第五十四話 浮遊

「凄かったですもんね白露様!一つでいいから、あのスゴイ技、教えてもらえないかなぁ?」


 銀嶺郎はついさっき身につけた、遠隔で気を操る技術で、木の枝を左右に振りながら、小天狗に話しかけた。

「銀嶺郎君も三日もここにいるつもり?」

「それはちょっとまずいかも、母さんに怒られる!」

「たぶんこのまま帰っても、怒られるだろうけどね」

 小天狗の言葉に、銀嶺郎は現実に引き戻され、木の枝を落とした。

 

(メルラさんは、これからどうしますか?)

 小天狗にそう話しかけられて、メルラは一瞬考えてから、

(もう少し、この気というものの扱いを、指導してもらいたいところだが、今は一刻も早くこの戦争を終結させ、犠牲者の数を減らさねば!)

(そうですね!でもあと一つだけ、飛ぶコツを教えてもいいですか?)

(それはありがたいが、そんなに簡単に身につけられるものなのか?)

(たぶん、今のメルラさんなら直ぐに!)

 

 小天狗は見本として見せるため、まず自分の全身を薄い球体の気で覆った。

(別に球体にする必要はないんですけど、この方がわかりやすいと思ううんで…)

 

 説明する小天狗の後ろでは、既に空中浮遊を身につけている銀嶺郎も、同様に薄い球体の気を纏っていた。

 メルラは二人の気の形を、見たままに真似することを意識した。

 すると、メルラの角が発光し、その光が球体になってメルラを包んだ。

 

(いいですね!あとはさっきの石の時と同じで、球体を上に引き上げれば、身体が浮きます)

 小天狗と銀嶺郎がふわりと浮かび上がり、それを見たメルラも、恐る恐る自分の球体を引き上げてみた。

 既に球体の中にいるせいであろうか?さっきの石を持ち上げるより軽く、身体が宙に浮かび上がった。

(浮いてる…)

 自身がやったことではあるが、その経験したことのない浮遊感に、メルラは驚いた。

 

「気を抜くと落っこちますよ!」

 銀嶺郎は自分の失敗を思い出し、メルラに忠告した。

 

(あとは、自分の行きたい方向に、球体を引っ張るか、もしくは押すかすれば、空中を移動出来るはずです)

 

「ああ!なるほど」

 飛び方までは教えてもらってなかった銀嶺郎が、また先に返事をしたかと思うと、高く浮かび上がり、横方向に一気に飛んで行った。

 

 浮く感覚に不慣れなメルラは、その高さのまま、前に軽く球体を押す感じを、意識してみた。

 すると、メルラの纏った球体は、浮いたままゆっくり前に移動して止まった。

 

(やっぱり出来ましたね!あとは慣れるだけです。俺は基本的に足で蹴って勢いをつけてから、その勢いを引っ張る感じで飛んでますけど、慣れれば自分なりのやり方が、見つかると思います)

(このような特別な技術のご教授、何とお礼を言っていいものやら、小天狗殿、本当に感謝する)

 メルラは地に降りると、纏っていた気を解いて、小天狗に深く頭を下げた。

 

 そこに銀嶺郎が、落ちてくるような勢いで降りて来たので、小天狗は落下地点に気の幕を張って、銀嶺郎の勢いを殺すように受け止めた。

「すみません…小天狗…さん…」

 銀嶺郎は肩で息をしながら、なんとかそれだけ言うと、その場にへたり込んでしまった。

 

(メルラさん、気の調整や配分を間違えると、こんな風になるので、気をつけて!)

 そう言って小天狗は、いい悪い見本が見せられたことに、少し苦笑いをした…。

 

 

(アレとその側近たち、どうしますか?)

 氷漬けのバレ将軍を親指で指差して、小天狗はメルラに聞いた。

(一度陣営に帰ってから、兵を連れ引き取りに来ることになるが…それでよいであろうか?)

(ええ、俺、三日はここにいますから)

 小天狗がそう言って笑った時であった!

 

 その場の空気が一変し、一瞬だけだが冷たく強い気が波紋のように広がり、それと同時に、ミシっという音が響くと、続けてミシミシ、ペキペキという氷がひび割れる音が、小天狗とメルラ、銀嶺郎の意識を氷つかせた!

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