第三十一話 探索
小桜山のお社の前に再び光の繭が滲み出るように出現し、その中から小天狗と銀嶺郎が現れた。
「うわっ、マジで小桜山だ!」
と、銀嶺郎は辺りを見回し、見慣れた風景に嬉しそうに声を上げたが、次の瞬間、声も出せずに腰を抜かした。
お社と二人の周りを、両手で抱えきれないくらいの太さの白い丸太のような物体が、丸く取り囲むように輪になって、ゆっくりと動いており、角の生えた巨大な蛇が鎌首を上げて、金色の瞳でまっすぐ見つめていた。
(銀嶺郎か、大きくなったものだ)
頭の中に白露の声が響き、銀嶺郎は腰を抜かしたまま反射的に答えた。
「いえ…白露様ほどでは…」
(ほぉ、オマエも私の声が聞こえるようになったか、小天狗のおかげじゃな)
小天狗は銀嶺郎に対して、まだ心の声での会話は教えていなかったが、宙に浮く繊細な気の使い方を覚えたことによって、銀嶺郎の心の感受能力が上がっていた。
白露が大きくなれることは、想定内ではあったものの、自分が一番苦手な爬虫類の、それも見たこともない大きさの蛇の姿を前に、腰を抜かさず立っているのがやっとで、小天狗はしばらく、白露に話しかけることが出来なかったが…。
(こ、これが本来のお姿なんですね…)
(もう百年以上、この姿にはなっておらんかったからの、本来の姿と言えるかどうか?)
そう答えた白露の視線は、こちらに向かって移動している、大きな気を持つ集団の方向を見据えていた。
(まだ目視は出来ませんね)
小天狗は白露の視線の先を、視力を強化して見て言った。
(少し前に合流した者がいたが、逃げるようにすぐに離れ、三人ほどそれを追って行ったのじゃが…)
そう白露に言われ、小天狗は気の探索をしてみた。
(あ!これですね、追われて逃げてるっていうか、林の中をこっち向かって、近づいて来てますよね)
(うむ、逃げるように離れた者は、林に入ってから速度が落ち、もう追いつかれそうじゃ)
(ハイ、森の中なんで、連れてる鳥っぽい乗り物に乗れないんでしょうね。あ!見つかったのかな?追ってる三人の方の気が、少し強くなりました!)
白露と小天狗の会話は聞こえてはいるものの、まだ気の探索方法を修得していない銀嶺郎は、一人蚊帳の外に置かれ、膝を抱え座り込んだまま、空を見上げつぶやいた。
「ボク、役に立てないかも…」
小桜山の先に広がる、鬱蒼と繁った林の中では、メルラの乗ったディド、ヴィーの大きな身体が仇となり、メルラはヴィーから降りて、手綱を引いての移動になっていた。
一時はメルラを見失った追手たちであったが、匂いを辿り林に入り、遂にその姿を捉えた。
リーダー格の追手が、他の二人に左右から周り込むように指示を出すと、二人は外套を脱ぐと、身体を低くして四つん這いになり、四足歩行で左右の茂みの中に走り去った。
その気配をヴィーが感じ取り、振り返ると声を上げ左右を威嚇した。
(追手⁉︎)
メルラはヴィーの手綱を離すと、腰の剣に手をかけて辺りを見回した。
ヴィーは首の羽根を逆立てて、小刻みに左右を威嚇し続けているが、隠れた追手は姿を見せない。
しかし、メルラの正面には、外套のフードを深くかぶった追手の一人が立っていた。
リーダー格のその追手は、フードにゆっくりと手をかけると、滑り落とすように外套を脱いだ。
鱗王の国で一番多いトカゲタイプではあるが、黒っぽい肌は山岳地帯に住む少数狩猟部族の特徴で、その多くが傭兵を生業としている。
その黒い皮膚には無数の傷の跡が刻み込まれ、緑がかった感情の読めない瞳でメルラを見つめながら、低い声で言った。
「林に入ったのは、間違いだったな」
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