第70話 罰則の奉仕活動1日目



 毎度の夢世界での目覚めは、やはりと言うか酷い喧騒で催された。つまりは戦闘音だ、近くを徘徊していた夢魔の群れをジェームズ達が退治してくれているみたい。

 こちらも慌てて上体を起こして、いつものように戦闘系のスキルをセット枠へと移して行く。それから武器の召喚を……と思っていたら、既に戦闘は終わっていた。

 早いな、今回も雑魚の夢魔ばかりだったのかな?


 嬉々としてドロップ品を拾い始めるジェームズ、シルベスタはこちらに近付いて来て護衛モードの姿勢である。従者の鏡ではあるが、さてこちらはどうしようか。

 やるべき事は、今夜もたくさんある。あり過ぎて、どれから手を付けるべきか迷う程には。そうだな、取り敢えずは《借技》スキルで借りた技の確定と、ステータス上げをしよう。

 忘れない内に、両方こなしておかないとね。


 ちなみに、今日も個人ダンジョン2度突入で、大ボス2体を倒した恩恵でレベルが1つ上がっている。SPジュエルとCPカプセルも、戻り品と報酬を含めて手元に4つもある。

 報酬と言うのは、夕方のメダル4枚での分配報酬の方だ。あっちでも結構アイテムやら装備で良品を貰ったし、そのチェックもしておかないとね。

 皆みたいにスキル書は貰えなかったけど、俺っては借りパク出来るし?


 そし入手した《魔力操作》と《鍵開け》だが、3Pと2Pと両方とも軽いのが良い点だ。もっとも《鍵開け》に関しては、静香に無理やり貸し付けられたスキルだけど。

 ジェームズが大抵チャレンジして開けてくれるから、そんな必要と感じた事は無いけれど。無くて困るよりは持ってた方がいいかな、今後伸ばすかはともかくとして。

 それより《魔力操作》だ、こっちにはハッキリ言って期待大の俺である。


 最近はソロでは、シルベスタを前衛に俺が後衛アタッカー役の場面が多いからな。魔法の威力や精度を上げたいなぁと、最近は思っていた所に丁度良いスキルがあったので。

 それを覚えた《重力魔法》持ちの外木場さんに声を掛けて、今回借りた次第である。彼女も魔法の精度を上げようと、このスキルを欲したのは確実だろう。

 実際、この《魔力操作》は魔法使いには必須の基本スキルらしい。


 これでよく使う《光魔法》や《氷魔法》の威力向上や、精密性アップが期待出来るかな。ついでに早速、レベル2に上げてしまおうか。

 後の候補だけど《魂魄術》もレベル2に、それから《氷魔法》をレベル4に上げようかと考えている。《氷魔法》に関しては、今や《氷華》は俺の必殺技代表だからなぁ。

 それのパワーアップは、地味に必要だと感じている次第。


 《魂魄術》に関しては、正直どんな風に使用感が変わるのかなど見当もつかない。一応のお試し感は強いが、ジェームズとシルベスタが強化出来たら儲けモノだしね。

 



 皆轟春樹:Lv24   職業:召喚士      HP:164(164)  

====-------------------------------           MP:205(326)

物理攻撃:278(163)    物理防御:256(168)

魔法攻撃:204(136)    魔法防御:198(121)


スキル【25(+3)】《夢幻泡影Lv2》《光魔法Lv4》《罠造Lv3》《日常辞典Lv3》《空間収納(中) Lv2》《氷魔法Lv4》《魔力操作Lv2》《鍵開け》《魂魄術Lv2》

予備スキル《餌付けLv3》《平常心Lv2》《観察Lv2》《投擲Lv2》《追跡》《エナジー補給》《耐性上昇Lv3》《潜行》《糸紡ぎLv3》《剛力Lv3》《高利貸Lv2》《波動術Lv2》《木霊術Lv2》《借技Lv2》《等価交換Lv2》《人形使役Lv2》《召喚魔法Lv2》《剣術Lv2》《時空Box(極小)Lv3》《硬化Lv2》《オーラ纏いLv2》《購運Lv2》

