第五十二話 覚醒

終わったみたいですね!」

 銀嶺郎は近づいて来ると、氷詰めのバレ将軍の肉体に駆け寄った。

「うわっ、近くで見るとデカいし、顔も凶暴そうで怖いですね、おお〜っ、この爪も怖っ!」

 と、持ち前の好奇心を発揮して、いろいろな角度からバレ将軍の肉体を観察した。

 

 隠れていたメルラも白露の元に駆け寄り、

(白露様、目は大丈夫ですか?)

 と、心配そうに白露を見上げた。

(大事ない、時間をかければ修復し、再生出来るはずじゃ)

 白露のその答えにメルラは安心し、同様にそれを聞いた小天狗も安堵した。

 

(それよりメルラ、其方を見て気になっておったことがある…)

 そう言うと、白露は頭を下げてメルラに近づけた。

(私の額に其方の額を合わせてみよ)

 メルラはよく意味がわからなかったが、白露に言われた通りに、自分の額を白露の額に合わせた。

 

 側で聞いていた小天狗と銀嶺郎は、何が起こるのかと、二人に少し近づいて、小天狗は気の流れを観察した。

 

(やはりな…メルラよ、このまま私に身を任せておれ)

 白露の言葉に小さく頷くと、メルラは目を閉じた。


 しばらくすると、白露の角が銀色に光り始め、白露とメルラが合わせた額も同様に輝き始めた。

そして、白露からメルラへ、闘気や癒しの気とは違う、眼縛の時に感じた不思議な気に近い、神秘的な気が送られているのを、小天狗は感じとった。

 

 メルラは白露から送られてくる温かい何かが、身体の全ての神経の隅々まで流れ込んで、自分の全細胞に拡散していくような、そんな感覚にとらわれながら、自分の両耳の上の後頭部の近くに、熱い何かを感じていた。

 

 その心地よい感覚に浸っていると、熱い何かを感じていた部分に、ほんの一瞬刺すような痛みが走り、次の瞬間、目を閉じているのに、視界がパッっと明るくなって、白露や小天狗、銀嶺郎の姿が、シルエットの状態ではあるが、感じて見えるようになっていた。

 

(思った通りじゃ!)

 額を離し語りかけてきた白露の声で、メルラはゆっくりと目を開けた。

 不思議と身体が軽くなり、自分の意思に全ての部位が呼応してくれるようなそんな感覚に、何故か手を開いて見つめていると、

(メルラさん、それ…)

 小天狗が驚いた声で話しかけてきた。

 

「ツノ生えちゃってますよ!メルラさん」

 何故かさっきまで理解出来なかった、銀嶺郎の声さえ聞こえ、その内容にメルラ自身も驚いた!

ツノ⁉︎)

 両手を上げ自分の頭を触ってみると、ちょうどさっき痛みを覚えたところから、硬い棒のようなモノが突き出ていた。

 

(見るがいい)

 白露が自分の胴体の前に、丸い平らな鏡面の気を張ると、それをメルラに向けた。

 

 鏡の中にいたのは、所々血の跡や埃で汚れてはいるが、赤紫色の肌に金髪の、見慣れた自身の姿でしかなかった。

 しかし、少し頭を下げてみると、たてがみのように生えた金髪を挟むように、後頭部の近くから真っ直ぐ伸びた、十五センチほどの真っ白い二本の角が、そこにはあった!

 

 それは鱗王の国では、王族として生まれた者が、本来なら成長期までに生えるはずの、王族としての証であり、角が生えなかったことで、王族の身分を剥奪され、養女に出されたメルラにとって、渇望して絶望した屈辱の象徴であった。

 

 いまさら角を持つことの意味が、どれだけあるのかはわからない…。

 ただ、王族としての身分が戻されれば、この戦における自分の報告に、少なからず信憑性が増すことになるだろう!

 

(何故それが今まで生えなかったのか、理由はわからぬが、その角の根ががあったおかげで、私や小天狗と話が出来たようじゃ)

 白露のその説明を聞いて、小天狗はようやく合点がいった。

 メルラは気を操るすべを身につけていないのに、何故か最初から自分と話が出来た。

 メルラはまだ気付いていないようだが、角が生えたことで、メルラの気の練度は飛躍的に上がっていた。

 今のメルラならコツさえ教えれば、宙に浮くことさえ造作なくこなせるはずである。

 

白露様もそうだけど、スゲェな角って!)

 周りには聞こえないように、小天狗は感心の言葉を漏らした。

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