第九章 お花摘み、コアな罪①
まだ中学生である清倉 天使から、ボクたち三人はソファーにすわり、詰問をうける形となっていた。
それは天使が家主の娘、だからではなく、後ろ暗いことがあるかどうか、によって立場が変わってくる。八馬女のこと、黙っていただけでも罪深いのに、その兄に助けられ、こうして身を匿ってもらう立場だ。
「どういうこと⁈」
苛立った天使に、そう詰め寄られた。
「えっと……。お兄さんに、裏世界のことを聞いているかな?」
「裏世界? 兄さんはそんな危ないところ、出入りしないわ」
どうやら『裏社会』と勘違いしているようだ。それは、いくら清倉家が追儺師を継いできた家柄だとしても、まだ中学生である天使に、そこまで説明しているとも思えなかった。
そのとき、シャワーを浴びてさっぱりした清倉が、上半身が裸で、首にタオルをかけたラフな姿で、応接間に入ってきた。
「天使が先に会っちまったか……。ま、仕方ない」
清倉はソファーにどさっと腰を下ろす。
「こいつらは追儺師だ」
「何だ、追儺師か」
兄の説明に、天使もそう納得するのは、その意味を知っているからか……。一先ずホッとするけれど、別の意味でそこは訂正する必要を感じた。
「えっと……、まだそういうわけじゃ……」
「え? ちがうのか?」
「見習い……という感じです。何しろ、先に八馬女が腐朽にされて、それを治すために、黄泉渡りをしているもので……」
ボクらの事情を説明する。
「何それ?」
天使の驚きが一番大きいのは仕方ない。何しろ、愛しの彼が腐朽にされた、というのだから……。
「なるほど、奴らが興味をもつのも理解する。そんな話、聞いたこともないからな」
「黄泉渡り……。腐朽に咬まれ、こうして腐朽になった八馬女がそれをできてしまうことで、色々と注目されるということは理解しています。でも、八馬女はこの通り、大人しい……。ボクにだけお茶目さんなんです」
「それ、ネタじゃなかったんだな……。でも、腐朽に咬まれて、なりかけていることは分かるが、こんな進行が遅いのはみたことない。遅くとも数分、それで腐朽になるはずだ」
「え? 彼は腐朽なの⁈」
そのとき、素っ頓狂な声を上げたのは、天使だ。
「だって、追儺師なんでしょ? 追儺師だから変人なんでしょ?」
「追儺師は変人、と限ってないぞ、天使。オレがいる」
「お兄ちゃんなんて変人、そのものじゃない。そうして傷だらけなのに、平気な顔をしているし……。染みるよ、ふつう。そのままお風呂に入ったら」
指摘するとこ、そこ……? 天使もたいがい、変人であるようだ……。
「腐朽って、治せるの?」
「その方法は見つかっていない」
「ダメじゃん! じゃあ……?」
「こいつはダメだ。腐朽になったら、それこそオマエを襲うんだぞ」
「襲われる?」
「襲う……、の意味がちがう。もう、こいつは人間じゃないんだ」
「兄さんはこれだから度量が狭いのよ。人間本位主義、なんて流行らないわよ。この地球上、すべての生命とともに生きるのが、真の博愛主義!」
「いや……、もう人間でも、生命でもないんだよ。本来、ちがう世界に暮らす者だから、地球上でもないんだよ」
「宇宙まで広げてもいいわよ」
「裏世界にいるのは、宇宙人でもないんだけど……」
清倉も、妹の天使には形無しのようだった。
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