第二章 笑う童と、藁しべ長者⑦
「ちゃんと説明して!」
アパートにもどったボクは、小町からの詰問に遭っていた。
小町とも幼馴染として、隠し事はなしでやってきた。というより、隠し事をしても鋭い小町に見ぬかれ、後々大変なことになると学んできたので、素直にすべてを話すことにした。
「追儺師……。その、腐朽とやらを退治する仕事なの?」
「そういうことでもないらしい。何かを調査するらしいけど、その過程ででくわす腐朽は倒すこともある。それに、あの世界で実っている果実を採取すると、いいお金になるそうだ」
多分、こんな話をしたところで、ふつうなら「バカなことを言うな!」で終わりそうだ。でも、小町は一緒にあの世界を体験している。それだけに深刻さを感じて、眉を顰めている。
「それで、赤人は……?」
「伊瀬さんにもよく分からないそうだ。腐朽になりかけてはいるけれど、まだ人間の部分も残している。とにかく、一先ずは彼女の暮らすビルの屋上で、しばらく生活させるそうだ」
「食べる物は?」
「腐朽になると、食事はとらないそうだけれど、ドッグフードが置いてあった」
「それ、犬の飼い方じゃない!」
「そうなんだけど……。本人が心ここにあらず、という感じで、特に不都合を感じていないようで……」
不都合があるとすれば、太陽光の当たる場所を嫌がっていること、ぐらいだ。人を襲う可能性……といわれると、隔離を否定するのも難しい。日の当たる場所で、大人しくしていてくれた方が、安心もできた。ただ、それを本人が嫌がっていないことが大前提だけれど、今はそれを確認することもできないのが、もどかしく感じる部分でもあった。
「ところで、どうするの? 舞台、明後日でしょ?」
「忘れてたッ⁈」
そう、フェチ・フェミ・フェニックスとして、前座で五分の持ち時間を与えられているのだ。
「漫才のネタ……はあるけれど、赤人があれじゃあ……」
ちらっと小町をみるけれど、すぐに横をむいて「私は代役なんて、嫌だからね!」
「一人でしゃべくり……、考えただけでもお腹が痛い」
「あがり症のマロが、五分も一人で漫談するのはムリでしょ……」
「お断りを入れるか……」
渋々、携帯電話をとる。
「清倉さん、お久しぶりです」
「よう、マロ。連絡をしようと思っていたんだ。明後日の舞台、もうお前たちの顔写真付きでポスターもつくって、貼りだしているから、頼んだぞ。それで明日の晩から準備できるように、劇場は借りているから、もし必要な小道具とかあれば、明日の晩からでも楽屋に搬入できるし、夜中なら舞台に上がって練習してもいいそうだ。もし練習するのなら、カギを貸すぞ」
「え? あの……」
「妹も楽しみにしているんだ。期待しているぞ」
一方的にそう告げられ、電話が切れた。
「断れなかったみたいね」
小町から憐みとともにそう言われるまでもなく、舞台に穴をあけるなんて若手の、事務所にも登録していないボクたちにとって、致命傷であることは間違いない。今回とて、善意で誘ってもらったのだ。
それは、主宰者の一人、清倉の妹が八馬女のことをお気に入りで、ネタはともかく顔をみたい、という理由だと伝え聞いた。
清倉は、一つ上の坂神と、ノンピークというコンビを組んでいる。コント師としての評価も高く、何より清倉の二人の妹が、モデルとアイドルをしていて、芸能一家であることもあり、ネクストブレイク芸人などの特集で、時おりテレビに出演もしている、今話題のコンビなのだ。
そして、そのノンピークがメインで劇場を借り、若手の数人も参加する今回の舞台が計画された。
ボクたち無名の若手が出演できるのは、清倉の妹によるヒキであり、贔屓であり、それが分かっているからこそ、八馬女がでない舞台は考えられなかった。
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