第五十八話 尻尾

 標的にされた銀嶺郎は、ダラが自分の方を見た瞬間、ダラの殺意を感じ取る前に、本能的に危険を察知し、反射的に心臓より上を守るため、仰向けに後ろに倒れ込みながら、さっき覚えたばかりの飛行術で、地面スレスレに後方へと飛んで下がった。

 そのまま銀嶺郎は、後方の茂みに頭から突っ込んで、小さなすり傷だらけになったが、まさに間一髪であった。

 

 銀嶺郎が仰向けに倒れると同時あたりに、ダラの謎の攻撃が放たれ、それはまさしく銀嶺郎の首を狙ったもので、仰向けに後ろに倒れてる途中、まだ顔より上に残っていた髪を、鋭利な刃物のように切断していった!

 

 銀嶺郎の切断された髪が、宙を舞って地面に落ちるより早く、小天狗はメルラの前にまわり、

(メルラさんも下がって!出来るだけ離れてください)

 そう言って、九尾の尻尾の両端を掴んで身体の前に構え、防御の体勢を取った。

 

 

(ナニ避けてんのよ⁉︎あの小僧!アイツといいコイツといい、ホンっト鬱陶しいわ!)

 地団駄こそ踏まなかったが、ダラはまたイライラを募らせ始めた。

 

 助けに入るのには遅れたが、小天狗は見逃さなかった。

 ダラが目を見開き殺意を放った時、その大きな目と目の間の、人でいうところの眉間から光る何かが発射され、倒れて避ける銀嶺郎の髪を切断したのだ。

 その何かは、長さは三十センチにも満たない、髪よりももっと細く強度のある糸状の、刃物だと思われた。

 

(絶望するとか言っといて、白露様の三日月形の気の猿真似じゃん!)

 再び銀嶺郎やメルラに、攻撃が向けられないように、小天狗は敢えて挑発するような言い方をした。

 

(猿真似じゃないわよっ!見てなさい…)

 掌を小天狗に向け、両手を少し開いて構えると、掌から何本もの細い気の糸が、ウネウネと伸び始めた。

 言うまでもなく、コレはさっき銀嶺郎に飛ばした気の糸と同じ性質を持っており、下手に触れると切断される危険性を秘めている。

 ダラは数本ずつその気の糸を伸ばすと、いろいろな角度から、小天狗を目掛け切りかかるように操作した。

 

 無論、九尾の尻尾の霊力によって張られた、全方向の防御壁によって、気の攻撃は相殺されるが、消されるたびにまた数本の気の糸が、さまざまな方向から襲いかかってきた。

 

(あっちは省エネで、こっちはフル稼働…何か対策をしないと、マジでヤバイかも…)

 小天狗は、常に防御壁を張った今の状態の、九尾の尻尾の霊力切れを心配した。

 

 爪の攻撃の時のように、尻尾を振って気の糸を払うという手もあるが、気の糸の本数を増やされた場合、尻尾の持つ空気抵抗で、全てを払いきれない可能性がある…。

 

(この尻尾が刀だったら…)

 

 小天狗がそう考えた時、九尾の尻尾は唐突に、霊力のオーラのような光に包まれて、尻尾の毛の一本一本が、まるでその形を記憶しているかのように、刀身側と柄側に分かれ毛並みを揃えると、一本の美しい刀に変形した!

 

(マジか⁉︎)

 小天狗が右手に握ったその刀は、まるで自分の右腕が変形したかと思えるくらい軽く、その柄から切先まで、ごく自然に気が行き渡り、尻尾の持つ霊力も相まって、気で強化する前から、強度は鉄の刀以上であった。

 

 小天狗は防御壁を解除し、襲いかかるダラの気の糸を、目にも止まらぬ速さで切断。

 ダラは気の糸の数を一気に増やしたが、小天狗はその全てを、いとも容易たやすく斬り払い、切先をダラに向けて、中国拳法の形のように決めポーズを取った。

 

 

(ふざけたカッコしてんじゃないわよっ‼︎)

 そう叫びながら、ダラは開いた両手を前に突き出し、その両手から放たれた無数の気の糸は、螺旋状に絡み合い強度を増すと、先の尖った太い綱となって、小天狗に襲いかかった!

 

 綱となった気を、小天狗は片足を軸に体を半回転させて、横から一刀両断しようと、刀を振り下ろしたが、刃は途中までしか通らず、綱の重い動きに弾き返された。

 小天狗は綱の次の攻撃を避けるため、宙に飛び上がって距離をとった。

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