第二十四話 六番隊出陣
小桜山にいる小天狗と白露は、そう遠くない場所で起きている異変を感じ取っていた。
(なんですかコレ⁉︎すごく嫌な気が溢れて渦巻いてる感じ)
(其方も感じておるのか?おそらく
(戦⁉︎もしかしてここって、黒曜丸さんが向かった、辰巳野ってとこに近いんですか?)
戦という白露の言葉に驚いた小天狗に、小桜が説明してくれた。
(あの南の方に広がってる荒涼な土地は、もう鱗王の国の領土なんです。その手前に広い渓谷があって、こちら側の森林が広がってるあの辺りが辰巳野です)
確かに小桜が指差した方向から嫌な気は流れて来ている。
小天狗は空手と剣術を習ってはいたが、稽古での組手や立ち合いの経験はあっても、ケンカで人を殴ったことすらない。
時々、悪意や憎悪の気を垂れ流している人を見かけることはあっても、こんなに寒々とした嫌な感じを受けたのは初めてだった。
(戦って…よくあることなんですか?)
辰巳野の方向を見つめながら、小天狗は聞いた。
(鱗王の国とは、ここ数百年はしとらんかったのに…)
そう答えた白露の声には、残念な気持ちが溢れていた。
それはそうであろう、白蛇である白露は人間より鱗王の国の民に近い。人間が統べる国の土地を護る身としては、あって欲しくない戦なのだ。
(残念ですけど、戦は時々ありますよ。他国との戦より、国の中での小競り合いの方が多くて…)
さすがにいつも明るい小桜も、表情を曇らせてそう言った。
(格好だけじゃなく、ホントに戦国時代っぽいんだ…)
心の声を閉じて小天狗はそうつぶやいた。
辰巳野の砦から街道を繋ぐ一本道で、黒曜丸は昨日の夜と同様に、その道を塞いだ大木の上に腰かけ、前方を見据えていた。
昨夜と違うのは、昼間の明るさで視界は開け、肉眼で見える距離に鱗王軍の大群が、狭い一本道のはるか遠くまでひしめいていることであった
黒曜丸の後方には、六番隊の剣士たちと辰巳野の砦の残兵、合わせて百人ほどが控えていたが、鱗王軍の数の多さに、皆緊張を隠せないでいる。
「大丈夫か…?」
ボソりと黒曜丸はつぶやいた。
ただ、この大丈夫かは、これから始まる戦闘や緊張している兵士に対してではなく、一人で目の前の鱗王軍全員を斬る気概でいる自分の、愛刀の大太刀『雲斬り』がどれだけ持つのかに対しての心配であった。
その時、黒曜丸の右手の森の奥から声が上がり、戦闘が始まったことを知ると、座っていた大木の上に仁王立ちになり大太刀を抜いた。
そして、正面の鱗王軍を見据えたまま、
「野郎ども、準備は出来てるか⁉︎」
と、よく通る声で六番隊の剣士たちに声をかけた。
「おお〜っ‼︎」
六番隊の剣士たちも皆、黒曜丸に劣らぬ勢いで歓声を上げた。
左側の森で始まった戦闘と、前方からの声はメルラの耳にも届いた。
「始まってしまったか…」
総指揮をとる大隊長にあるまじき言葉ではあったが、未だメルラはこの進軍の意図をはかりかねている上に、功に対して貪欲だと聞いていたバレ将軍が、あまりに静か過ぎることに懸念を持っていた。
しかし今は、そんな懸念を払拭することより、眼前の敵を退けることが最優先であり、味方の兵士たちの命が自分の采配にかかっている。メルラはそのことだけに集中することにした。
この街道に出る道は狭く、敵兵の数も少ないが、直接の戦闘は出来るだけ避けるべきだと、メルラは考えていた。
数で大幅に
「隊長、連中弓を手に取りました!」
六番隊の中で最も目の良い剣士が、鱗王軍の動きを黒曜丸に伝えた。
「身を守る自信の無いヤツは森へ入れ!六番隊は矢が射られたと同時に走るぞ‼︎」
黒曜丸はそう指示すると大木から降り、右手一本で大太刀を担ぐように肩に乗せ、足を前後に開いて軽く膝を曲げ、いつでも走り出せる体勢をとった。
同様に六番隊の剣士たちも大木の前に出ると、抜刀して身構えた。
ビィン!
金属音にも似た
ひしめく無数の矢の雨は、一瞬、同じ幅の橋がかかったかのように、森に挟まれた道の上の空を覆い隠した。
その矢の雨の下を疾風のように駆け抜ける六番隊は、最初の矢が大木に刺さる頃には、鱗王軍との距離を半分以上詰め、黒曜丸に至っては二射目をつがえるよりも早く、鱗王軍の目の前に迫っていた。
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