第107話 封印術者との死闘の果て
仲間を倒されて怒り心頭のベンディスが、新たにゴーレムを3体ほどこの場に追加した。馬鹿の一つ覚えの戦術だが、圧倒的な前衛のいない俺たちのチームには結構嫌な手で。
しかも自身を回復したのか、目立った傷が無いと来ている。粘り強い敵は嫌いだが、まぁ術者ベースなので全員でボコれば一瞬で倒せそうではある。
何と言うか、剣士ベースの格上の管理補佐官を倒せたボーナスが凄い。レベルも上がってくれたし、ステータスを弄る余裕は無いけど心の余裕は出来てしまった。
従者たちも全員無事だし、予想外にスレイも戦闘参加に積極的だし。しかしあのハチドリモドキの動きっ振りは、傍目で見ていても凄かったな。
そのスレイ、今は何故か視界から完全に消えている。
「次は何を封じてやろう、筋力か魔法か……馬鹿みたいに大量のスキルを所有しているみたいだが、戦法を見ればおのずとお前が信頼してるスキルは知れる。
私の《封印》は、まだまだお前を縛り付ける事が可能だぞ!」
「だからどうしたよ、余裕ぶって止めを刺すのを先送りしてるつもりか? どう考えても、お前がオッ死ぬ方が先だろうがよ」
「
いや、心から本音の言葉だから……どうしてそんな、未だに余裕ブッ
取り敢えずは《罠造》でゴーレムの撃退をしつつ、奥で指示を出すベンディスの様子を窺う。小春が残った爆裂矢弾をすべて使って、積極的に支援をしてくれているけど。
後衛の位置に戻ってしまった、ベンディスにはダメージは届かなかった様子。ただしあの距離では、向こうも《封印》スキルを使えないみたいで。
それとも時間制限でもあるのか、2度目のスキルは未だに飛んで来ない。
だからって、試しに近付こうとも思わないけど。とは言え、土の壁の防御魔法のせいで遠隔攻撃は防がれていて。これは魔法攻撃も、恐らく同じ結果になりそうな雰囲気。
厄介だな、魔力切れを待つのも業腹だし……時間を掛けて、嫌な仕掛けに
ってか、スレイはどこ行った? さっきみたいに相手を混乱させて、こっちが飛び込む時間を作って欲しいんだけど。まさか《餌付け》の効果が切れて、野生にかえっちゃったとか?
ありそうな話で怖いな、取り敢えず《罠造》のたらい落としで攻撃をしてみよう。火だるまになりやがれと攻撃するが、上がった炎は一瞬で搔き消されてしまった。
う~ん、さすが術者に絡め手はキツイかな。
それなら《罠造》の雷落としだと、積極的に連続攻撃を仕掛けるも。こちらも土壁のブロックにあって、大したダメージは与えられず。
向こうからは石礫が飛んで来て、予期せぬ魔法合戦になってしまった。だからこんなチマチマと、遠隔攻撃合戦をするつもりは無いんだけどな。
とか思ってたら、再び向こうは巨体ゴーレムを製作しての接近戦に。なるほど、このパターンで攻めて来るつもりか……近付いて《封印》かまして、ゴーレムが壊れたら離脱と。
なかなか考えてるけど、こっちの戦力を削られて行くのは確かに嫌だな。さっきは強がって、お前が死ぬのが先だと挑発してみたけれども。
この嫌なサイクルを、さっさと阻止しないとこちらが死ぬ確率が高いかも。
小春が頑張って、弓矢攻撃で術者を狙っているが向こうもガードが堅い。俺が魔法を防がれたのと同じく、土系のオートガードがウザい位に効果的だ。
これは遠隔系の攻撃は、ちょっと効果を上げるのが難しいかなと思い始めた頃に。またもや接近されての《封印》スキルの行使で、俺の《氷魔法》が封じられる破目に。
うわっ、不味いな……その内に《人形使役》とか封じられたら、ジェームズ達はどうなるんだ? 既に自律行動に至っているから、元のスキルを封じられても関係無いのか?
