第五十三話 指導
(メルラさん、ヴィーを探してみてもらえますか?)
小天狗はメルラに、気での探知を試させてみたくなり、そう声をかけてみた。
(ヴィーを?何故いきなりそんなことを?)
小天狗の意図は全くわからなかったが、メルラはさっき目を閉じていた時に見た、視界がパッと明るくなった感覚を思い出し、ヴィーを探してみた。
すると、この山の麓に広がる林のある場所に、ヴィーらしきシルエットを感じ取れた。
(まさか⁉︎どうして私にこんなことが…?)
(メルラさんが元々持っていたけど、何らかの理由で閉じ込められていた力の蓋が、白露様の導きで開いたんだと思います!)
(うむ、私の角と似た性質なのかも知れぬ、其方と最初に話をした時に、淡く微かに共鳴するものを感じたのじゃ)
小天狗と白露の説明に、メルラは王族に角が必要な理由が、この能力の発動に関係していることに気づいた!
王族の角は飾りではなく、それ自体が力があることの証で、声を出さずとも話せるが故に、角が生えなかった者たちには、それを理由に王族の資格を剥奪することで、角の持つ能力を秘匿したのではないだろうか?
(では、今の私には他にも出来ることが…)
それを聞いていた銀嶺郎が、
「そこの石、持ち上げられます?やり方は、手がそのまま伸びてく感じを想像して、石に触れたら握って、それを持ち上げる的な感覚で」
と、自分はまだ持ち上げられないくせに、感覚任せな難しい気の操作方法を、メルラに伝授した。
(手がそのまま伸びる…)
メルラは素直にそれをイメージした。
すると、気が手の形のまま伸び、それを初めて見たメルラは、手の平を返して動きをつけてみた。
メルラの気は、マジックアームのように、メルラの意思通りに動き、コツを掴んだのか?そのまま伸ばし、躊躇することなく目当ての石を掴んだ。
手に石の感覚が伝わり、その形までが感じ取れた。
(これって、あの時の追手の円盤使いが、やっていたことなのでは…?)
(ええ、やってることは近いですね、そのまま持ち上げられますか?)
小天狗に促され、メルラは掴んだ石を持ち上げようとした。
石自体は気の手の中に、すっぽり隠れる大きさであったが、まるで根でも生えているかのように重く、全く持ち上がる気配すらみえず、困り果ててメルラは小天狗を見た。
「やっぱ持ち上がらないですよね!」
自分も出来なかった銀嶺郎は、仲間が出来て安心した様子で、メルラに声をかけた。
(メルラさん、気を伸ばしたまま持ち上げようとするんじゃなくて、伸ばした気とは別に、石を掴んだ手の甲を意識して、上に引き上げる感じで!)
小天狗のアドバイスを聞いて、その通り意識して実行してみると、石は簡単に持ち上がった!
あまりにあっさり出来たことに、目を丸くして小天狗に話しかけようとしたメルラより先に、
「そっかぁ!空中浮遊とおんなじかぁ!」
天をあおいで銀嶺郎が叫んでいだ。
そして、少し前にはあんなに苦労しても出来なかった、伸ばして掴み持ち上げるという気の操作で、近くの木の枝を掴み、造作なく持ち上げて振りまわすと、
「やっぱ小天狗さん、スゲェわ!」
と、小天狗に羨望の眼差しを送った。
メルラに気の扱いをアドバイスしながら、小天狗は徐々に小さくなる、白露の気を感じていた。
バレ将軍(ダラ)との戦闘で大技を連発し、メルラを覚醒させたことで、白露の気の消耗はかなりのものであり、完全な姿である巨体を、維持することが難しくなっていた。
(白露様、大丈夫ですか?)
(戦闘自体何百年ぶりじゃったからの、年甲斐もなく少し頑張り過ぎたようじゃ)
小天狗の問いかけに、白露は正直に弱音を吐いてから、徐々に身体を縮小させ始めた。
メルラは何が起きているのかがわからず、
(白露様⁉︎まさか私に力を与え過ぎて!)
そう言って、小さくなってゆく白露に近づいた。
(安心せい、其方の角の根を開くきっかけは与えたが、力を与えることはしておらん!これは単に気力切れじゃ…)
そして白露は、小桜が呼ぶ「はーちゃん」の時のサイズにまで、小さくなった。
(しばらく眠ることになるが…小天狗、三日ほどここを任せてもよいか?)
白露は小桜山のお社の中に入ると、小天狗にそう依頼した。
(ハイ、場所は違っても俺は、結界を護る御神獣の弟子ですから!)
何の躊躇もなくそう答えた小天狗に、
(すまぬな、礼は起きてから、改めて言わせてもら…う…)
白露は礼を言いながら、深い眠りに落ちていった。
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