第一章 ゾンビとコンビを組む男④

「あれ? アンタたち……」

 不意に聞こえた声に、思わず立ち止まった。

 そちらを見ると、オレンジ色の鮮やかな色のツナギを着た、若い女性が近づいてくる。奇抜なのは、まるで漫画やアニメ、ゲームキャラを二.五次元の舞台で再現するように、髪も作業着と同じオレンジ色で、後ろにツンツンと立てており、まるでトゲネズミのような点だ。

「うわ、やられてんじゃん。下ろして」

 ぐったりした八馬女をみて、女性はそう促す。怪しげだけれど、ここに来て初めて会った人間であり、素直に従って八馬女を下ろす。

 壁にもたれ、力なく項垂れる八馬女を覗きこんで「あぁ、ダメだね。こりゃ」と、呆気なく女性はサジを投げた。

「ダメって……」

「腐朽に咬まれたでしょ。何分前?」

 ボクも小町と顔を見合わせ「十分……ぐらい?」

「じゃ、手遅れかもね。治療してみてもいいけど……、高いよ」


「治るんですか? なら、やって下さい」

 ボクの即決に、女性はニヤッと笑って「その決断の速さ、嫌いじゃないよ」

 女性は背負っていた頭陀袋から、小さなケースをとりだすと、そこから一本の瓶を抜く。兵士がつかう麻酔薬のように、蓋を外すと小さな針がついた、簡易的に注射器になるものだ。それを躊躇することなく、八馬女の傷口近く、首元付近にどんと突き刺した。

「ほとんどダメでも、万に一つなら助かる可能性も……」

「死ぬってことですか?」

「死なないよ。だから厄介なんだけど……。ダメだったら、この世界に放置していきなさい」

「…………放置?」

「どの道、こうなったら向こうにはもどれないけれどね……。下手に彼を救おう……なんていい人面しても、これはもう別の存在だから、ここに置いていきなさい……と言っているのよ」

「別の存在……? この世界って……?」

 女性は辺りを見回し、何かの気配を感じとったようだ。

「それを説明しているヒマはなさそうね。ほら、携帯電話をだして」

「…………え?」

「高いって言ったでしょ。これは担保。取り返したかったら、ここに来なさい」

 そういって、名刺と交換する。

「出られるときに、出ておかないと抜けられなくなるから、もし彼がダメで、境界を超えられないと分かったら、迷わず放置すること。忠告はしたからね。じゃあ、私は行くわ」

 そういうと、女性は頭陀袋をかつぎ、のんびりと歩き去っていく。呆然とその後ろ姿を見送っていると、小町が「見て!」と指をさす。

 こちらの世界にきたときと同じように、空間の歪みが生じていた。ボクと小町で意識を失ったままの八馬女を抱え、その空間へと飛びこんだ。


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