第一章 ゾンビとコンビを組む男➂

「イタタ……。小町、大丈夫?」

「うん……どうなったの?」

 二人で辺りを見回すと、真夜中で暗がりだったはずなのに、まるで夕景のようなセピア色に世界は染まっていた。

「夕方……?」

「ちがうよ。だって月がみえるもん」

 東から上った下弦の月が、まだ沖天には遠い位置にあった。

「あれ? 赤人は?」

 辺りの様子を詮索し、状況を鑑みるより、今は八馬女の姿が見当たらない方が気がかりだった。

「手分けして……嫌、一緒にさがそう」

 嫌な予感がする……否、嫌な予感しかない。八馬女が携帯電話をもっていないことを呪いつつ、二人で走りだす。でも、すぐに気づく。見慣れた公園なのに、違和感をもつのは、色味を失って奥行きが感じられないからだ。すべてが同一素材で、画一的に見えるからだった。


「あ、いたッ⁉」

 小町の指さす方に、八馬女の後ろ姿がある。しかも、その背中越しにもう一人見えた。誰かと待ち合わせ? しかも、抱き合っているようだ。

 八馬女は小さいころから、恋人が絶えたことがない。飄々としたマイペースぶりは風流人のようであり、相手から告白されるタイプだ。今はフリーのはずでも、彼女と一緒だったのか……?

 コンビを解消する理由として、ケンカ別れや相性の不一致、そして生活の不安定さを嫌う、恋人や伴侶の問題……がある。むしろ、そうだとしたら、笑って送りだしてあげるべきか……。

 そんなことを考えつつ近づくと、抱き合うようにしていた二人が、パッと離れた。

「きゃーーッ‼」

 小町の悲鳴がひびく。八馬女から顔を放した、その女性の肌は血の気を失い、顔の下半分が腐って、頭蓋骨やアゴの骨が見えていた。服もぼろぼろに擦り切れ、血がこびりついた部分は体に張りつく。ふり乱した長い髪の奥から、ぎらぎらした眼でこちらを睨みつけてきた。

 女性は逃げだすけれど、その横顔は醜悪そうに、卑屈に歪んだように見えた。


「大丈夫かッ⁈」

 そこに崩れ落ちた八馬女に、慌てて駆け寄った。意識を失っており、微かに痙攣しているようにも見える。

「何だったの……、今の人?」

「分からないけれど……、とにかく救急車だ」

 八馬女は白目を剥いており、首元には咬まれたような傷跡が見えた。致命傷になるほど深くはなさそうでも、重傷には違いない。

 スマホをみると、電波が立っていない。緊急通報なら……とかけるも、応答する気配すらない。

「ダメだ……。ここだとボクの部屋が近い。一緒に行こう」

 ボクが八馬女を背負い、小町がその背中を支えるようにして、公園をでる。今はとにかく、三人でここから離れたかった。あの化け物じみた女性や、セピア色に染まる世界にしても、予測不能な、不可思議な事態に巻きこまれていることをひしひしと感じていた。


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