第四十話 眼縛

白露に向かって走り出した鱗王兵たちは、一気に白露との距離を詰めた。

 

 白露が二人の方に首を向けて見た時には、マダラ模様のトカゲ頭は、地面を強く蹴って飛び上がり、白露の頭を狙って、両手で握った剣を大きく振りかぶっていた。

 一方、イグアナ頭は、短い薙刀のような刀の長い柄を腕を広げて持ち、左足を前に身体を低くして滑り込み、刀を寝かせて白露の胴体を、薙ぎ払おうと腕に力を込めた。

 そして、二人の鱗王兵はそれぞれ、剣と刀を振り切った!

 

 右手から来た鱗王兵を倒し、白露の元に来た銀嶺郎が目にしたのは、白露の前で宙に浮いたまま、剣を振りかぶったトカゲ頭と、長い柄の刀を今まさに振ろうとしているイグアナ頭の、時間が止まったかのような状態の姿であった。

 

「これ…どうなってるんですか?白露様」

 銀嶺郎は、目の前のあまりに不思議な光景に、戦闘中なのも忘れて声をかけた。

 

(見ての通り、斬りかかって来たんで止めたんじゃよ)

 白露は、見た相手の動きを一瞬で止め、しばらくそのままの状態で固まらせる、超常的な眼縛の力を持っていた。

(此奴らの頭の中では、まだ闘いは続いておるがの…)

「じゃ、この技を解いたら、また動き出すんですか?」

(なんじゃ?闘いたいのか?)

「いえいえ、せっかくだから楽しましょうよ!」

 そう言うと、銀嶺郎は宙に浮いてるトカゲ頭と、イグアナ頭を向き合わせ、高さと位置を調整し、

「こんな感じで!」

 と、無邪気な笑顔を見せた。

 

(怖い子じゃの…)

 銀嶺郎の意図を理解した白露は、眼縛を解いた。

 

 マダラ模様のトカゲ頭は、白露の頭を剣で割り、その首を落とし高く掲げた…。

 確かにその感覚はこの腕に残っている…はずであったが、今、自分の全身の筋肉の動きの感覚は、その記憶の手前、剣を振り下ろしている最中のそれに、引き戻されていた。

 

 それはイグアナ頭も同様で、白露の胴体を薙ぎ払い、返す刀で真っ二つに切断、吹き出す血しぶきを眺めながら、刀に付いた白露の油を拭った…。

 しかし実際には、まだ刀を薙ぎ払っている途中で、目の前にあったはずの白露の胴体はなく、何故か自分に斬りかかろうと、剣を振りかぶった同僚の身体が、自分の刀の先にはあった!

 

 次の瞬間、マダラ模様のトカゲ頭の剣はイグアナ頭の頭を割り、イグアナ頭の刀はマダラ模様のトカゲ頭の胴体を、真っ二つに薙ぎ払っていた。

 

「何で…⁉︎」

(何で…⁉︎)

 マダラ模様のトカゲ頭は声に出し、イグアナ頭は声にすることなく、二人は最後にそう思った…。

 

 

 

 ほんの少し時間をさかのぼり、小桜山の先に広がる林。

 

「そういうことだから、ここからは別行動でいいよね」

 小天狗は、メルラを小桜山に連れて行くことにしたことを、鬼灯に告げた。

 

「でも、まだそいつから敵側の情報を…」

 そう言いかけて鬼灯は、さっきの小天狗の威圧を思い出し、口ごもった。

「さっきも言ったけど、敵側の総大将が秘密主義で、指揮官の彼女ですら、ほとんど何も聞かされてないんだよ」

 事実、それ以上の情報は、小桜山に向かった総大将から聞くしかない。

「その総大将を止められたら、軍を引いてくれるって約束してくれたんだから、もう情報っていらなくない?」

「しかし…信用できるかどうか…」

 

「なら、一緒には無理だけど、キミも小桜山に来れば?」

 ここに来てから結構時間も経っているし、正直、鬼灯と話す時間すら惜しい。小天狗はとにかく早く話を切り上げたかった。

 

 そして、今の小桜山の状況を探るため、気の探索をしてみた。

 すると、既に四人の鱗王兵の気が、小桜山のお社のそばまで来ており、白露と銀嶺郎の気が戦闘モードに入っていた!

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