第五十七話 変態

 小天狗と銀嶺郎、メルラは、ダラが何をしようとしているのかが判らず、迂闊に踏み込むことも出来ずにいた。

 そのまま一分近くの時間が経ったであろうか?ダラを覆っていた厚い気の光は、徐々に薄れそして消えた。

 

「あれ?何も変わってないですよね、小天狗さん???」

 銀嶺郎の言う通り、見えなくなっていたダラの身体は、四つん這いの姿勢を取ったままで、何の変化も無かったが、唯一、眼だけが赤くなくなり白濁していた。

 

 小天狗は気の光に包まれた状態の時から、ダラの気を探り続けていたが、それは大きくなることもなく蠢き続けて、元バレ将軍の形を成さないまま、まるで溶けたかのように蠢いていた。

 

(まさか⁉︎)

 小天狗は普段から気を探る訓練がてら、動物はもちろん、鳥や魚に植物や昆虫など、いろんな物の気を見て探ってきた。

 そして、その探った気の中に、今のダラ状態にとても似た気を見た記憶があった!

 

 その時であった!四つん這いの姿勢の身体全体が、乾いた感じの色に変化すると、ゆっくりと口が開き始めた…。

 本来ならピンクであるはずの口の中も、やはり乾いた感じに変色していて、口はこれ以上開かない角度まで開くと動きが止まり、ミシミシと音を立てて裂け始めた。

 すると次の瞬間、その裂け目から指が飛び出し、中から元バレ将軍の肉体を二つ裂いた!

 

 その指の主は、避けた元バレ将軍の肉体の中から、ゆっくりと姿を現した。

 その顔は、やはりワニではあったが、バレ将軍は凶暴そうなクロコダイル顔であったのに対し、目が大きく口吻こうふんが細いメガネカイマンのような顔であった。

 中から完全に出てきた身体も、ゴリゴリの筋肉質だったバレ将軍とは違い、メルラより小さく細身の、少年のような体格をしていた。

 

(完全変態…)

 さっき小天狗が似ていると思ったのは、昆虫のサナギであった、完全変態をする昆虫はサナギの中で、一度身体を溶かしてから再構築して完全体になるという!そのサナギの気を見た時と、さっきのダラの蠢く気は酷似していた。

 

(やっぱり、自分のカラダっていいわね!)

 ダラは大きく伸びをすると、足元のバレ将軍の肉体の抜け殻を、バリバリと貪り食い始めた。

 

(未成熟な自分の身体を核に、再構築したってことなんだろうけど…そんなことが出来るなんて、バケモンだなコイツ!)

 一つの卵の中で、双子として生まれるはずだったからこそ、可能だったのかもしれないが、自分が一言で気と呼んでいるモノの、複雑で多様な可能性に、小天狗は驚きと共に、高揚感を感じていた。

 

(どうしたの?さっきみたいに急にかかって来ないの?)

 ある程度、食欲が満たされたのか、持っていた抜け殻の残骸を投げ捨てると、小天狗を大きく丸い目で見つめて言った。

 

 確かに今のダラの状態は、羽化したての昆虫のように、皮膚が固まる前の柔らかい状態のはずであるが、バレ将軍の肉体と比べてしまうと、三まわりも四まわりも小さく華奢になったため、奇襲して倒すという気持ちが起きなかった。

 

(変わったってことは、さっきまでより強くなったんだろ?迂闊には飛び込めないよ)

 半分は本音で、あとの半分は変態したことでどう変わったのか?口を滑らせてくれないか、というカマかけだった。

 

(まぁね、ちょっとだけ見せてあげようか?絶望するわよ!)

 そう言うと、ダラはおもむろに銀嶺郎の方を向き、その大きな目を見開いた。


 その瞬間、小天狗はドス黒い殺意を感じ取り、銀嶺郎を庇うために動こうとしたが、ダラが仕掛けた何かは、それより速かった!

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