第五十話 強靭

 血の流れる左眼は閉じていても、白露は冷静にダラに乗っ取られたバレ将軍を観察し、考えていた。

 

(さっきまでの防御や、今の爪の攻撃を見ても、此奴は気の操作がおそろしく上手い…その上、あの肉体を手にしたとなると、私だけでは勝てぬやも…)

 ダラに聞かれないように、心を閉じて考えていたのだが、

(白露様、格闘の方は俺が担当するんで、他の面倒な方はお願い出来ますか?)

 と、まるで聞こえていたかのように、小天狗が話しかけてきた。

 

(あら、そんな弱っちい肉体カラダで、コレ、、とやり合うの?それって自殺行為よ)

 ダラは、バレ将軍の胸を軽く叩き、小バカにした口調で小天狗に言った。

 

 確かに、鍛え上げられた大型レスラーの肉体に、硬いワニ皮を纏った相手から見れば、人間の、それも成長途中の高校生の小天狗の肉体は、弱っちく見えるのであろう。

 しかし、そう言われたことで逆に、小天狗の闘志に火がついた!

 

(だったら自殺させてみろよ、オバサン!)

 

 小天狗が天狗の弟子になり、気を操る術を覚えてから一度だけ、師匠の前で一時的に気を最大に高めることを試したことがあった。

 一年ほど前のことではあるが、とりあえずそれを自分のマックスとして、経脈に流す気の基準としている。

 ちなみにこれまでは、三割ほどを全身に纏わせ、瞬間的に上げ下げしていた。

 こちらの世界に来て、一番上げたのは黒曜丸との立ち合いの時の五割である。

 

(あの時は短かかったけど、ベースを五割にして、あとは臨機応変に上げる感じかな?どれくらいキープできるかわかんないけど、出し惜しみは無しだ!)

 闘気を一気に上げた小天狗に、白露は一瞬怯むくらい驚いた。

(其方、まだそんなに力を、秘めてていたのか⁉︎)

 

 驚いたのはダラも同様だったようで、

(何アンタ、速いだけじゃないの⁉︎)

 とっさに少し腰を落とし、小天狗からの攻撃を警戒し身構えた。

 

 当の小天狗はというと、木刀の心配をしていた。

 黒曜丸や蘇童将軍が持つような、気との相性に特化した刀であれば、まるで身体の一部のように、気を纏わせ強化することも難しくはないが、この借り物の木刀では、強すぎる気についていけず、逆に脆くなってしまうのである。

(殴り合いは避けたいよな…掴まったら面倒だし…)

 そう考えていたその時、背後の白露の気の波長が変わったので、小天狗は振り返ることなく、身を低くした。

 

 白露の角が今度は金色に輝き、大きく開けた口から白く発光する球が、ダラに向かって発射された。

 白い発光球は、元バレ将軍のダラの肉体に当たって弾け、白い光が全身を包み込むと、ダラの肉体は震えるように細かく痙攣して、そのまま大の字に後ろに倒れた。

 倒れてからもダラの肉体は、しばらくビクンビクンと痙攣が続き、辺りには焦げたような臭いが広がった。

 

(あぁ〜すっごい!)

 

 黒く焼け焦げたダラの肉体は、おもむろに上半身を起こし、ブルブルっと身体を震わせると、

(攻撃ってのを初めて受けてみたけど、痛いったらありゃしない…ああ〜ムカつく!)

 と、金色に輝く眼で白露を睨みつけた。


(今の攻撃を、まともに受けても効かぬとは…)

 おそらく雷に似た高圧の電撃であると思われるが、それを防御することなく耐えられたことで、さすがに落胆の色を隠せない白露であった。

 

(お返しさせてもらうわよ!)

 そう言って背中を向けると、焼け焦げたダラの背中はひび割れ、爆発した!

 と同時に、無数の細かな破片が散弾の弾のように、白露と小天狗目掛けて飛んできた!

 

 背中を向けられたことで、白露と小天狗は一瞬何をするのかを見てしまい、防御の気を張るタイミングが遅れ、なす術もなく散弾の前に晒されてしまった。

 

 その時である、小天狗が首に巻いた九尾の尻尾が光り、小天狗を包むように光りの壁を張って、散弾を弾いた。

(ヤバっ…また助けられた!そうだ、白露様は⁉︎)

 小天狗の後ろにいた白露は、その光りの壁からはみ出た身体の数カ所に散弾を受けたが、いずれも大きな裂傷にはならず、致命傷は免れていた。

 

 爆発したかに見えたダラの背中であったが、実際にはワニ特有の硬い背中の鱗を、気で飛ばしただけで、焼け焦げた肉体の背中だけが、新しい表面を見せ艶やかに光っていた。

 

 間髪入れず、小天狗は飛び出すと、その背中に気を纏わせた木刀を打ち下ろした!

 しかしながらダラは、まるで見えているかのように、木刀が当たる部分に防御の気を、ピンポイントで張って強化した!

 その瞬間、木刀は真っ二つに折れ、その折れた木刀が地面に落ちる前には、小天狗は元いた場所まで引いていた。

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