獲得CP【11、952】   獲得SP【61/7】   JP【2、310、000】 


『称号』:《安寧》《天真爛漫》《飛竜乗雲》

状態異常:呪い《衰弱》《悪夢》《陽嫌》

装備:金剛剣、オーガ爪の槍、銀の槍、手作りフレイル、ワニ革の手甲、蜘蛛糸のマフラー《空気浄化》、木綿のポーチ《収納倍加》、蜘蛛糸の作業着、髑髏の指輪、手斧、古びた腰帯、ニルムの革帽子《感知》、器用のリストバンド《スロット枠+3》、魔回復のバンダナ《MP回復》

使役:狂乱綿熊、亡霊重鎧、隠密鼬


持ち物:ポーション×8、マナポ×5、薬草軟膏×4、架空スマホ、灰狼神の木札、竜の宝、竜の爪、竜の鱗、竜の心臓、大樹の枝、大樹の樹液、マミーの心臓、マミーの死霊布、インプの被膜、蜂の毒針、骨くず、巨大植木鉢、魔石×9、魔術師の家具一式、襤褸布、ワーム肉、聖水×2、毒消し薬、爆裂卵×7個、リッチの魔杖、リッチの法衣、オーガの骨、魔鷹の矢羽根×10、魔狼の牙、グールの毒爪×3、宝石、壊れた部分鎧(耐水、腐敗)、豪奢な槍、リセット薬×1本、魔石(大)×1、革装備、保存食7日分、鍵開けの札×7枚、硬質な骨、太古の毛玉、魔法の水筒、雨具、煙玉、薬品セット箱、




 1つレベルが上がって、数回ステアップ作業をこなしてスロット枠+1を勝ち取って。やっぱり段々と、レベルが上がるのに必要経験値が多くなって来ている実感が湧いてしまう。

 女子からの戻り品の成長カプセルを使っても、ほんの少ししか経験値バーは上昇してくれないし。この先の長い道のりを考えると、気が遠くなりそうになってしまう。

 つまりは管理者のアイギスに勝つとか、その辺りの目標的にだ。


 大ボス2匹討伐で、SPが12P 増えてくれた。そしてSPジュエル4個使用で、これまたそれなりのポイントをゲットして。予告通りに《魔力操作》と《魂魄術》をレベル2に、そして《氷魔法》をレベル4に上げてみた。

 《魔力操作》だが、どうやら詠唱時間にも関係しているらしい。少しだが、詠唱時間が短くなっている感覚がある。メッチャ便利だな、今後も上げて行きたいかも。

 俺ってボス戦は魔法使いだからな、団体戦では戦士だったのにね。


 そして《魂魄術》の変化だが、確かにジェームズとシルベスタに多少の変化はもたらした様子。ただし微小過ぎて、あまり良く分からないレベルだったけど。

 それでも彼らを強化するのに、このスキルを上げて行くのが良いと分かったのは収穫だ。上げて行く内に、どこかで強大な変化が無いとも限らないのだし。

 そんな訳で、《魂魄術》スキルは今後とも上げて行く候補に。


 《氷魔法》に関しては、毎度お馴染み新しい魔法を2つ程覚える事に成功した。1つは攻撃魔法で、割と範囲に効果が及ぶ感じっぽい。

 試し撃ちをしたいけど、夢魔を探しに彷徨うのもいい加減飽きたし止めておこう。もう1つの魔法は《氷の壁》の上位版みたいな感じらしい。

 これは試し撃ちしてみて、一応の使い勝手とそのフォルムを堪能出来た。


 氷の壁が2周り大きくなって、しかも棘付きの柵みたいな形に進化している。これを前に作って、その陰から魔法などで攻撃とかの作戦はアリかもだな。

 ちょっと楽しいな、スキルのレベルを上げて強くなるのはいつでもウキウキしてしまう。次はどれを上げようかと妄想しつつ、暫く時間を過ごしていたら。

 ジェームズが、移動しないのなら錬金作業させてと催促して来た。


 おっと失礼、例の錬金机が欲しいんだな……そして1日で、また空間倉庫の中身が増えてしまった。2個のダンジョンのドロップ品と、夕方のメダル報酬品である。

 今度施設のお店に寄って、いらないモノを大量処分しようかな。昨日もそんな事を考えていた気もするが、なかなか時間が取れないこの現実。

 ペナルティ奉仕中も、やっぱり忙しいのかな?


