第三十九話 火蓋
鱗王兵の四人は、徐々にお互いの距離を取り、小桜山のお社を目指し駆け登った。
最初はそれを気で追っていた白露であったが、正面から来る二人に関しては、既に目視出来ていた。
一人は茶系のマダラ模様のトカゲ頭、もう一人は明るい緑の肌をしたイグアナ頭で、どちらも二メートル近い大型の兵士である。
(銀嶺郎、正面の連中はは気にせずに、左手から来る奴だけ警戒しなさい!)
白露は、銀嶺郎の気の大きさと練成具合を鑑みて、一対一なら充分に闘えると、左手の鱗王兵を任せる判断をした。
「ハイ、白露様。やれるだけやってみます」
言葉ではそう謙虚な言い方をしたが、白露から左手の一人を任されたことで、銀嶺郎の闘志に火がつき、気が見える者にしかわからないが、纏った闘気の輝きが増した。
前方から来た二人の鱗王兵は、お社の傍らにいる角の生えた巨大な白蛇の姿に、驚愕し足を止めた。
距離は離れているが、互いに顔を見合わせると、マダラ模様のトカゲ頭は諸刃の長剣、イグアナ頭は短い薙刀のような、刀身と柄の長さが同じくらいある刀を構えた。
しかし、戦闘のきっかけとなったのは、右手から来ていた鱗王兵の放った、
右手の鱗王兵も白露の姿を見て驚き、茂みに身を潜め機を窺っていた。
そして、白露が鎌首を上げて前方の二人を警戒し、自分には意識が向いていないのを確認すると、弩に矢をつがえ白露の頭を狙って放った。
もちろん白露は、右手の鱗王兵の気も追跡していたので、気付いていなかったわけではなく、飛んできた矢を首を少し動かして角で弾くと、右手の鱗王兵の方を向いて口を開き、三日月状の気の
右手の鱗王兵は、白露が運良く頭を動かしたので、矢は外れたのだと思っていた。
そのため、自分の方を向いて口を開けた白露の動きを、攻撃を仕掛けた自分への威嚇だと思い、三日月状の気の刃が放たれたことや、それが既に通リ過ぎて行ったことには、全く気づかなかった。
ただ、次の攻撃の準備に、弩に第二矢をつがえようと下を向いた時に、急に弩が近づいて来て鼻先をぶつけ、そのまま前方に転がって、今度は地面に頭をぶつけた。
訳もわかららないまま目を開けた、その鱗王兵の目に映ったのは、
(え…⁉︎これ…俺か??…?…)
真っ赤になった視界を拭うことも出来ず、その鱗王兵の意識は徐々に薄らいでいった。
前方の二人の鱗王兵からは、茂みに隠れていた、仲間のやられた姿は見えておらず、白露の動きは、右手の鱗王兵同様に、そちらからの攻撃に対し、自分たちから視線を外して威嚇し警戒したように見えた。
二人はその機を逃さず、白露との距離を詰めるため、同時に走り出した。
左手から回り込んでいた鱗王兵は、巨大な白蛇の傍らでこちらを警戒している、線の細いおそらくまだ成人していない人間を見て、あの白蛇を使役している主人か、護られている存在だと判断した。
いずれにせよ、あの人間を捕まえれば、巨大な白蛇の脅威が減ることは間違いない!
そう考えを巡らせている時に、白蛇は自分の真逆の方向を向き、それと見て正面の仲間二人も動いた。
ほぼ同時に、仲間二人の動きとシンクロするかのように、鱗王兵は身を潜めていた木の陰から、銀嶺郎に向かって飛び出した。
気の探索にだいぶ慣れてきた銀嶺郎は、鱗王兵の距離が近くなったこともあり、四人の位置を正確に把握。その姿もモヤモヤから人影で認識出来るようになっていた。
なので、自分のいる側から近づいて来た鱗王兵が、少し離れた大きめの桜の木の陰に隠れ、白露と自分を観察していることにも気づいていたが、あえてそこではなく、開けた場所から来る侵入者を警戒しているフリをしていた。
銀嶺郎は白露に背を向けていたので、正確には何が起こったのかわからなかったが、右手に隠れていた鱗王兵が殺気を放ったので、なんらかの攻撃をしたのだろう。
その直後、白露は凝縮された薄い気の塊を放ち、右手に隠れていた鱗王兵の気が徐々に弱くなって消えた…。
(何やったんだろう⁉︎見たかった〜)
そう考えたと同時に、木の陰に隠れていた鱗王兵の気が自分に向けられ、そいつが飛び出して来た!
暗い緑がかったそれに似た生き物を、銀嶺郎は御池で時々目にすることがある。
尖った鼻先に丸い目、鱗王兵でありながら鱗はなく、濡れたような質感の肌をして、御池のそれと違うのは、後頭部に垂れ下がった毛髪であるが、明らかにそれは…。
(スッポン人間だ‼︎)
小天狗が見たら、河童だと思ったに違いないその鱗王兵は、右手に刃幅の長い斧のような武器を振りかぶり、銀嶺郎に向かって来た。
銀嶺郎は小太刀を抜き、小天狗と立ち会った時に使った、刀の先に気を纏わせてムチのように操る技を使い、向かって来る鱗王兵の足をすくった。
鱗王兵の身体は横回転しながら、頭から地面に叩きつけられた。
気を見ることが出来ない鱗王兵は、何が起こったのか全くわからないまま、大の字に倒れ、脳震とうで朦朧とした意識に、ぼやけた空の青さだけを感じていた。
銀嶺郎は充分に注意をしながら、ゆっくり歩いて近づくと、その鱗王兵が落とした武器を拾い、躊躇することなく、鱗王兵の首元めがけて振り下ろした…。
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