受けることがなかったが、経験則として防御の重要性を、強く感じていた。

 特にダラとの攻防ではそれを学び、それを応用、実践することを心がけており、今回はそれが役に立った!

 

 気を全身に何割纏わせる場合であっても、小天狗はその半分を防御に回すのを、基本的なスタイルとしている。

 特に接近戦においては、そのほとんどを対峙する相手に面した側に纏わせ、ヒットポイントがわかる場合には、その場所に集中させるようにしていたのだ。

 そのため、ダラの胴体部への攻撃が、小天狗を刺し貫くことはなかった。

 しかし、その勢いは凄まじく、鳩尾みぞおち近くに入った衝撃は呼吸を止め、気の乱れを誘った。

 

 刺し貫かれなかったことで、後方に押しやられる勢いがつき、九尾の尻尾の刀に絡みついた翼の先端を断ち切ったが、気の乱れは、身体を空中に維持させる妨げとなり、小天狗は落ちそうになるのをなんとか堪えて、ふらふらと地面に降りると膝をつき、九尾の尻尾の刀で身体を支えた。

 

(やだぁ!一発当たっただけよ、生意気なくせに、打たれて弱いのね〜人間って!)

 散々煮え湯を飲まされた小天狗の、ダメージを負った姿に、ダラは高らかに笑いながら、地面に降り立った。

 

 小天狗はダラを見つめ警戒しながら、細く短い呼吸で乱れた気を整え、打撲した患部の痛みを散らすため、細胞を活性化させる類いの気を、その患部周辺に集中させた。

 

(休ませてあげないわよ!)

 ダラは下げた両手に、さっきと同じように、気を編み込んだやじりを作ると、手の甲側から降り上げて投げるように、小天狗目掛けて左右交互に放った。

 二つの気の鏃は、誘導用の気の糸を引き連れ、途中までは真っ直ぐ飛んで来たが、小天狗の三メートルほど手前で左右に分かれ、高さを微妙にずらして円を描くように、腰を落とした小天狗の周りを、何周かまわった。

 ダラは小天狗の周りに巻いた、その気の糸の径を一気に絞って、小天狗を輪切りにしようとし、同時にその外側から鏃も放たれた。

 

 ダラの殺意を感じ取った瞬間、小天狗は刀の形を取っていた、九尾の尻尾のイメージを変え、長い柄の両端に半月状の刃のついた武器に変形させた。

 そして、肩にかけたその武器を、ほんの少し角度をつけて動かし前後で気の糸を切断、二つの鏃もその武器を半回転ほどさせただけで、両端の半月状の部分で弾き飛ばして消した。

 

(助かった…。でもコレ、何て名前の武器だっけ?)


 だいぶ呼吸も楽になり、負傷した場所の痛みもかなり薄れたが、気の方の回復は三割ほどで、小天狗は名も知らぬ武器を支えに立ち上がりながら、この後の戦闘への不安を感じていた。

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