 その辺の事も考えて作戦を練りたいけど、どんな作業をするかが不明だしな。取り敢えずは保留するしかない、別の事を考えようか。

 そう言えば、部長のレポートを読みかけだったな……集中して欲したら、夢世界に召喚出来てしまった。何という万能性、《夢幻泡影》は本当に優秀である。

 それじゃあ、本格的に読み進めてみようか。


 前半のページは、前にも読んだ内容なので読み飛ばして行ってと。後半に早速、気になる箇所を発見した。どうやらこの施設のような集積所は、後2か所あるらしい。

 集積所の本来の意味は、ゴミやモノを摘み集めておく場所なので、本来はこのモール施設の呼び名には相応しくはない。ただし、俺達は異界に無理やり連れて来られた商品みたいなモノである。

 彼らは明らかに雑に俺達を扱っていて、この施設のような合流ポイントで、まとめて選り集めてふるいに掛けている。自分たちに楽な方法で、こちらの都合には一切関係なく。

 嫌になるよな、人権侵害も甚だしいその手法には。


 愚痴はその位にして、とにかく後2つ程そんな施設が存在するのは確定っぽい。そこを通り抜けて、ようやく浅層を脱出して下層または中層へと到達出来るとの事。

 そこに自由があるのかは別として、少なくとも安全に過ごせる異界の町は存在するそうで。後はお金さえあれば、戦わなくても良い生活に戻れるようだ。

 お金が無い場合は、まぁ何かしらの職に就く必要はあるみたいだけど。


 ふむぅ、異世界モノの王道だと、冒険者とかそんな感じで生計を立てるのかな? それだとあまり、今までの探索道中と変わりは無い気がするんだが。

 驚いた事に、レポートには『元の世界に帰還した仲間』の実例もあったと書かれていた。どこかの誰から聞き出した情報なのだろうか、今度詳しく部長に訊いてみなきゃだな。

 これが本当なら、明確な目標になり得るじゃないか!


 更に後半のページは、割と面白い記述で溢れていた。我々が無理やりやらされている探索者の考察など、鋭い推測で掘り下げられていて。

 探索が段々と辛くなって、淘汰されて行く仕組みは当然あるとしての前置きで。ドロップアウトした者は、下支えで生きて行く選択も用意されているとの記述で。

 つまりこちらの世界に馴染めない者は、無理せずとも大丈夫って事らしい。


 確かに3階の商店街で知り合った、ジンって人も引退組だって言ってたしな。皆が高みを目指す必要は無い訳だ、逆にそれは連中の思うままって事でもあるし。

 本当にそうだな、奴らが欲しているのは優秀な戦士なのだろうし。



 レポートの最後には、要注意人物及び相談可能人物の紹介が載っていた。要注意人物とは、まさにあの“殺人鬼”の称号持ちの岸那部って奴だ。

 それから生徒会チームが遭遇した、“陰陽師”の鬼使いと言う人物。ついでの様に女生徒で“隷属”スキル持ち確定の、粕谷の名前も載っていた。

 確かにコイツ等と遭遇したら、厄介以外の何物でも無いよな。


 それから相談役として、“呪い”系の処置は副生徒会長の福良木を頼って大丈夫と書かれていた。おっと、そう言えば俺も呪いを解除する依頼を出すのを忘れていた。

 あの時は、福良木がスキル封印されて役立たずだったんだよな。30万も貸したんだし、そのお礼に解呪を頼むとするか。忘れないようにしとかないと、すれ違いの約束反古だと悲惨だしな。

 あと数日もすれば、福良木のスキル封印も解除される筈。


 それから武具生成の相談には佐々品さんの名前が、薬品関係は嶋岡部長の名前が載っていた。なるほど、至れり尽くせりだな……ついでに人生相談は、ラグビー部の古河谷こがたに監督にしに行って良いらしい。

 まぁ、思いつく限りでは、この辺では唯一の頼れる大人ではあるしな。あの人も一応は教員だし、生徒の悩みの1つや2つなら平気だろう。

 問題は、その悩みの解決法を誰も知らないって事だけどな。


 今夜も、ジェームズの錬金作業は順調らしい。俺はチビッ子スライムに餌をやりながら、鉢植えのガーゴイルの成長具合を何となく眺めて一息つく。

 夢の中が、一番落ち着くって妙な気分だな。ガウト親方から譲って貰った敷物を地面に敷いて、俺は寛ぎながら今後の境遇について思いを馳せる。

 そこにはまるで見通しの立たない、薄闇色の未来しか思い浮かばなかった――





 さて、強制労働が待っている1日目の朝だ。この部屋とも今日でお別れ、何となく哀愁に浸りながら数日を過ごした部屋を出て。大食堂に出向いたら、何とパペットに入場拒否された。

