第二十一話 もう一つのお社

 少し時間は遡り、小天狗と小桜は王都からの帰途につきながら、普通に声を出して話をしていた。

 

「小桜さん、この前俺が、試してみたいことがあるって話したの覚えてる?」

「ハイ、試してみたいことって何なのか?気になってました」

 

「ほら、こっち来る時、御池のお社のこと思い浮かべてもらって移動したよね」

「ハイ」

「だとすると、思い浮かべられる柊さんの結界の張られた場所なら、他の抜け穴のお社にも行けるんじゃないかと思ってさ」

「ああ!そうですよね!」

「だから、小桜さんが知ってる他のお社の場所を教えてもらってもいい?」

「教えて…?何でですか?」

 怪訝な表情で小桜に聞き返され、小天狗は少し戸惑った。

 

「いや、だから…俺がそこまで行って、御池のお社に戻れるか試そうかと思って…」

 小桜は少し口を尖らせて小天狗をにらむと、

「私が知ってる場所なら、一緒に試せばいいじゃないですか⁉︎」

 少し強めの口調でそう言った。

 

 小桜の強めな語気に小天狗は気圧され、

「いや…でも、失敗するかも知れないし…」

 と、最後の方は小桜の機嫌を、探るように返した。

 

「失敗するかも?って思ってることを試すためなら、場所は教えてあげません!」

 小桜があきらかに怒っているのを感じて、自分が何を間違えたのかを、小天狗は必死で考えた。

 

「大丈夫、成功はすると思う…」

 とりあえずここは、安心させるのが一番だと思い、小天狗は少しぎこちない笑顔を作って言った。


「だったら…」

 小桜は紅潮した顔で、真っ直ぐ小天狗を見つめ、

「一緒に試しましょ!」

 もう一度そう言った。

 

「う…うん」

 

 

 翌早朝、御池のお社。

 小天狗と小桜は御池のお社の対岸にいた。

 

「聞いてなかったけど、何処に行くつもりなの?」

 

「小桜山のお社です」

「小桜山?」

「ハイ、私の名前の由来になったお社です」

「そこにも宮守の人がいるの?」

「いいえ、小桜山を護っているのは、はーちゃんです」

「はーちゃん⁉︎」

「本当は白露はくろ様って呼ばなきゃいけないんですけど…」

「白露様ってことは、師匠みたいな神獣がいるの?」

「ハイ、はーちゃんは白蛇様です」

 白蛇と聞いて、小天狗は少し腰が引けた。

 

 完全に無理とまでは言わないが、小天狗は爬虫類独特の肌の質感が苦手だった…。

 

 師匠の天狗は馬並みに大きな犬である、となれば、白露も普通の蛇の大きさでないことは、想像に難くない。

(一人で行かなくて良かったぁ…)

 と、しみじみそう思ったが、心の壁を閉じてなかったため、小桜に丸聞こえで笑われてしまった。

 

 小天狗は小桜を抱え御池の水の上を歩いて渡ると、二人でお社にお参りをしてから、以前やったように互いの手を取り、気を同化させるように意識を集中した。

 一方、小桜も全身に小天狗の気が流れ込むのを感じながら、行き先である小桜山のお社を強く思い描いた。

 

 そして、二人は光の繭に包み込まれ、静かに地面に溶け込むように沈んで行った。

 



 辰巳野の砦、鱗王軍の本陣。

 

 前日の夜に何者かが門衛を襲ったと言う報告を受け、早朝から将校たちは騒然としていた。

 

「何かの警告なのでは⁉︎」

「ここは元々奴らの砦、どこかに潜んで機をうかがっているとか⁉︎」

「いや、やられたのは外の門衛だぞ!」

 と、相手の目的が判らず浮き足立っている同僚を横目に、メルラはこの後告げられる予定の、今回の遠征の目的に考えを巡らせていた。

 副官のジレコの調べでは、この近辺に手に入れるべき要所の町は無く、今いる数千の兵だけでは、進軍して刃王の国を落とすことなど不可能である。

 

 そこに、欠伸をしながら入ってきたバレ将軍が、

「門衛がやられたって?役に立たない奴らは処分しとけよ!」

 と、誰に言うともなく不機嫌そうに吐き捨て、上座の自分の席に腰をおろした。

 

「手柄立ててぇ奴いるか?」

 腕組みをし目を閉じたままバレ将軍が問いかけた。

 将校たちは、バレ将軍の意図が判らず、互いに顔を見合わせ黙っていた。

 

「それは今日の進軍の先鋒をしろと言うことでしょうか?」

 日和っている他の将校たちに郷を煮やし、メルラが口を開くと、バレ将軍は片目だけを開けてメルラを見て言った。

「進軍ってほどのもんじゃねぇ、この先のある場所を押さえてきてくれりゃいいんだ」

「ある場所とは…この国にとって重要な拠点なのでしょうか?」

「どうだかな?それを確認するために、そこを押さえる必要があんだよ」

 敢えて本当の目的を話すのを避けているのか?バレ将軍の説明は具体性を欠いていて、メルラはその真意に考えを巡らせたが、いかんせん答えを導き出すにはピースが足りなかった。

 

「わかりました、では私にその場所を押さえる任をお与えください」

 とにかく、そこに行けば何かがわかると思い、メルラは志願した。

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