第三十三話 参戦

 メルラは突然の人間の助っ人の登場に驚いたが、この状況で背に腹はかえられないと、鬼灯の身振りでの指示に従うことにした。

 二人はヴィーの元に行き、鬼灯は身振り手振りで、ヴィーにこの場から逃げる指示をメルラに出させた。

 

 白煙の中ヴィーの走り去る足音を聞き、追手たちのリーダー格が、

「撹乱かも知れんが、追え!」

 と、鉤爪に指示を出した。


「オマエはこの煙をはらえ!」

 そう言われたもう一人の追手は、紐で繋いだ二本のナタを大きく回転させて、煙を巻き込んで集め始めた。

 そして白煙は竜巻のように、その追手の頭上に集められ、視界が開いたその時、

 

「ウッ‼︎」

 ナタを回転させていた追手が、呻き声をあげて前のめりに倒れた。

 その背中には、三本のクナイが深く刺さっており、その先には鬼灯とメルラが立っていた。

 

「シノビ…」

 リーダー格の追手はカタコトでそうつぶやくと、ヨーヨーのような武器を手元で小刻みに回し始め、唸る音はどんどん強くなった。

 

「下がってて、金髪赤紫! 」

 そう言って鬼灯は手でメルラを制した。

 言葉は分からなかったが、察したメルラも少し離れた場所まで下がり、そのまま茂みに身を隠した。

 

 追手のリーダー格と対峙した鬼灯は、右手に忍び刀を逆手に、左手もクナイを逆手に持ち、左手を少し前に出して半身に構えた。

 

 相手の武器は、かなり遠くまで飛ばすことが出来る上に、外れても手元の操作ですぐに再攻撃に移れる、厄介な代物である。

 里にも気で武器を操る者はいるが、気は物理的なモノでないため、刀とかを使って断ち切ることは難しく、直接武器を確保して止めるか、相手を倒さない限り対処は難しい。

 

(気だって無限じゃない、あっちが疲れるまで粘る!)

 そう腹をくくると、鬼灯はまるでボクサーのように前後左右に軽いステップを踏み始めた。

 

 追手のリーダー格は一歩踏み込むと、両手を外から大きく前に回し、その両手を鬼灯に向けて止めると、円盤状の武器は左右に大きく弧を描いて、鬼灯の視界から外れる位置に飛んで行った。

 

(きっと私を目掛けて飛んでくる、だったら目で追わずに…)

 鬼灯はステップを踏んだ足を止め、円盤状の武器の唸りの音に意識を集中した。

 

(右が先、高さは胸!)

 飛んでかわすことも出来るが、空中では無防備になるため、左の二の矢を警戒して右足を前に開脚、ストンと身をかがめた。

 右手側から来た円盤は、鬼灯の頭の上を通り過ぎ、その瞬間、左手側から聞こえる円盤の軌道音が修正された。

 

(来る!)

 最初から二の矢はかわすつもりはなく、右足を前にしたのも、身体を左に向きやすくするためで、左手側の円盤の方を向くと、クナイと忍び刀を正中線上に構えた。

 

 しかし、円盤を目視してクナイで弾こうとした瞬間、円盤は真上に軌道を変えた。

 鬼灯がその軌道を目で追って顔を上げたその視界の端に、二の矢の円盤が来たのと同じ軌道で、さっきかわした円盤が迫って来るのが見えた!

 鬼灯はそのまま後ろに倒れ込み、その円盤をクナイで弾き上げ、素早く脚を閉じて跳ね起きると、大きく前方に跳ぶと空中で身体をひねり、敵と円盤の位置を確認しながら着地した。

 

 追手のリーダー格は二つの円盤を、再び身体の近くでヨーヨーのように操り、二人は対峙したまま互いの出方を伺っていた。

 

 そんな一瞬の静寂は、緊張のかけらもない大声で破られた。

 

「アニィ!やっぱ乗ってなかったぜ…」


 ヴィーを追って行った鉤爪の追手が、戻ってきてしまった。

 そして、倒れている仲間を見つけ、

「オイオイオイオイ!やられてんじゃん⁉︎」

 と、足でこづいた。

「だっせ…」

 その態度と言葉とは裏腹に、鉤爪の追手は怒りに満ちた瞳で鬼灯を睨みつけた。

 

「この手も痛ぇんだよっ‼︎」

 そう叫びながら、クナイを受けた方の腕を振り上げて、鬼灯に襲いかかった。

 しかし次の瞬間、鉤爪の振り上げた腕は、あらぬ方向に曲がっていた。

 

「ギャァァァ〜ッ‼︎痛ぇぇぇ〜っ」

 鉤爪は折れた腕を押さえのたうった。

 

 その場にいた全員が、何が起こったのか理解出来なかった。

 

 鬼灯の目の前には、天から降って来て、鉤爪の腕を叩き折った謎の男が、木刀を振り下ろした状態で残心を取っている。

 その謎の男は顔を上げ、のたうちまわる鉤爪を見て、こう言った。

 

「うわっ⁉︎マジで、トカゲじゃん…」

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