第四十ハ話 バレ将軍

 幅広の菜切り包丁を大きくしたような刀を担いで、ゆっくりと出てきたバレ将軍は、白露の十メートルほど手前で止まり、

「御神獣さん自らお相手してくれんのか?嬉しいねぇ」

 舐めるように、改めて白露を観察した。

 

(ここに何用じゃ?)

 頭の中に白露の声が響き、バレ将軍は一瞬驚いた表情になったが、

「さすが御神獣、話も出来るとは!」

 逆に嬉しそうに答えた。

「前に戦った狒々の親玉が、ここに別の世界に通じてる穴があるって、命乞いしながら教えてくれてな、まぁ結局、そいつは殺しちまったけどな」

 そう言いながら、肩にかついだ幅広の刀を下ろし鞘を握ると、胸の前で腕を左右に広げて刀を抜いた。

 そのまま鞘を足元に投げ捨て、刀を下げた状態で無造作に構えた。

 

「俺から行こうか?それとも、そっちから来るか?」

 挑発するかのように、バレ将軍は白露を煽った。

(来てもらわなくて結構!)

 白露は正面にバレ将軍を見据えると、カッと口を開いて、さっきも使った三日月状の気の刃を、今回は三連発で放った。

 

 バレ将軍には、気の刃が見えていないのか?避けるそぶりも見せず首を傾げた。

 白露の放った気の刃は、首、心臓、腹を目掛け飛んで来ており、特に首は鎧で守られてもいなかった。

 そして、気の刃が当たった瞬間、バレ将軍の身体は微動だにすることなく、気の刃は弾かれて消えた。

 

「オイオイ何やった?鎧が切れちまったじゃねぇか!」

 バレ将軍はその大きく長い顎ゆえ、少し見ずらそうに鎧の裂けた部分を触り、不満気に文句を言った。

 

 気が目視出来る白露と小天狗は、その一瞬の出来事を見逃さなかった。

 バレ将軍自身は、既に強大な闘気を身に纏っていたが、それはあくまで闘気であり、パワーを出すための、エネルギーのようなものである。

 しかし、三つの気の刃が当る寸前、その三ヶ所の皮膚の表面にだけ、防御の気が張られたのだ!

 しかも、バレ将軍自身の闘気は、その瞬間に全く揺らぐこともなく、身体が勝手に自己防御したのであった。

 

(何だったのじゃ今のは⁉︎)

 白露は、自分の技が効かなかったことよりも、その不思議な防御に驚いていた。

(あいつも、こんな尻尾でも持ってるんですかね?)

 小天狗は自分の首に巻いた、九尾の尻尾に触れながらつぶやいた。

 ただ、九尾の尻尾は、持ち主が無防備な状態で、生命の危険が迫った時にだけ、その霊力で全身を護ってくれる。

 

(いや、今のあれはもっと…そう、別の何かの意思が働いたような…)

 と、白露が考えを巡らせかけた、その時、

 

「ボーっとしてんじゃねぇよ‼︎」

 バレ将軍の闘気が一気に上がり、その巨体に似合わない速さで、斬りかかって来た!

 

 白露が防御の気の盾を張るより早く、飛び込んで来た小天狗が、気を纏わせた二本の木刀で、振り下ろされようとしていた幅広の刀を叩き、軌道を変えると、次の瞬間には、大きく距離を取って離れた。

 

「おお〜っ!ちょこまかと速ぇなぁ人間」

 白露以外にも楽しめそうな相手を見つけ、バレ将軍は嬉しそうにそう言った。

 

(すまぬ小天狗、助かった…)

 あのタイミングでは、完全な防御の気の盾を、張れていなかったことを自覚している白露は、素直に小天狗に礼を言った。

(いえ、危ない時はお互いさまですよ!ただ木刀が一本いかれちゃいましたけど…)

 自分では充分に気を纏わせて、強度を上げたつもりだったが、バレ将軍の幅広の刀の方が強度に勝っていたようだ。

 とりあえず、残った一本に二本分の気を纏わせはしたが、どこまで持つものやら…。

 小天狗はバレ将軍の底知れぬ強さに、少しだけ逃げ方も考え始めていた。

 

 バレ将軍は刀を構え直すと、白露の胴体をぶった斬るほどの勢いで、真横に薙ぎ払うように斬りかかった。

 しかし今度は、刀の軌道上に気の盾をしっかり張って、刀を受け止めると、その力の波動を気の盾に流し増幅して、受け止めた刀にその波動を打ち返した!

 刀は跳ね返され、バレ将軍は刀を握ったまま、後方へ弾き飛び尻餅をついた!

 

「御神獣もやるじゃねぇか⁉︎」

 そう言って、すぐさま立ち上がり、刀を上段に振りかぶって身体を反らすと、そのまま振り下ろす勢いのまま、白露に向かって投げつけた。

 刀は大きく縦回転しながら飛んで行き、白露は再び気の盾で受け止めたが、気の盾を張った頭が刀の勢いに押され、大きく後方に持っていかれてしまい、白露は胴体の防御がガラ空きになった。

 そこを見逃すことなく、バレ将軍は足元に投げ捨ててあった刀の鞘を、白露の胴体めがけて蹴ると、鞘はロケット弾のように、低い弾道で白露の胴体にぶち当たった。

 

 無防備な胴体に強烈な一撃をくらい、白露は大きな口を開けて倒れ、苦痛にのたうった。

 小天狗はすぐさま白露の前にまわり、木刀を正眼に構え、バレ将軍の次の攻撃に備えた。

 

 しかし、バレ将軍は、

「当たったよ!めっちゃ苦しんでるじゃねぇか⁉︎御神獣さまがよ〜‼︎」

 と、腹を抱えて大笑いしていた。

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