第109話 監獄領域を脱出する
あれから俺たちは、監獄領域の脱出に成功して普通のエリアを幾つか彷徨って。適当に雑魚と戦闘したり、ルート選択に迷ったりしながら夕方まで歩き回って。
有り難い事に、ベンディスとメルヴィン以降は追跡の手は掛からなかった模様で。アイギスの執念も、
白の陣営としての約束事だったのかも……そうなると、管理者の立場としても簡単に破れないのは理解出来る。一応は、安心して気を緩めても良いのかな?
いやまぁ、完全に油断する事は無いにしてもだ。
ところでその“監獄領域”で変な縁を結んでしまった、マホロバが一緒について来ている。別にいいんだけど、奴の目的とか今後の予定はどうなんだろうか。
マホロバは、“紫炎の陣営”の割と有力な一族のご子息だったらしい。それが他の部族との権力争いだとか、部族内の派閥争いとかに巻き込まれたらしく。
何だか要領を得ないが、奴の部族では長に連なる血を浴びる事は
そこを俺に救われて、こうして旅の仲間になったと言う経緯である。愉快な仲間と珍道中、なんておちゃらけて脳内で楽しいイベントに仕立て上げないとやってられないよな。
脱出の際にも、まぁ色々あったからね。
まずは小春が、領域外では実体化が出来なくなると言って来た。本体のある領域以外では、実体化の能力は使えない制約があるのだそうで。
その代案に、俺に『古樹の挿し木』と言うアイテムを渡して来て。これを身近で育てて、ある程度の力を蓄えたらいつでも召喚可能の状態になるらしいんだけど。
一体いつまで掛かるんだって話だが、まぁ裏道があるのかも知れないし。夢世界で、ジェームズ達と話し合ってその辺は進めて行こうと思っている。
それからもう1つ、マホロバが俺たちの行く先を指示している事。こっちはなるべく早く、嶋岡部長に追いつきたいんだがその行き先も居場所も知らないと来ている。
つまりは、俺の行き先は行き当たりばったりな訳で。
どのルートを辿るべきかなんて、あってないようなモノだったり。そんな訳で、今日の午後はマホロバが言うワープゲートを潜って移動する事に。
午後だけで5つの領域を通って、今夜の宿と定めたこの現代建築の倉庫へと辿り着いたのだが。倉庫と言うよりどこかの整備工場かな、探索や食事の役に立ちそうなものは置かれてなかった。
それから最後の懸念だけど、ワープゲートを潜る際に誰かの視線をハッキリと感じた。どう言った手段かは知らないけど、どうやら無罪放免で後腐れなくって事にはならないらしい。
果たしてその視線の主が、どんな意図で覗いてたのかは定かでは無いけど。依然として、俺の動向を知っておきたい輩がいるのは事実らしい。
ただ、今はそんなプレッシャーも感じず、呑気な相棒と就寝の準備などしているけど。ここに巣食っていた魔物は全て倒したし、こちらものんびり眠らせて貰おう。
夜の見張りは、従者に任せて今はゆっくりしたい――
さて、そんな感じで安定の夢世界にやって来れた俺だけど。今回も夢魔のお出迎えは無く、ちょっと寂しい限りである。そして出現位置も、なんだかお洒落になって来ていた。
黒レンガの塔の浸食があるのか、この辺まで床がレンガで居心地が良さげな風景に。俺は早速寛ぎセットを倉庫から取り出して、落ち着ける場所づくり。
それからようやく取り戻した装備品やら、強化されたアイテムなどをチェックし直したりの時間を過ごし。ジェームスやスレイを呼び出して、餌を上げたり
いつもの餌やりの前に、俺は《餌付け》をレベル3⇒5へと上げておいた。やっぱり広域移動を覚えたスライムの放し飼いには、絆の確保はとっても大事だと思い至って。
しかしスレイってば、『宝石ハチドリの絡繰り人形』を上手く操ってるなぁ。
これは最初、何に使うのか塔でゲットした時点では全く分からなかったんだけど。ジェームズが知っていたようで、言われるままにスレイに渡してみた所。
スレイもこの玩具が物凄く気に入ったようで、操り方もすぐに上手くなって。ただまぁ、戦闘のサポートに役立つかは半信半疑だったので、奥の手的なポジションに。
それがまさか、本当にあの死闘でのカギを握る存在になるとは。事前の合わせ訓練とか全くしてなかったのに、スレイの戦闘センスと言うか忠義心には頭の下がる思いである。
まぁ、恐らく絡繰り人形に戦闘用のギミックが仕掛けられていたのだろう。塔で入手したアイテムだしな、そう言う事もあるとは思う。
取り敢えず、今後も期待して良いのだろうか?
