第三十七話 堪忍袋

「あの…追われてた理由、わかりました?」

 黙って目配せだけで会話する二人に、しびれを切らした鬼灯が、声をかけてきた。

 

「えっと…名前はメルラ、鱗王軍の将校らしいよ、ていうかキミ、誰なの?何者?」

 成り行き上、助けはしたけど、よくよく考えると、名前も知らないちょっとヤバイ女の子である。

 

「アタシは九番隊所属の柘植鬼灯、九番隊隊長、柘植暗鬼の妹です!」

 と、さっき以上のドヤ顔で名乗った。

 しかし、この子が言うと、剣士隊も族みたいに聞こえるなぁと思いつつも、

「へぇ、忍者も剣士隊なんだ⁉︎」

 と、小天狗は新しい情報に、普通に感心して答えた。

 

「ちょっとぉ、アンタ兄者のこと知らないの⁉︎柘植暗鬼よ、柘植暗鬼!つ、げ、あ、ん、き!」

 鬼灯はまたタメ口に戻り、大声で兄の名前を連呼した。

「お兄さんって、そんなに有名なんだ?忍者なのに…」

「有名に決まってるでしょ!剣士隊隊長よ!ウチの里でも一番強いし、殺し合いなら剣士隊でも一番強いわよ‼︎たぶんだけど…」

 鬼灯は真っ赤になって、さらに大声でかなりやばいことを叫んだ。

 

「ゴメン…でも俺、この国に来たばっかで、剣士隊の隊長も、親戚・・の黒曜丸さんと、緋月さんって人以外知らないんだ」

 小天狗は知らなかった理由を、黒曜丸の親戚だということを、少し強調して説明した。

 

 黒曜丸の親戚効果はあったようで、

「あ、そうなの?親戚なんだ、この国に来たばっかりだったら…兄者のことを知らなくても仕方ないわね」

 鬼灯の怒りも少しおさまったようだった。

 

(私のせいで揉めているのか?)

 戦闘での連携とは打って変わって、噛み合わない二人の様子を見て、メルラが心配して聞いてきた。

(いえ、少し変わったで、扱いが面倒なんですよ)

 そう言って苦笑した小天狗を、鬼灯は見逃さず、

「ちょっとアンタ!いまアタシの悪口言ったでしょ⁉︎」

 と、再び噛み付いてきた。

 

(参ったなぁ、そろそろ小桜山に戻りたいんだけど…)

 

 メルラは小天狗が、自分の行こうとしてる山を見て、そうつぶやいたことに驚き、そして聞いた。

 

(其方、もしかしてあの山から来たのか?)

(ハイ、貴方のお仲間たちが、目指してるのが小桜山です)

(知っていたのか⁉︎)

 メルラはこの人間が、自分が隠そうとしていたことを、既に知っていたことに再び驚いた。

 

「ナニ無視してんのよ⁉︎アンタ実は、その金髪の仲間なの!」

 二人の会話も聞こえず、一人蚊帳の外の鬼灯は、小天狗の肩を掴んで自分の方を向かせ割り込んだ。

 

 小天狗は、一つ大きくため息をつくと、


「大事な話をするとこなんだ、ちょっと黙ってろよ!」


 語気は少し強くしただけだが、この言葉を発したほんの一瞬だけ、先程までの闘いでは見せなかった、何倍にも高めた強すぎる闘気を発して、あえて鬼灯を威圧した!

 

「あ‼︎…ごめ…すみませんでした…」

 鬼灯は、膝から崩れ落ちそうになるのをなんとかこらえ、絞り出すようにそう言うと、小刻みに震えながら、小天狗から目を逸らした。

 

 メルラも、一瞬で猛獣のような威圧感を発した小天狗に、気圧されてたじろいだが、当の小天狗は何事もなかったかのように、元の穏やかな感じに戻って話を続けた。

 

(知っていたわけじゃなくて、人間のモノじゃない大きな気を持った連中が、近づいて来てることは感じてました。この辺りには、他に目的地になるような場所は無いですから)

 

 この人間は、あの山の秘密を知っている!

 

 メルラは、はぐらかされ続けた、バレ将軍の真の目的がやっとわかると思い、

(あの山には、何があるのだ⁉︎)

 なりふりかまわず、単刀直入に聞いた。

 

(俺の師匠たちが護っている、大切な場所としか、俺からは言えません)

 と、小天狗に言われ、

(そうであろうな、私には教えてもらう資格すら無い…)

 メルラは自分の身勝手さを恥じた。

 

(あの…貴方はまだ、この国の人たちと戦うつもりですか?)

 小天狗の問いかけにメルラは、

(いや、あの山に向かっている者たちを止められたなら、我が軍は速やかに撤退させる)

 と、今の嘘偽りのない気持ちを告げた。

 

(じゃ、一緒に来ますか?)

 そう、小天狗に言われ、

(私が一緒に行っても良いのか⁉︎)

 メルラは驚いて聞き返したが、すぐに言い直した。

 

(いや、是非‼︎)

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