《木霊術》も不味いな、小春の召喚が切れたらジリ貧コースに陥るぞ。
「ははっ、どうした……《封印》が進む前に、私を倒すんじゃなかったのか? そろそろ攻撃手段も無くなって来ただろうし、次は筋力を封じてやろう。
その内に、文字通り手も足も出なくなるぞっ!?」
「やかましいっ、これでも喰らえっ……!」
俺の《罠造》の鐘突き棒の落下技を受けて、派手に壊れて行く巨体ゴーレム。ベンディスはそれを避けて、やっぱり後方へと素早く退避して行く。
術者の癖に身のこなしはそれなりなのは、素のレベルが高いせいなのかも。向こうが下がってくれてる隙に、こっちもポーションで回復出来るから助かっているけど。
こんな事なら、嫌がらせも兼ねて今すぐ《高利貸》を発動させてやろうか? 向こうも恐らく弱体化する筈だし、不可能では無いとは思うんだけど。
難点は、こちらのスロットをある程度弄らないといけないって事なんだけど。セットしている《耐性上昇》が、さっきからクソの役にも立っていないし。更には《封印》されたスキルも、既に2つも出て来ているし。
いいかな、いい加減やりたい放題されて腹も立って来た。
そんな訳で、今度は3体のゴーレムを盾に、ニヤケ面で近付いて来たベンディスに《高利貸》を発動させる俺。途端に驚いて、電撃に撃たれたような顔付きになる奴を見て、束の間
あまりに大量に入って来るSPやらアイテムの数々に、お前はどんだけ俺に貸しを作ってたんだと呆れてツッコみつつ。ちなみに目の前に山と積まれて行く品々は、すかさず《空間収納(中)》行きへ。
それにしてもさすがに管理補佐官だ、スキル慣れいているのか呆けていたのは一瞬の事で。押野やらの生徒指導とは違って、速攻で立ち直ってこちらを鬼の形相で睨んで来た。
恐らく何をされたか分かったのだろうが、まぁ一足遅かったよな。こちらも装備を整え直したり、スキルポイントを弄ったりする時間は無いけど。
弱体したって事なら、同じラインに立てたかも。
いや、何だか空の模様がヘンと言うか、今気付いたがこのすり鉢状の舞台の上空に異変が。鳥が数多く集まって来ていて、どうやらスレイのせいなのかも?
何が起こるんだと、俺はちょっと引いてその成り行きを眺めるのみ。何しろこんなの、打ち合わせに無いと言うかプランの範疇外のイベントである。
とか思ってたら、まるで上空の黒い影が吸い込まれるように落下を始めた。1つの意志を持つ糸の筋のように、狙いを定めて物凄いスピードで落下して行く。
驚く俺の前で、もっと驚いていたのは恐らく標的にされたベンディスだったろう。土系のオートガードもお構いなし、鳥の群れは多少の犠牲も
見ているこっちは心配だが、いつしかベンディスに攻撃が通っていて。
数十秒後には、生き残った鳥の群れは一斉に上空に飛び去って行って。残されたのは、その場に無防備に佇む《封印》の術者と幾匹かの鳥の死骸と言う。
呆気にとられた俺だが、このまたとないチャンスを逃すのは具の骨頂と思い至って。《投擲》で左手に持つ、緋金の短槍を思い切りブン投げてやった。
果たしてその時点で、奴の息の根は止まっていたのかどうかは定かでは無いけど。俺の一撃で、またもやレベルが上がったのでそう言う事なんだろう。
それと共に、すり鉢状だった舞台が元の地形へと戻って行く。それから従者たちやスレイも、俺の元へと戻って来てくれて。良かった、スレイが戻って来てくれて。
それだけで、この勝利の結果よりずっと嬉しい結果である。
まぁ、そうでも思って無いと、人を殺めてしまった忌避感を上手く処理出来ないからね。後は《高利貸》で戻って来た大量のスキルや装備品、それで上手く気を反らして。
アイテム類も結構あって、レベルアップ2回分も含めて相当な戦力アップと言うか回復と言うか。つまり目論見通りに、掛けられていた《封印》も全て解けてくれた。
その事実だけでも万々歳だが、《高利貸》で実にSP50Pと、お金が40万JPも振り込まれていた。他にも、SPジュエル(中)とPカプセル(中)が2個ずつ。
それからスキル書《簡易封印》《盾術》や、生命の実とマナの果実が1個ずつとか。更にはコアが1個と、魔石(大)が2個に魔石(中)が3個。
また塔の作成とか、ひょっとして可能なのかな?
俺は造り方を知らないから、猫に小判な状態だけどね。それから『ゴーレムの種』が1個と『勇猛の盾』と言う装備品が1つ。《日常辞典》では、盾には《HP回復》が付いてるそうだ。
後は俺が盗まれた装備品が一式、丸々そのまま戻って来た。いや、一部のアイテムは何故か統合されて、性能の良い良品になっている始末。
その1つは『ニルムの革帽子』と『魔回復のバンダナ』で、それが統合されて『魔回復の革帽子』と言う名の《感知》《MP回復》付きの頭装備に。
もう1つは『器用のリストバンド』と『知欲の指輪』が合わさって、『メビウスの腕輪』と言う、《スロット枠+5》の超性能の腕輪に変わっていた。
しかもこれ、装備すると透明化して見えなくなる盗難防止付き!
