第二十三話 対策

 辰巳野の砦、鱗王軍作戦会議室。

 

 メルラがバレ将軍から指示されたのは、偶然にも蘇童将軍が陣を張った山の麓と、その後ろの山を奪うことであった。

 これは両軍の直接対決を意味し、メルラの指揮下には、今回従軍して来た半数以上の千五百人を超える兵が与えられ、将校三人が五百人ずつをまとめる大隊長として配置された。

 

「何故我ら三人が、女の貴様なんぞの指揮下に入らねばならんのだ⁉︎」

「出自は王族とはいえ、我らの方が家柄も軍での経験も上なのだぞ!」

「ちゃんと納得出来る作戦でなければ、我らは従わぬ!」

 メルラの指揮下に置かれた三人の将校たちは、堰を切ったかのように、メルラに不満をぶつけた。

 

(女の私の指揮下に入るのが不満なら、バレ将軍に直接言えば良かろうに、将軍の前では口も開けない、日和見ボンボン将校が何を今さら!)

 たとえどんな良い作戦を立てたところで、この連中は難癖をつけるであろうし、作戦に沿った正しい用兵が出来るとも思えない。

 それでなくとも、ここから目的地までの地形上、千五百もの兵を敵陣近くまで一度に送ることは不可能であり、消耗戦を強いられることは必至である。

 今更ながらメルラは、名乗り出たことを後悔していた。

 

 

 

 辰巳野の砦を見張らせていた斥候から、蘇童将軍の元に、鱗王軍の兵に動きがあったとの知らせが入ったのは、朝の鍛練を終え、少し遅めの朝食を取ってしばらくたった頃であった。

 砦の門が開かれ、武装した鱗王軍の千を超える兵が、進軍を開始したという。

 

 蘇童将軍の陣幕には、黒曜丸を含めた数名の将が緊張の面持ちで座っていた。

 

「砦からのの道は狭い、奴らの大半は左右の森を抜け広がりながら、ここを目指すと思われる…」

 この近辺の地形図を前に、蘇童将軍が軍略の説明を始めた。

「数で劣る我らが出来るのは、援軍が到着するまで持ちこたえるため、奴らが優位に戦える開けた場所に出る前の、森の中での奇襲を用いての戦闘、そのために昨日より森の中には、いくつもの罠を設置させた」

 蘇童将軍は黒曜丸を見ると

「六番隊の方々には、一番大変な砦からの道の護りをお願いしたい」

 と、深々と頭を下げた。

 黒曜丸は、背中にかついだ大太刀の柄を叩くと、

「望むところです!元々、俺の雲斬りは森の中での戦いには向いてないですから」

 そう言って、美しい顔で不敵に笑った 

 

 

 

 メルラは三人の将校らに対して、低姿勢且つ丁重に用兵を説明し、なんとか納得させることに成功した。


 それは蘇童将軍の予想通り、それぞれの将校が率いる五百ずつの兵を、中央の道と左右の森に分けて進軍させるという、用兵と呼ぶには単純過ぎる作戦で、何処を担当するかは将校たち自身に決めさせた。

 

 メルラ自身は大隊長という立場ではあったが、中央の道に配した軍の最前線寄りに身を置き、指揮を取ることにした。しかし、三人の将校らは副官らに指揮を任せて、自分たちは最後尾に残って高みの見物を決め込んだ。

 

 

 最初に戦闘が始まったのは左側の森。功を焦った鱗王軍の小隊が、慎重に進めという命令を無視して先走り、刃王軍の仕掛けたトラップにかかったのがきっかけであった。

 

 先端に尖った木片を付けた枝をしならせ固定して、足元の蔓に引っかかると留め具が外れ、その反動で引っかかった相手を刺すという、単純なトラップであったが、数カ所で鱗王軍の兵士の叫び声があがった。

 その声を合図に、森のあちこちに潜んでいた刃王軍の兵士たちが、弩や短弓を使い一斉に矢を射掛けると、すぐにその場から退却し再び身を潜めた。

 

 森に潜んだ刃王軍の兵士の数は、実際には百人に満たない。

 元々の兵士の数が少ないこともあるが、自分たちが仕掛けた、無数のトラップにかからないためでもあった。

 相手がトラップにかかると同時に攻撃を仕掛け、すぐに次のトラップの場所まで下がるという、連続奇襲作戦をとっていた。

 

 そのトラップもさまざまで、尖った木を敷き詰めた落とし穴もあれば、狩猟用のトラバサミ、樹上に引き上げるくくり罠、振り子の原理で襲いかかる吊られた丸太など、シンプルだが次の手を予想させないことで、精神的な疲弊をも狙っている。

 

 とりあえず最初の戦闘は、刃王軍が戦況を優位に支配して進んだ。

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