第四十二話 合流

小桜山の山頂。

 倒した鱗王兵の亡骸なきがらを、白露は不思議な力で宙に浮かせ、少し離れた茂みの後ろまで運んで隠した。

 

「それ、ボクにも出来ますか?」

 持ち前の好奇心を発揮して、銀嶺郎が白露に聞いた。

(さぁな?其方には角が無いからの)

「え?それやるのに、角がいるんだ⁉︎」

(と言うより、この力が強くなるにつれて、角が大きくなったのじゃ)

「角が生えてくるのはちょっと困るなぁ…」

 腕組みをして真剣に悩んでいる銀嶺郎を見て、

(緊張感のないヤツじゃな…)

 と白露は笑い、話を続けた。

(この方法でなくとも、其方は器用に気を操れるのじゃから、伸ばした気で物を掴んで運ぶことも出来るのではないか?)

 

「そうか、やってみよ!」

 そう言うと銀嶺郎は、ムチにする時の要領で両手の気を伸ばし、近くにあった握り拳くらいの石を掴んだ。

「ふんっっ!」

 と、気合いを入れて持ち上げようとしてみたが、石はピクリとも動かなかった…。

 気をムチにしてこの石を割ることなら、簡単に出来るのだが、掴んで持ち上げるとなると、まるで勝手が違うようだ。

 銀嶺郎はガニ股で両手を前に出した格好で、顔を真っ赤にして、プルプル震えながら、腕を上げ下げすることを続けた。

 

「何やってんの?」

 

 頭の上から声が聞こえ、銀嶺郎が顔を上げると、メルラを背負った小天狗が、ゆっくりと舞い降りてきた。

 

「小天狗さん!」

 石を持ち上げるのを止め、嬉しそうに小天狗に近づこうとした銀嶺郎であったが、メルラに気付き…、

「誰っ⁉︎もしかして捕虜にしたとか?」

 そう言いながら、足を止めてメルラを観察した。

 

 小天狗はメルラを背中から下ろすと、メルラ自身にも聞こえるように、

(白露様、銀嶺郎くん、彼女はメルラ、鱗王軍の将校さんです)

 と、紹介した。

 

 メルラは目の前にいる、角の生えた白蛇の大きさに驚きはしたが、同じ爬虫類ゆえにわかる、敵意のないその眼差しに、どこか暖かさを感じた。


(メルラと申すか、私は白露、このお社を護る番人じゃ)

 白露に話しかけられ、メルラは白露を見た時以上に驚いた。

 鱗王の国にも巨大なトカゲや蛇、そしてメルラは見たことはないが竜もいる。

 しかし、それらが言葉を解し話すというのは、物語でしか見たことがなかったからだ。

 

(失礼致しました。ハイ、鱗王軍指揮官メルラと申します)

 メルラは白露に対して、目上の者に対するように、丁寧に自己紹介した。

 そして、小天狗からは聞けなかった、この場所について聞くことにした。

 

(白露様、先程このお社を護る番人と言われてましたが、こちらはどのような場所なのでしょうか?)

 メルラの質問に、白露は少し意外そうな表情を浮かべ、

(小天狗は教えてくれなかったのか?)

 と、小天狗を一瞥した。

(俺はこの国の人間じゃないですから…)

(正確には、この世界、、のじゃろう)

 

(この世界の⁉︎)

 メルラはその言葉が引っかかり、小天狗と白露のやりとりに割って入った。

(それはどういう意味ですか?私の質問に何か関係が⁉︎)

 

(ああ、それが答えじゃ)

(答え?)

 そう言われても、メルラには直ぐにはその答えの意味が見いだせず、頭をフル回転させて考えた。

 この世界というのは、鱗王、刃王など全ての国を含めた世界のことのはず…。それらの世界のある大陸とは別に、海を隔て他にも大陸があるとは聞く。その大陸のことなのだろうか?それとも…。

 

 メルラの混乱を感じ取った白露は、

(ここは別の世界とつながる穴を、結界でふさいだ場所じゃ)

 隠さずメルラに説明した。

(別の世界とつながる穴⁉︎では、小天狗殿は…)

(ハイ、別の世界から来ました)

 

 刃王の国にこのような場所があるとは、メルラには初耳であったし、メルラが知る限り、鱗王の国にそのような場所は無い。

 しかし、白露と小天狗の話によると、時々他国の不謹慎なやからが、別の世界に行こうと侵入したり、実際に通り抜けた者達もいるらしい。

 

(と言うことは、バレ将軍の隠密行動の目的は、この場所を奪って、別の世界への侵攻の拠点にすることか!)

 

 鱗王陛下の指示であれば、このような重要拠点は、全軍をもってして攻め込んでいたはずである。やはり今回の隠密行動は、十中八九バレ将軍の独断か、裏で指示した黒幕がいる!メルラはそう確信した。

 

(お教えいただき、ありがとうございます、やっと全てに合点がいきました)

 そう言ったメルラに、白露は問うた。

(で、其方はどうするつもりじゃ?ここを奪おうとする者に味方するのか?それとも…)

(彼奴らは国の恥です!そして、命を賭して戦った者たちのかたきです!)

 白露と小天狗はその言葉に、メルラの抑えきれない強い憤りを感じた。

 

(こんなことのために、ジレコは…)

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