第八章 男・清倉 元輔⑥
ボクと小町は、八馬女を連れて、表の世界にもどってくることができた。ただ、そこは醍醐家の近くであり、八馬女を監禁していた場所でもあるのだ。
一緒に黄泉渡りをした清倉、坂神も一緒だ。清倉は擦り傷など、全身に無数の傷を負うけれど、至って元気そうだ。坂神はほぼ無傷で、六人のライフル銃をもった相手とやり合ってきた、とは思えないほど、いつもと変わらずに飄々とした様子をみせている。
「とにかく、ここから離れよう」
清倉の言葉で、恐らく彼らが乗ってきただろう、車のところにいく。アメリカンなスタイルの四駆、今風にいうとSUVに乗るらしく、ボクと小町、それに八馬女の三人は後部座席にすわる。
運転は坂神が担当する。でも、走らせはじめてすぐに……。
「これから、どこに行く?」
伊瀬のところが急襲されたように、ボクたちの住居も知られている可能性が高い。いくら八馬女を取りもどしても、また奪われたら同じだ。
「一先ず、うちに来い」
清倉はそう言った。
「でも、いいんですか? それに、清倉さんのところも奴らが……」
「うちに手を出して来やしないさ。そこまですれば、奴らだって自分たちがお天道様の下に、引きずりだされるのを知っているからな」
清倉は自信満々にそういった。
坂神の運転する車は、大きな屋敷の駐車場に入る。
追儺師は儲かるのだろうか……? 醍醐家といい、この清倉家といい、周りのウサギ小屋と呼ばれる、庭すらない家とは比べるべくもない。
それはカムヅミを売れば、一つ三十万円もする。小町が発見したカムヅミをすべて売っていたら、一財産できるのだ。ボクたちは半分以上、八馬女の食糧にするために残したので、そうはならなかったけれど……。
それ以上に、だったら伊瀬はどうしてあそこまで極貧なのだろう? カムヅミを探しているわけではない、というのは、何となく想像できるけれど……。
清倉の家は、監視カメラでがちがちだ。それは金持ちなのだから、防犯意識が高くてよろしいけれど、どこにいても誰かに見られている気がする。
応接間に通された。そこは立食なら二十人ぐらいでパーティーができるような広さもある。
清倉も、坂神もどこかに行ってしまい、三人で待たされる。
大きなソファーは三人がすわっても、まだ余るぐらいだけれど、ボクたちは固まってすわる。居心地が悪くて、オオカミの群れが興津を抱くと、仲間で固まって安心を得るようなものだ。ボクの左隣には小町が、右隣に八馬女がすわるのも定番になってきた。
まるで保健所に連れてこられた仔犬と同じ。何となくこの三人で中心になるのはボクで、そうしてまとまっていると安心できた。
そのとき、扉が開く。
「彼が来ているんだって⁉」
そこに飛びこんできたのは、清倉 天使だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます