第69話 入りたいけど入れない!
何とここに来て知らないルールが出て来るとは、完全に意表を突かれてしまった。でも考えてみれば、1人で何度も突入出来るとしたら、不公平感が半端無いのは確かだなぁ。
冷静に考えれば、そんな規則はあって当然かも。むしろ、10枚分も使わせて貰えて有り難うって感じ。ただまぁ、こんな場面で知りたくは無かったよ。
さてどうしよう、俺はもう全く入れなくなってしまった。
「えっ、ハルちゃんはもうダメなの……? 私はどうなの、後何枚使える?」
「静香は3枚足す3枚で、今6枚使ってるからな……後4枚使っての突入が可能だな。部長が女子チームを呼びに行ってるから、何とか人数揃えて突入が最終手段かな。
それで駄目なら、潔く諦めるしか無いな」
それで足りないのは1人~2人分だろうし、俺と部長がドロップアウトすれば良い話。それほど慌てる事態では無いので、間違っても命を懸けてメダルを獲得なんてして欲しくはない。
俺はもう、何の手出しも出来ない身分だしな。今日のメダル獲得数は、2回の個人ダンジョンで14枚+団体戦で1枚の15枚である。
全部足せば48枚、女子チーム分のメダルには既に充分だし。
などと冷静に考えていると、血相を変えて女子チームがやって来た。先頭は玖子で、その隣に宮島さんや佐々品さんが真剣な顔付きでこちらを見ている。
説明は大まかに、嶋岡部長から聞いていたらしいチームリーダーの玖子ではあるが。俺に突っ掛かる勢いで、細かな説明を求める仕草はやめて欲しい。
こっちだって不本意なのだ、不条理に出禁を喰らった気分。
「真野宮さん、ちょっと落ち着いて……回数制限を知らなかったのは、別に皆轟君の落ち度ではないと思うの。私達は彼や静香ちゃんにおんぶに抱っこ状態だし、文句を言える立場ではないとも思うし。
ここは冷静になって、どうするべきかを皆で話し合いましょう?」
「そっ、そうだね……チームの窮地だし、行けと言われれば私と持木ちゃんも、個人ダンジョンとやらに潜るよ?
でも、成果が上がらなくっても怒らないでねっ!?」
佐々品さんと宮島さんの一言に、ようやく冷静になってくれた玖子。個人チケットの残り枚数を訊いて、皆でどう使えば良いかと話し合いを始めている。
俺は少し離れた場所から、複数枚の使用での難易度の上昇とか、個人ダンジョンでの注意点をアドバイス。必要以上に近付かないのは、また噛み付かれたら嫌だからである。
女って本当に、感情が先に立つ生き物だなぁ。
「それじゃあ今度は、静香がチケット4枚使用でで突入するのね……ちなみに3枚使用の難易度って、どの程度なの、静香?」
「んとねっ、フーちゃんとクゥちゃんが一緒なら、割とメダル3枚集めるのは楽なんだけどぉ。戦闘の場面だと、1人じゃあ大変だなって時が結構あるよ?」
「えっ、静香ちゃんですら大変な敵の強さって事……!?」
静香の報告に、思いっ切りビビり声を上げる持木ちゃんである。他の女子も騒然としてるし、これはチケット2枚使用もお勧めは不味いかも知れない。
俺も遠慮なく、ソロダンジョンは下手したら命を落とすぞと警告を発しておいて。無理せずチケット1枚使用で、立候補者のみの突入を提案する。
そしたら、外木場さんと近藤さんがおずおずと挙手をして。
2人は魔法スキル持ちで、確か《重力魔法》と《波動術》を習得してたんだっけか? つられる様に《木霊術》を貰った浜越さんも手を上げて、後衛術士が揃って立候補するらしい。
それを見て、悩んでいた佐々品さんも挙手して名乗りを上げた。手には《等価交換》で作ったオーガ爪の槍があるので、戦えない事は無いだろうけど。
攻撃魔法も無いのでは、危険では無かろうか?
それでも戦闘経験ならあるからと、譲らない構えの佐々品さん。結局は玖子を含めた7名で、1枚チケットを消費して個人ダンジョンに挑む事となって。
かなり心配ではあるが、俺の立場では助言位しか与える事が出来ないと言う。とにかく退出用の魔方陣の位置をキープして、危なくなったら逃げ帰れと皆に念を押して。
残り時間も1時間ちょっと、本当に最後の挑戦に挑む女子メンバーたち。
「しまったな、僕も立候補すれば良かった……女子って何と言うか、度胸あるなぁ」
「そうだな、佐々品さんとか心配でならないんだけど……静香が仮に4枚の獲得に成功したとして、残り3枚足りない計算になるのか。
7人中、半分がメダルを持って帰ればミッションは成功するな」
女子チームで1人残った磯村さんは、祈る様な表情で皆の無事な帰還を待っている。そこは俺も祈っておこう、メダルの獲得は別にして。
ちなみに俺の知らない内に、女子チームは団体戦をこなせていたらしい。知り合いの生徒を当たって、何とか不足の枚数を買い取って。
そしてラグビー部チームと再戦して、何とか1勝をもぎ取れたそう。
おおっと、向こうも待ち時間で成果を上げていたのか。勝ったのは執念の玖子で、俺の代わりには《重力魔法》と《捕縛術》を駆使して、外木場さんが頑張ったそう。
結局は負けてしまったけど、女子チームは地味にここ数日は戦闘訓練に明け暮れていたしな。今回のソロダンジョンでも、それなりの成果を上げてくれるかなって期待はそこそこある。
どちらにしろ、今の俺たちは待っているしかない。
じりじりとした時間が流れて行き、俺たちは壁際のソファに移動して時間とにらめっこ。時折話はするけど、雑談なんてして寛いでる状況でも無いし。
どことなく緊張状態の時が周囲を支配して、待つだけってのも大変だなとか思っていると。6時まであと10分ってところで、まずは静香が戻って来た。
さすが慣れているだけあって、見事なお手並みだな。
「ハルちゃん、言われた通りにレベル上げたら、戦闘とか随分楽になったよっ! 凄いねぇ、ハルちゃんのプ、プロデュース……?
そして結果発表っ、えっとぉ……全部で4枚持って帰れたよ、褒めてっ!」
「おっ、普通に凄いな……よくやった、静香」
じゃれて来る幼馴染を、適当に褒めてやってメダルの数を確認。さすがに数え間違いは無いだろうけど、静香は抜けている所があるからな。
うん、しっかり4枚ある……さすがに静香の召喚獣2体は優秀だ、他のドロップ品も結構な数があるし。それをマネージャーの磯村さんに渡しながら、静香はご満悦な表情。
取り敢えず、エースが無事に戻って来て良かったよ。
そして残りは2枚となって、俄然に目標達成に希望が湧いて来た。それから5分後、続々と女子チームの面々が戻って来るけど。
残念ながら、メダルを見付けて戻って来た女生徒は皆無と言う状況。みんな戦闘に必死で、取り敢えずは生き残りアドバイスに懸命に従った様子で。
ソロでの経験も出来たし、とにかく無事の帰還を祝いたい。
確認したら、戻って来ていないのは玖子と近藤さんと浜越さんだった。近藤さんはバレー部所属で《波動術》持ち、浜越さんは園芸部で《木霊術》持ちの女生徒だ。
6時になるとどうなるのかは不明だけど、残り時間的にはあと僅かしかない。心配そうにゲートの方向を見守るメンバーたち、その時ゲートが1人の女生徒を吐き出した。
満身創痍だが、あれは近藤さんだ。
「コンちゃん、大丈夫……っ!?」
「わわっ、酷い怪我してるっ……!!」
慌てて駆け寄る俺たち、俺は光魔法レベル4で覚えた《光治癒》と言う上級の治癒魔法をすかさず唱え始める。磯村さんも、自分の持つ治癒術を使い始めている様子。
近藤さんは意識はしっかりしていて、誇らしげに手に持つメダルを差し出して来た。どうも《波動術》の探査魔法が活躍してくれたらしく、やはりそこがポイントみたい。
広いエリア内で、ただ歩き回っても
「凄いよ、近藤さん……これであと1枚まで来れたよ、本当にお手柄だ!」
「でも無理し過ぎ、こんなボロボロになって……」
確かに無理してまで、メダルに命を掛ける価値はないけれど。ガッツはあるよな、手にしていた槍は半ば折れてるし……。恐らく壮絶な戦いを乗り越えて、退出用の魔方陣に飛び込んだのだろう。
俺たちの治癒の効果もあって、暫くしたら近藤さんも元気を取り戻した。そして残り時間もあと僅か……緊張感が高まる中、しかし次にゲートを潜って来る影は無し。
そして6時になった途端、俺たちはいつの間にかロビーに立っていた。
「……あれっ、ここは1階のロビー? いつの間に私たち、移動しちゃった?」
「あっ、玖子ちゃんと浜越さんもいるよっ? どうだった、メダル取れたの玖子ちゃん?」
宮島さんが呟いたように、ここは1階のロビーに間違いは無い様子。ロビーの受付嬢に加えて、いつかの管理者フォレスト以下、管理補佐官らしき姿が数名揃っている。
ご丁寧なお出迎え、どうも5日間の日程はこれにて終了らしい。
「ご苦労だったな、この時間をもって全ての競技への参加は終了だ。さて……それでは早速、君たちが集めたメダルを出して貰おうか?」
まさにグゥの音も出なかったな、向こうは遥かにレベルの高い連中だったって事もあるけど。こちらが指定の数に到達出来なかったのも、紛れもない事実だったりするので。
反論とか言い訳とか、一切受け付けない雰囲気もあったしなぁ。そんな訳で、予定通りに俺だけがクリアならずの失格扱いを受け入れて。
明日から、罰則の奉仕活動に取り組む破目に。
今夜の宿までは、無料なのが地味に嬉しいけど。明日からは、俺だけ地下の共同宿での生活が待っているらしい。ってか、この施設は地下にも部屋があったみたい。
しかし強制労働か、どんな事をやらされるんだか。
今はいつもの1階の大食堂で、チーム全員が揃っての夕食&反省会の最中である。全体的に暗い雰囲気だが、それは仕方が無いと思う。
でもまぁ、奉仕活動が俺だけで済んで良かったよ。話し合いでは、チームが俺を待ってこの施設に留まろうって事で、今後の活動が纏まりかけているけど。
俺としては、女子チームが先に旅立って貰っても全然構わない。
あの後フロアの受付嬢に色々と質問をして、この施設にお金を払って留まる方法を入手したのだが。やはり宿泊&施設利用料で、1人1万円は一日の滞在で掛かりそうだと判明して。
追い出されずには済みそうな上、クリア組も簡単な仕事なら受けられるシステムがあるらしい。それで宿代を浮かせられる希望が出て来て、それは良かったのだが。
やはり合計10名の、滞在費用は馬鹿にならない。
「でもここを追い出されてのルートは、上の層へと進むのみで引き返せないって言ってたからね。次の集積所に向かう事になると、残されたハルとは距離が開くばっかりになっちゃうよね。
随分と手の込んだ仕掛けだけど、合流の当てが薄まると結構辛いでしょ」
「ダメだよ、ハルちゃんを1人にさせたらっ……そんなの寂しいじゃん、一緒にいなきゃ!」
「寂しいって静香ちゃんの気持ちはともかく、皆轟君はメダルをほとんど獲得した、ウチのエースには違いないんだし。今後も一緒に行動するのは、良い案だと思うわ。
私達の生存率も上がるだろうし、静香ちゃんも張り切るだろうしね」
佐々品さんの茶化した言葉はともかく、女子チーム的には概ねその行動方針で良いとの認識の様子。ただし、長期滞在になった場合の、お金の算段が心配なのも確かで。
このチームでもマネージャー的立ち位置の磯村さんが、収支報告的な事をこの場で発表しくれて。主に俺が個人ダンジョンで稼いだドロップ品を、換金したお金が50万JP以上あるそうだ。
それでも10人がこの施設で宿泊すると、5日で消え去ってしまう。
「皆轟君が分けてくれた僕の資産が、まだまだ200万JP以上残ってるよ。取り敢えずこっちのチームもパワーアップを図りつつ、皆轟君の罰ゲーム終了待ちは僕も賛成だよ。
……でないと、男子は僕だけだから居心地が」
「そうだね、それじゃあチームの方針はそれで決まりって事で。ハルには罰則の仕事を頑張って貰って、こっちは別で力を蓄えるって事で。
クリア報酬もたくさん貰えたし、まずはその分配からかな?」
嶋岡部長の言葉を受けて、玖子が磯村さんへと顔を向けると。はいよっと、食事の終わったテーブルに先ほど貰ったクリア報酬を乗せて行く。
その内訳は主に、人数分のスキル書と魔法のアイテムだった。鑑定したところ、スキルには多少の当たりも含まれている。魔法の品も、『魔法の鞄』が4つに『疲労軽減の靴』が2足、それから『耐寒のローブ』が3枚に『魔回復のバンダナ』が1つと割と豪華。
特にMP回復効果のバンダナは、大当たりかも?
スキルも10個一斉に貰えれば、当たりも幾つか入っている。《司祭セット》9P《鍵開け》2P《罠感知》2P《魔力操作》3P《一般知識》3P《空間収納》5P《性豪》3P《薬品知識》4P《木材加工》3P《炎舞》4Pと、なかなかのモノ。
特に9Pの《司祭セット》と5Pの《空間収納》は当たりっぽい、他にも便利そうなスキルがチラホラ。俺的には3Pの《魔力操作》が光り輝いてるな、同じく3Pの《性豪》はいらないが。
ただしネタにはなりそうだ、誰が取得するか揉めそうだな。
結局は《司祭セット》を磯村さんが、近藤さんが《空間収納》をゲットしたみたい。静香なんかは《鍵開け》が欲しいと
もっと便利なスキルがあるのに、本当に考えナシだな……本人は持木ちゃんが使ってるのを見て、羨ましかったからと言っているけど。
その持木ちゃんが、こっそり《性豪》を貰ってたのは見なかった事にしておこう。
後は玖子が《罠感知》を、佐々品さんが《炎舞》を分配で貰っていた。他の報酬だけど、アイテム類では薬品類に加えて銀製のナイフや革の防具が数セット、7日分の保存食や魔法の水筒が人数分、雨具や非常灯や煙玉や路銀で1万JPも人数分ってところか。
ちなみにアイテム類は、メダル4枚までは揃えた俺も貰えた。スキル書こそ貰えなかったけど、魔法のアイテムは『魔回復のバンダナ』がラッキーにも貰えてしまった。
そして《魔力操作》を取得した外木場さんから、《借技》で拝借済み。
自分のも貸すよと
取り敢えずは明日から別行動になるけど、俺の目標は定まっている。何とか早い時期に、罰則の奉仕活動から抜け出して皆に合流する。
明確に目標が定まっているから、変にブレる事も無くて良いな。
それ以外に細かい決まり事を話し合って、その日は終了の流れに。決定事項としては、毎日の夕食時には合流して情報交換しようとか色々。
少し心配していたけど、俺もチームの一員として受け入れられて来たかな?
解散から案の定ついて来た静香を、何とか1時間で追い返す事に成功して。まぁ、部長と佐々品さんも一緒にいたから、変な事にはならなかったし、大半は真面目な話をしてたしな。
話題の大半は、それぞれ取得したスキルの効能についてだった。部長も《薬品知識》をゲットしたと嬉しそう、半ば《性豪》を押し付けられると観念していたみたいだから。
持木ちゃんには、本当に感謝しか無いのだそうで。
そんなよもやま話を1時間余りで終わらせて、俺は5日間過ごした自室でようやく1人になれた。考える事は多いけど、何より嶋岡部長が新しく増ページした、レポート用紙の読み込みが先かなぁ?
俺と静香が個人ダンジョンに突入している間、女子チームも無駄に時間を過ごしていた訳では決して無く。槍とか弓の戦闘訓練をしたり、色んな階で情報収集をしたり。
そして部長が、それをレポートに
完成品には程遠いけどと、本人は謙遜していたけれど。チラッと斜め読みしてみたが、色んな項目が増えていて読み応えは充分にありそうで楽しみでしかない。
とは言え、今日は団体戦に個人ダンジョンにと働き過ぎて、思い切り疲れてしまった。何で静香は、俺より働いていてあんなに元気なんだ?
まぁいい、明日からもハードな日々が予想されるし。
――夢の世界に、続きの工程を委ねるかなぁ……?
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