第九章 お花摘み、コアな罪⑤
八馬女の力ははっきりしている。あの衝撃波のようなものは、八馬女の禁裏と考えられた。
ただボクはどうだ? あのとき、ボクに襲い掛かってきた腐朽たちが、まるで土の塊が崩れるよう、ボロボロになっていった。あれがボクの禁裏……? でも、意図したことではないし、何よりどうやったのかも憶えていない。
この清倉の家は、敷地の広さも相当で、日本庭園まで兼ね備えた立派なものだ。恐らく的を備えつけたら、弓を射ることができそうな、そんな広さのある空間まであった。ここが都心で、高級住宅地であることも忘れそうだ。
しかし、八馬女は日があたっているところには出て行こうとしないので、弓を射るところに体育座りをしたまま、動かなくなっている。
ボクも一人で、広い庭にいたところで、何も思いつくことがない。それは裏世界に行かないと、禁裏とかいう力も顕現しないのだから、要するに剣道なのに、何もつけず、竹刀も持たずに素振りをするようなもの。簡単に言うと、何の実感ももつことができない。
一人で頭をひねっていても、何も思いつくことがないばかりか、捻りだしそうなものだけは、自然と高まってきて……。
屋敷に入ってトイレをノックし、扉を開けると、そこには……。
少女がいた。しかも、天使ではない。制服を着ているけれど、もう少し上の高校生ぐらいの少女がすわっていた。それはトイレなのだから、すわるとすれば便座なのだけれど、そこで目をつぶって眠っている。
熟睡……? ノックでも起きず、かつカギもかけていない? この子は……。
思いだした! 清倉には二人の妹がいる。中学生でアイドルをしている天使と、モデルをしている……凛那。そう、彼女は凛那だ。
ボクも写真でしかみたことないけれど、それが下半身に何も穿かない状態で、写真集よりもあられもない姿で、一メートルとない距離にすわっていた。
ボクも慌ててドアを閉めたけれど、そのとき彼女がうっすらと目を開けたことに、気づいていなかった。
しばらく間を開けるも、お腹にたまるエナジーが強すぎて、そろそろ……と立ち上がる。他人の家にきて、その家の娘がつかった後のトイレをすぐに使う……なんて、やっぱりできない。そう思って我慢していたけれど、愈々それが臨界点、爆発しそうになっていた。
ノックをして、何の反応もないことを確認し、慎重にドアを開けると……。
清倉 凛那――。そこには、先ほどと同じ、彼女がすわっていた。でも、目は開けているし、もう下着を上げ、スカートを穿いており、使用中ではあっても用足し中ではなさそうだ。
「あの……」
恐る恐る……という感じで、凛那の方からそう声をかけてきた。呆気にとられて声もだせずにいたボクも、やっと我に返った。
「先ほど……見ました?」
再び、その光景が瞼の裏に蘇ってきた……。せまい空間で、構図がまったく同じなので、否応なく映像が再現される。でも、そんなことを言おうものなら変態、覗き魔確定だ。
「見た……というか、ドアを開けようとして、人の気配を感じて閉めました」
「下着の色は?」
「薄いピンク……でした」
彼女は顔を覆うと、ボクの脇をすりぬけて飛びだしていった。
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