ハチドリの絡繰りから抜け出したスレイは、ひたすらプニプニしていて可愛いけれど。俺が差し出したハムを一生懸命、体内で消化して食事に励んでいる。
それに癒されつつ、こちらも連中からドロップしたSPジュエルやPカプセルを使う。それから生命の実とマナの果実を口に含み、ステアップ作業をこなして行って。
大漁に入手したSPの使い道だが、まずはステータスの全体上げを5回連続で敢行してみた。その結果、スロット枠+2を引いて久々の良い結果にご満悦。
俺のステータスが、レベル35相当なのかは全く不明ではあるけど。恐らく同級生と較べると、頭一つ抜け出ているのは予想が出来る。
何しろこの夢世界でも経験値を稼げる、いわゆるチート仕様だからな。
最初の頃は、そのせいで滅茶苦茶に苦労したのは覚えてるけどね。夢魔の群れにたかられて、毎回死にそうな思いを味わっていたっけ。
それはともかく、貯まったスキルPでスキルを色々と上げてみた。今回の死闘の結果を踏まえて、反省と言うか自分に足りなかった弱点を補う感じで。
そんな訳で、まずは《耐性上昇》をレベル5⇒6へと懲りずに上げる事に。敵の《封印》攻撃を全く防げなかったので、今更ながら上げてみた次第なのだけど。
遅いって気はしないでも無いけど、ポイントの余っている今がチャンスなのは確かで。後は《日常辞典》をレベル4⇒5へ、《平常心》をレベル2⇒3へと上げてみた。
安い2P と1Pのスキルなので、スキルPもそんなに必要無かったし。
《日常辞典》はやはり必要で、こちらの世界の常識やこの夢世界での事象など分からない事は数多いので。上げておいて損は無いし、今後も役に立ってくれそうではある。
《平常心》も同じく、最初は使えないと思ったが戦闘で心を乱す事は意外と多い。例えば対人戦とか、人を殺めてしまう事がここ最近では続いていて。
マホロバの処刑人達とか、アイギスの手下の管理補佐官とかとの戦闘で。対処しないとこちらが殺されていた状況なので、仕方が無かった事態だったとは言え。
マホロバを助ける時には、主に遠距離魔法で対処したのでそうでも無かったのだが。ベンディス戦では、モロに剣や短槍での接近戦だった訳で。
何と言うか、殺傷のダメージがこちらの心にもノックバックされる感じ。
その対策として、《平常心》は物凄く有効だったりするのだ。心が静まってくれると言うか、下手に精神的なトラウマやらダメージを受けずに済む。
スキルの構築は、何も殺傷力のある魔法や武器スキルだけが全てでは無い。補正スキル1つで、がらりと使い手の動きが変わる事だってあるのだ。
《平常心》も、そんな補正スキルの内の1つには違いなく。俺のスキル群の中でも、スロット枠を今後も塞いで行くだろうと予想されるスキルではある。
それから同じく2Pと軽いスキル《投擲》をレベル3⇒4へと上げてみた。最後に活躍したのだけど、短槍を投げて敵の止めとか今後も使いそうなので。
今後も必要かなと感じて、上げてみた次第である。
今夜は“黒レンガの塔”に潜る予定は無いので、上がったステータスやスキルを眺めながら思考に耽ってみたり。それで今後の育成計画を練ったり、戦い方のシミュレーションをしたり。
それから傷付いて回復中の従者の、具合もしっかりチェックしておかないとね。
まずはシルベスタだが、こちらはもう随分と回復しているように見受けられる。スパッと切られた傷口も目立たなくなっていて、ただしかし鎧の形状にはかなりの変化が。
これはジェームズの指示に従って与えた、『竜の心臓』のせいだろうか? グッと首が伸び、背中には翼みたいな鋼鉄製の出っ張りが見える。
竜形態に変化したシルベスタは、確かに以前よりは強そうではあるけど。空とかも飛べるのかな、ブレスも吐けたら何か最強の鎧生物になっちゃいそう。
そんな期待をしつつ、ジェームズの指示で前に行った《魂魄術》の治療効果を見定めてみるけど。いまいち効果が分からなくって、ちょっとションボリ。
再稼働の兆しが、少しでも窺えると良かったんだけど。
ちなみにガイルの芽はようやく元気に生えて来て、ちっちゃな鉢に似合う程度には回復していた。それを見て、小春の挿し木の状態を思い出す。
ジェームズがお世話するその鉢植えも、似たような感じで順調に生育中なのだけど。再び小春と話せるのは、一体いつになるのやらって感じである。
話が出来る従者は貴重だし、小春のサポート能力はなかなか頼りになってくれていた。完全に戦闘特化の従者では無いにしろ、人型なのは有り難かったんだけとな。
彼女の説明では、ある程度の大きさに育つまでは実体化は無理らしく。普通の育成方法とは違う手法で、頑張って早く大木に育ててくれと言われてしまった。
その方法が分からず、さてどうすれば良い?
