第四十一話 好感

(もう始まってるのかよ⁉︎)

 

 そう思った時には、白露が気でなんらかの攻撃を放ち、鱗王兵の気が一つ消えた。

 それと同時に、一斉に他の三つの気が白露と銀嶺郎に接近、一瞬、白露の気が不思議な波長に変わると、二つの気が動きを止めた。

 銀嶺郎の闘気も、小天狗の知る動きを取ると、ほどなくもう一つの気が消えた。

 

(マジか?秒殺じゃん!)

 戦闘と呼ぶにはあまりの短さに、小天狗は驚くしかなかった。

 

(秒殺とは…何のことだ?)

 心の声が聞こえていたメルラは、急に小天狗が何を言い出したのかわからず、聞いてきた。

(もう始まってるとも、言っていたが…)

 

 メルラのその質問の直後、白露に近くで動きを止めていた二つの気が、パッと一瞬だけ解放されると、徐々に薄れて消えていった。

 

(あ!その…そちらの同胞の方たちが、これから行こうとする場所を、襲撃されたみたいで…)

 その結果があまりに圧倒的だったので、小天狗は妙に丁寧な言い方をしてしまった。


(手遅れだったのか…申し訳ない)

 メルラは心底申し訳なさそうに言った。

(いえ、四人ほどでしたので、なんとか撃退は出来たみたいです…)

(そうなのか?それは良かった。しかし、まだバレ将軍を含め、十数人ほどの精鋭がいるはず…)

 そこまで言って、メルラは自分がバレ将軍の名を、口にしてしまったことに気付き、

(しまった!私は将校失格だ…)

 と、落ち込んだ。

 

(大丈夫ですよ、いずれはわかることかもしれないけど、アイツには教えませんから!)

 ちらっと鬼灯の方を見てそう言うと、小天狗はそのバレ将軍たちの気を探ってみた。

 

 確かに小桜山の麓に、ひときわ大きく少し複雑な気を持つ者を含めた、十三人の鱗王兵の気があった。

(あと十三人か…ちなみに、そのバレ将軍ってどれくらい強いのですか?)

 と、ダメ元で聞いてみた。

 

(詳しくは教えられないと言うより、いろいろ謎が多くわからぬのだ…数百の敵を一人で倒したとか、竜と対等に渡り合ったとか、その強さを伝える真偽不明の噂だけが一人歩きしている。戦場では一度も負けたことがなく、その功で将軍にまで登りつめた。ただ…)

 そこまで話すと、メルラは口を濁し、そして、心の深い部分で続けた…。

(汚いやり口や残忍な手口も厭わない、そういう噂も絶えないし、実際今回も…)

 

(ありがとうございます!桁外れの強さなのはわかりました。なら、一刻も早く俺も戻らないと…)

 これまで話してきて、小天狗はメルラに好感を持っていた。全く違う種でありながら、考え方や価値観において、鬼灯などよりずっと共感出来た。

 しかし…そう、メルラは全く違う種なのである。

 それも、自分の苦手な爬虫類なのに、好感を持ったが故に、小桜山に一緒に連れて行く約束をしてしまった…。

 一緒にとなると、抱き抱えるかおぶってかの、どちらかで戻ることになる。

 ということに今更思いあたり、小天狗は急に緊張し始めた。

 

 小天狗はメルラに聞こえないように、

(抱き抱えるのは…無理だよなぁ…。となると、おんぶかぁ…)

 と、頭の中でシュミレーションしてみた。

 メルラは甲冑を着ているので、おぶれば覗き込まれない限り、指先以外はメルラの肌を見ないで済む、小天狗は腹を決めた。

 

(じゃ、行きますか)

 小天狗が声をかけるとメルラは、

(ヴィーはどうしたであろうか…?)

 独り言のようにつぶやいた。

(ヴィーって…ああ!一緒に連れてた鳥っぽい乗り物ですね。ちょっと探してみます)

 小天狗はヴィーの気を思い出しながら、波紋を広げるように探索をかけた。

 すると、八百メートルほど離れた場所で、ヴィーはじっとしていた。

 幸いなことに、気が弱っているようには感じられないので、そのままメルラに伝えた。

 

(良かった…無事に戻れたら、迎えに行ってやらねば!)

 心底嬉しそうなメルラの言葉を聞いて、

(その時は、近くまで連れて行きますよ)

 小天狗はつい、そう言ってしまい、自分自身に少し呆れてしまった…。

 

 小天狗は鬼灯に対し、

「じゃ俺たちは小桜山に行くんで、キミも来たければ来るといいよ。ただ、さっき相手した連中みたいなのが十二人と、それ以上の化け物が一匹いるらしいから、自分の身は自分で守ってもらうことになると思うけど」

 牽制とも取れる言い方でそう告げた。

 

(それじゃ、背中におぶさってもらえますか?)

 

 小天狗に促されたメルラは、人間に背負われることになった、己れの運命の不思議さを改めて感じるとともに、転んで足をくじいた時に、ジレコにおぶってもらった、幼き日のことを思い出し、ジレコのためにもという思いを強く抱いた。

 

 小天狗はメルラを背負うと、軽く地面を蹴って飛び上がり、宙に浮かんだ。

 

 (浮いてる⁉︎)

 小天狗が空から降ってきたのを、メルラも見てはいたが、追手のリーダーとの戦闘時の飛行は、死角で見えなかったため、小天狗は優れた身体能力で、樹上を走れるのだと思っていた。

 

「じゃ」

 と、鬼灯に一言だけ声をかけ、来た時同様、宙空を滑るように小桜山を目指した。

 

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