凄いな、出来ればこんな盗難騒ぎに遭う前に欲しかったかも。まぁ、そのせいで生えて来た性能なのかも知れないけど。何にしろ、使い慣れた装備が戻って来て良かった。
俺は装備変更しながら、そんな事をしみじみ思う。
皆轟春樹:Lv35 職業:召喚士 HP:182(354)
=============-------------- MP:125(495)
物理攻撃:416(278) 物理防御:382(242)
魔法攻撃:318(190) 魔法防御:290(177)
スキル【31(+7)】《罠造Lv5》《日常辞典Lv4》《空間収納(中) Lv4》《氷魔法Lv4》《耐性上昇Lv5》《木霊術Lv5》《魔力操作Lv3》《平常心Lv2》《投擲Lv3》《剣術Lv4》《高利貸Lv4》
予備スキル:《鍵開け》《夢幻泡影Lv4》《餌付けLv3》《追跡》《潜行》《糸紡ぎLv3》《剛力Lv3》《波動術Lv2》《借技Lv2》《人形使役Lv3》《時空Box(極小)Lv4》《購運Lv2》《魂魄術Lv4》《オーラ纏いLv2》《硬化Lv2》《観察Lv4》《光魔法Lv5》《召喚魔法Lv5》《等価交換Lv3》《エナジー補給Lv5》
獲得CP【40,156】 獲得SP【98/10】 JP【2,168,530】
『称号』:《安寧》《天真爛漫》《飛竜乗雲》《脱獄囚》
状態異常:呪い《衰弱》《悪夢》《陽嫌》
装備:銀の槍、手作りフレイル、手斧、耐毒の指輪《耐毒》、才能の指輪《スロット枠+2》、木綿のポーチ《収納倍加》、革のベルト、ヒドラ牙の短槍、緋色のマント《敏捷up》、緋金の短槍、魔回復の革帽子《感知》《MP回復》、メビウスの腕輪《スロット枠+5》、金剛剣、蜘蛛糸のマフラー《空気浄化》
使役:狂乱綿熊、殺人形、古木霊、粘液雫
持ち物:ポーション×8、ポーション(大)×2、マナポ×5、マナポ(大)×2、エーテル×2、架空スマホ、灰狼神の木札、竜の宝、大樹の樹液、マミーの心臓、魔術師の家具一式、魔石(小)×11、魔石(中)×5、魔石(大)×5、毒消し薬×6、万能薬×3、リセット薬×3、鍵開けの札×6、太古の毛玉、勇者討伐の証、白い仮面、マネキンパーツ(右足、左足) 、帰還の札×2、スキル書《触覚感知》《簡易封印》《盾術》、マナ鉱石の大塊、鉄鉱石の大塊、地結晶石の小塊、ミスリル鉱石少々、銀鉱石少々、古樹の挿し木、ヒドラの牙×3、マンモスの牙、ミイラの右腕、Pカプセル(中)×2、SPジュエル(中)×2、生命の実×1、マナの果実×1、コア、ゴーレムの種×1、勇猛の盾《HP回復》
そして気付いた、称号の欄に新たに《脱獄囚》なんて良く分からないのが生えている。何か不名誉と言うか、
効果は良く分からないが、窮地に強くなる系だと辛うじて《日常辞典》で判明。SPも貯まったし、《日常辞典》や《耐性上昇》は上げておいた方が良いな。
《餌付け》も少し上げておきたい、スレイが戻って来なくなったら嫌だから。ハチドリのギミックを与えて、飛躍的に活動範囲が広まっちゃったからなぁ。
それを悪く思いはしないし、最後の手助けはどうやったかは全く分からないが本当に助かった。その件のお礼は述べたけど、スレイは俺の肩に落ち着いてひたすら満足そう。
ギミックの中で、恐らくプルプル震えていると思われる。
それから『CP購買』も、ちゃんと元通りに使えるようになっていた。ポイントは知らない内にかなり貯まっていて、購入商品もラインナップが随分増えていたので。
夢世界とかで、しっかりチェックしたいと思う。今は知らぬ間にマホロバが戻って来て、難儀だったなとか騒ぎ立ててそれどころでは無いし。
奴は無遠慮に、管理補佐官やその配下たちの死体を漁って上機嫌だ。そんな所に遠慮が無いのは、こっちの世界での
あと気になったのは、今回はスキル書で貰えた《簡易封印》と《盾術》の2つのスキルだろうか。自分で覚えるかは微妙だが、《封印》系は散々受けた身としては強力ではある。
悩ましいけど、サユリさんなら覚えられるかな?
「ハルキ、面倒が片付いたんなら移動しようぜ……こんな何も無い領域、本来なら長居するもんじゃないぜ?」
「そうだな……それじゃ、飯食ったら抜け出そうか」
考え込んでいると、死体漁りが終わったのかマホロバが声を掛けて来た。どうやら今後の旅にも同行する心積もりらしい、俺としても相棒がいるのに不満は無い。
従者もいるし、特に寝込みに襲われる心配も無いだろう。
――それじゃあ、飯を食ったらこの“監獄領域”から脱出しますかね?
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