困った時のジェームズ頼りなのだが、その答えはさすがの彼も知らなかったようで。錬金レシピの中には無かったようで、《日常辞典》を上げても解決法は思い付かなかった。
誰か知る人を探し出すか、はたまた土に魔石とか混ぜ込む例の手法が上手く嵌まるかも知れない。そんな期待を込めて、一応は鉢の端っこに魔石(小)を埋め込んで現在は様子見の状態だったりする。
それからベンディス戦での報酬で、新たに得た『ゴーレムの種』だけど。これもジェームズ指導で鉢植えで育て始めて、つまり現在の鉢植えは合計3つと言うね。
いずれも夢空間の塔近くの空き地に、揃って並んで何だか妙な景色ではあるけど。ゴーレムの種はまだ発芽もしてなくて、こちらは時間が掛かりそう。
ガイルの時も割と長かったから、同じ位は覚悟はしている。
ただし、ベンディスに《封印》されていた《光魔法》と《召喚魔法》と『CP購買』はちゃんと戻って来てくれた。しかも《召喚魔法》は、封印中にレベル5になっている状態。
お試し召喚で、まずはキャシーとベルを呼び出してみると。キャシーお嬢さんは、何と一回り大きくなっていて、尻尾の数も2つに増えていた。
ベルとは面識も浅いので、ハッキリ言って違いは良く分からないけど。こいつも何となく、精悍になっているような気がしないでもない。
そして順調に行けば新たにもう1体、召喚獣が呼べるようになっている筈。俺は期待を込めて、心の中で新たな従者に来訪を願ってみる。
束の間、割と大き目の召喚用魔方陣が目の前に出現して。
「……おおっ、これはっ?」
真っ赤で派手な色合いの大鳥が、止まり木と一緒に目の前に召喚されていた。大きさは人がしゃがんだ位と言うか、ただし尾羽が凄く長いのでそれを足したら大人の人間サイズ。
どんな戦い方をするんだろうね、それから成長したキャシーお嬢さんの変化も気になる所。ベルはどうだろう、拠点防衛では無類の強さを発揮していた印象だけど。
何にしろ、無事に《召喚魔法》が戻って来てくれて良かった。それからもちろん《光魔法》もだ、ただこれでまたスロットの組み合わせに苦労するかな?
スロット枠も順調に増えているので、昔ほどでは無いけれど。そう言えば、同じくドロップにあった《簡易封印》と《盾術》のスキル書はどうしようか。
今の所、従者でスキルを覚えられるのは、何故かサユリさんだけなんだよなぁ。
その理由も定かではない、ジェームズは宝珠の必殺技を覚えているので行けそうなんだけど。得意とか不得意の傾向とかあるのかも、敢えて覚えないとか。
確かにジェームズが前衛向きのスキルを覚えても、大いなる無駄な気がするけれど。試しにこの2つをジェームズに指し示してみたけど、マルっと無視されてしまった。
サユリさんに与える気配も無いので、新たな強化は無理なのかも知れない。同じ理由で、恐らくメルヴィンから回収した勇猛の盾《HP回復》もしばらくお蔵入りの憂き目に。
新たなパワーアップとは行かなかったけど、新入りの召喚獣が増えただけで良しとしよう。後で戦い方のチェックしなきゃな、とか思いつつソイツの羽毛を撫でてやって。
そうそう、名前も付けてやらないと。
――何にしろ、夢空間でも仕事が盛りだくさんで大変だ。
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