第五十一話 決戦

やっぱダメだったか…)

 小天狗は折れた木刀を投げ捨て、両の手を数回、開いて閉じてを繰り返してから軽く握り、充分気を纏わせると、顔の前で腕を交差させてから、左手を前の半身に構えた。

 

(本当に鬱陶しいわねアンタ!)

 ダラは語気を強め、怒りに任せ全身の闘気を一気に上げると、背中以外の焼け焦げた皮膚は、ひび割れ小さく弾けて崩れ落ちた。

 ダラの皮膚は背中同様、焼け焦げる前より艶やかで明るい色合いに変わっていた。

 

(もし、脱皮直後って感じなら…)

 小天狗は再びダラの前まで飛び出すと、目にも止まらない速さで、パンチの連打を繰り出した。

 対してダラはガードの形をとりながら、小天狗のパンチがヒットする部分だけ、防御の気を張ってしのいだかと思うと、ほんの少しだけ口を開け、至近距離でマシンガンのように歯を吹き出した!

 

 しかし、パンチという直接攻撃を繰り出しながらも、小天狗はダラの気を探っていたので、マシンガン攻撃も予測済みで、踏み込みながら身体を沈め、ダラの視界から消えたと同時に、顎に右アッパーを打ち上げた。

 

 もちろん、また防御の気で防がれはしたが、そのアッパーの威力で、ダラの巨体は少しだけ宙に浮いた!その機を逃さず、小天狗はダラのボディに回し蹴りで、強烈な足刀をぶち込んだ‼︎

 その勢いは凄まじく、ダラの巨体は宙に浮いたまま、数メートル後ろの木まで飛ばされると、ぶつかって大きく木を揺らした。

 

(あぁ〜もぉ、鬱陶しい、鬱陶しい、鬱陶しいぃ〜!)

 そう叫びながら、何事もなかったかのようにダラは立ち上がり、小天狗を睨みつけた。

 そして、両の手を左右に広げ、唸り声のような息を吐きながらそこに気を集めると、両指の爪が徐々に伸びはじめ、十五センチほどになった。

 黒光りするその鋭い爪には、硬化の気が集められ、見た目以上の危険な雰囲気を放っていた。

 

(後悔しても遅いからね!ズタボロに切り刻んであげるわっ‼︎)

 その言葉を言い終わると同時に、両腕を下げて広げた状態で、小天狗目掛けて飛び込んで来た!

 そして、自分の間合いに入ると、目にも留まらぬ速さで、両腕を縦横無尽に振って斬りかかった。

 その攻撃の全てを、小天狗は紙一重でかわしはしたが、いかんせん得物を持たない状態では、相手の間合いの方が長いため拳も届かず、懐に踏み込もうにも、その隙がなかった。

 

(小天狗、跳べ!)

 白露の声に、小天狗は一瞬の躊躇もなく、一気に数メートル跳び上がった。

 跳び上がる小天狗の足を掠めるかのタイミングで、白露はダラ目掛けて巨大な火球を発射していた。

 火球はダラの全身を包み込んだが、今回は無防備に受けたりはせず、冷却された防御の気で自身の身体を包み防いだ。

 

 火球の炎でダラの視界が妨げられている間に、今度は凝縮した白い雲のような球を作ると、続けざまにダラ目掛けて発射した。

 白い雲のような球体が当たると、ダラの全身を包み込んでいた炎は一瞬で消えた。

 

(炎が消えた?何で⁉︎)

 ダラが、そんな疑問を感じた次の瞬間、炎の防御のために張っていた、気の冷却機能以上の冷気が、一気に身体の中に流れ込んできた!

 

(しまった!炎は罠か…)

 

 ダラは慌てて、防御の気の性質を変えようとしたが、身体の内部への冷気の浸透速度は早く、身体の外部は既に氷で覆われ始めており、変温動物である人型爬虫類のダラの肉体は、その活動を停止し、冬眠状態に入りかけていた。

 

 結局、気の性質変化は間に合わず、厚い氷に閉じ込められたダラの肉体は、完全に冬眠状態に入り、氷のオブジェのようにそこにあった。


(眼縛にかかったバレ将軍のものも含め、気が消えましたね)

 小天狗は慎重にダラの気を探ったが、全く感じ取れなくなっていた。

(眠っておるだけじゃから、この者の脅威が去ったわけではないが…この氷は数日は溶けぬゆえ、後はメルラに任せるしかないの)

 

 白露と小天狗は高めていた気を戻し、やっと緊張感から解放された。

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