第三十八話 成長

 小桜山のお社。

 

 白露は小天狗の気が、鱗王軍の追手を撃退したのを確認すると、小桜山のすぐそこまで近づいて来ている、鱗王軍の集団を探ることだけに集中し、その正確な人数と、それぞれの気の大きさを調べた。

 

 やはり一人だけ、とても強大で複雑な気を持っており、その大きさは、一人で周りの十数人分の気を凌駕していた。

 

「白露様、鱗王軍が来てるのって、こっちですか?」

 

 銀嶺郎は小天狗が行ったあと、白露の脇にあぐらをかいて座り、小天狗のように、その状態で少しだけ宙に浮かびながら、探ることに意識を集中させ、それを少しずつ広範囲に広げてみた。

 そうしてるうちに、なんとなくではあるが、離れた場所に気の在り処ありか(と思われるもの)を感じ始め、白露に確認してみたのである。

 

(ほう、其方にもわかるようになったか)

 

 白露は驚いていた。

 小天狗がこちらの世界に来てからの短い間に、小桜も銀嶺郎も自分の声が聞こえるようになり、銀嶺郎に至っては、目の前で気の探り方まで身につけ始めた。

 銀嶺郎に才があってのこととはいえ、小天狗という、柊のいた世界から来た人間の影響力の強さと、若人たちの成長の早さに、白露は改めて感心した。

 

「じゃ、あのモヤモヤの大きい奴が、大将でしょうか?」

 銀嶺郎の変わった表現の仕方に、白露は笑いそうになるのを堪えながらも、

(おそらくそうであろう。だが銀嶺郎よ、アレとだけは闘うてはならぬぞ!)

 と、強めの口調で忠告した。

 

「そんなにヤバい奴なんですね…」

 銀嶺郎は、この龍のような白露が、そうまで言うということは、相当な強さの敵なのだろうと、素直に従うことにした。

 

「ちなみに、残りの小さいモヤモヤなら、闘ってもいいですか?」

 

 

 

 バレ将軍一行は小桜山のふもとに着くと、それぞれが得手とする武器を持って、乗り物から降りた。

 

 バレ将軍は部下が置いた、折りたたみの椅子に深く腰を下ろすと、

「お前ら先に行って、お社とやらを押さえて来な!」

 側近の中から四人を選び、そう指示を出した。

 今回の四人は傭兵ではなく、バレ将軍が将軍になる前からの直参と呼べる部下で、それぞれ種族は違うが、一兵卒からのたたき上げの者たちであった。

 

 四人は指示を受けると、言葉を交わすことなく、一斉に山肌を駆け上がり、すぐに姿が見えなくなった。

 

 バレ将軍は、部下が用意した飲み物を受け取り、飲もうとした時に、大事なことを伝え忘れたことに気がついた。

「あ!そう言や、御神獣とやらがいるんだっけか?ま、アイツらなら大丈夫だろ」

 別に焦る様子もなく、バレ将軍はそう言って笑った。

 

 

 

「白露様!小さい方のモヤモヤが、近づいて来てます!」

 そう言うと銀嶺郎は、あぐらをかいて宙に浮いた姿勢のまま、静かに地面に降り、腰に差した小太刀に手をかけた。

 

(四人か…。銀嶺郎、無理はするでないぞ!)

 白露は諭すように語りかけると、登って来る鱗王兵を目視するため、鎌首を上げた。

 

「ハイ!危ないと思ったら、すぐ逃げて隠れます」

 冗談のような言い方でも、これは銀嶺郎の正直な気持ちであった。

 銀嶺郎は若いが、己れの実力を客観的に見ることが出来、今の自分が兄の黒曜丸や小天狗には、遠く及ばないこともよくわかっていた。

 それでも、刃王の国の若者らしく、強者との対決や研鑽けんさんを欲する、好奇心と衝動を抑えきれない一面も持っていて、今はそれが勝っていた。。

 

「よし!」

 銀嶺郎はそう言うと、細く息を吐きながら全身に薄く闘気を纏った。

 

 これは、小天狗に教えてもらった宙に浮く技の応用で、あらかじめ全身に闘気を纏っていることで、必要に応じて瞬時にその部分の闘気の厚さを変え、防御の盾にすることができる上に、身体を軽くすることもでき、移動速度や跳躍力も格段に上がる。

 天才少年銀嶺郎が、この短期間で考え身につけた、闘気のパワースーツであった。

 

「ウン、これでいつでも逃げられる!」

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