第九章 お花摘み、コアな罪④

 重苦しさに目覚めると、八馬女がボクの上に座っている。

「赤人……重い」

 起き上がろうとすると、左腕をまるで抱き枕をそうするように、ぎゅっとつかんでいるのは、下着姿の小町だ。怖かったり、大変だったり、色々とあったので、心細くなっているのだろう。怖い夢でもみたのかもしれない。いつものように、ボクにすり寄ってきたのだが、それが眠りながら……とはいえ、下着姿のままというのが問題でもあって……。

「お兄ちゃんが、話があるって……。何しているの?」

 部屋に起こしに来た天使が、そんなボクたちをみて、目を冷たく細める。

「いや、これはその……」

「うちで変なことをしないでよね」

「してないから! 変な感じになっているけど、とにかく助けて……」


「は、早いですよね……」

 ボクと八馬女は二人だけで、清倉 元輔の前に引きだされていた。ちなみに小町は今、シャワーを浴びている。今日も仕事であり、ここから会社に行くためだ。

「オレも今日はテレビの収録だ。その前に、オマエたちがやっておくことを指示しておく」

 鍛える、といったことで、色々と気をつかわせているのかもしれない。

「裏世界に入れる奴は、たいてい何らかの力が使える。例えば、オレは六根清杖という業を用いる。これは不可思議な術をつかう相手の、その術をリセットしてしまう、という業だ」

 そういって、両手をバチンと合わせてみせた。

「だが、この〝禁裏〟とも呼ばれる力は、裏世界へ入っているときでないと働かん。だから、通常はトレーニングできん」

「〝禁裏〟? 赤人は腐朽を吹き飛ばす力がつかえます」

「恐らく、それが八馬女の禁裏だよ。腐朽になりかけていても、まだ多少の自我をもつから、使えるのだろう」

 小町を助けよう、とする八馬女の意志は感じた。

「ボクも、腐朽の動きが遅く感じます。多くの腐朽に囲まれたときも、何とか逃げだすことができました」

「裏世界での時間間隔は人それぞれだ。オレも銃弾の軌道は分かる。それは禁裏じゃない。禁裏を鍛えるのは、イメージ力だよ」

「イメージ力?」

「集中力と言い換えてもいい。こうしたい、あぁしたい、そういった願望を具現化する力だな。だから大本の自分のもつ力を身極めて、その部分を引き延ばすようにするといい」


 そこに、坂神が入ってきた。

「あれ? 坂神さん、帰ったんじゃ……」

「今日は朝早い仕事で、泊まったんだよん。あれ? 可愛い子ちゃんは?」

「小町も仕事で、今は準備をしています」

「送りたい……と言いたいところだけれど、酒が抜けてねぇし、今日も酒の仕事なんだよなぁ~」

 坂神は酒飲みキャラも定着しており、お酒の仕事も多いのだ。

「坂神も、禁裏のことを教えてやれよ」

 清倉からそう促され、坂神も肩をすくめる。

「簡単さ。サッカーやったり、水泳したり、野球をしたり。そうやって、小さいころは適性をみるじゃん? それと同じ~。こんな力に優れている……と思ったら、それを伸ばせばいいんだよぉ~ん」

 坂神はまだ酒がのこっているのか、普段からそんな気もするけれど、そういって手をひらひらさせる。

「ま、自分の適性をみつけろ。それからじゃないと、鍛えることもできん」

 清倉もそういって立ち上がった。そろそろ出かける時間らしく、二人して出ていくのだが、残されたボクも八馬女も、与えられた宿題の方が大きいように思えた。


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