 ああっ、そう言えば今日から施設利用も別料金なのか……朝メシどうすっかな、中を覗いてみるが女子チームもいないみたいだし。

 いいか別に、時間も早いけど1階の受付に向かおう。


 受付嬢はこんな早い時間にも関わらず、真面目に働いていてこちらにも順当に対応してくれた。今後は1階から上の施設は、お金を払わないと使えないらしい。

 そしてロビーの隅っこの扉まで連れて行かれて、そこから下の階へ向かうように指示された。素直に従う俺、扉の向こうには古びた階段が下へと伸びている。

 それは薄暗く湿っていて、まるでこっちの未来を暗示しているよう。


 嫌な想像は程々に、そこから暫く進むと途端に広い空間に出た。L字のロビーが拡がっていて、右手に受付が窺える。左手は、寛げる椅子や机が置かれたスペース。

 奥の方に大きな扉があって、そこから外に出られるようになっているっぽい。更に奥の突き当りには、どうやら居住区やトイレや食堂に繋がる通路があるみたい。

 一応は案内板が出ているので、初見でも迷う事は無さそうだ。


 取り敢えずは施設内の散策をして、食堂が空いてたら朝食を取ろうか。そして歩き回った結果、知り得た情報は割と残念なお知らせばかりだった。

 つまり1階より上の施設と、雲泥の差があるのだ。グレードと言い表そうか、それが明らかに3段くらい劣っている有り様で。

 それを使うのにも、しっかりと支払いを請求されるみたい。


 まぁ、タダで全てを賄って貰うのも怖い話には違いないので。俺は小汚い食堂で、500JPの朝食セットを頼んでみる事に。

 給仕は相変わらずパペットで、愛想の一つもない。それに準じた訳では無いだろうが、朝食セットもどことなく味気ない感じ。

 食パンをコーヒーで流し込み、さて飯の時間はお終い。


 適当に時間を潰して、再び向かった受付けエリアだけど。やっぱり人の姿は皆無で、寂しい限りである。本当にここで、場所はあっているのだろうか?

 別に無理に仕事をしたい訳では無いし、解放されるためにもさっさと話を進めて欲しい。とか思ってたら、受付のスペースに依頼表が貼ってあるのを発見した。

 しかもかなりの数あるな、幸いにも依頼は選び放題っぽい。


「ようこそ、いらっしゃい……こんな朝早くからご苦労様です、皆轟様。こちらは依頼の受付ロビーとなっております。それについての説明を、初回なのでさせて頂きますね?

 まずは罰則の奉仕活動ですが、100ポイント貯めるまで行って貰う必要があります。依頼の受け方は基本的に自由ですが、ポイントによって難易度も変わって来ますし、失敗すればペナルティも発生します。

 ここまで、何か質問はございますか?」

「えっ、いえ……大丈夫です」


 驚いた、突然に受付けの内側に人が湧いたと思ったら、流暢りゅうちょうにこの施設の説明を始めたのだ。ワープ移動かな、ここの施設では定番なのか?

 とにかく情報は貰えた、俺がここでやるべき事は100Pの依頼ポイントを貯める事らしい。そしたら晴れて自由の身だ、その上報酬も多少貰えるとの事だ。

 有り難いな、タダ働きって意欲が湧かない事請け合いだし。


 ただし、地下の施設利用料は自費で払う必要があるみたい。宿泊費は5000JPなので、上の施設よりは安く済むそうで助かる。

 提示された依頼内容だが、大半が楽な仕事ばかりとの事で。何しろここに流れて来る連中は、上の試練をドロップアウトした落ちこぼれ人間の扱いなのだ。

 探索者として不向きな者の、再利用みいな意味合いの施設には違いなく。


 そんな意図が透けて見えるのは嫌だが、ここは大人しく従うしか手は無いので。職業訓練みたいな意味合いもあるのかな、大きなお世話だと思うが、異界から無理やり連れて来た人材を無駄にしない心意気は立派かも。

 使い捨てよりは遥かにマシだよな、連中ってばやり兼ねないから。





 ――それじゃあ、早速幾つか依頼を受けようかな?









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