第63話 特別チケットダンジョンに挑む
あの後の顛末だが、まぁとにかく泣き喚く静香を強引に黙らせて。マイナス10枚問題の問い質しに、少々時間を取られたけど。
この辺の取り扱いは、俺と玖子は昔からの役割なので慣れている。そして聞き出した新事実、どうやら静香がメダル10枚ギッたのは、友達の為らしい。
粕谷の奴隷としてこの施設に辿り着いた、
どうやらこの2人の女生徒、スキルで隷属させられてチケットも全部没収させられていた様子で。途方に暮れていたのを、静香が偶然にロビーで目撃して。
元の世界から親交があった両者たち、静香が自分に任せておいてと大風呂敷を拡げてしまい。困った結果、自分のチームのメダルに手を出したと言う事らしい。
うん、思いっ切り小学生の行動原理だなっ!
とにかく友達を助ける為ってのは分かった、問題はチームに残された時間が1日とちょっとって事だ。現在のチーム獲得メダル数は29枚……うん、かなり不味いな。
チームの雰囲気も不味くなるかなと思ったけど、幸いにも静香がチームで一番の貢献人だって事も加味されて。非難の声が上がらなかったのは幸いだ、ハブられずに済んで本当に良かった。
その汚名だが、今から潜る特別チケットのダンジョンで
「えっ、それじゃあ……この特別チケットも、2枚注ぎ込んでの消費が可能なの?」
「はい、大丈夫ですよ……ただし、難易度はグッと上がりますね。レア種が確定しているエリアですが、それが2種類出て来ます。
それからこのエリアですが、メダルよりアイテムやスキル書の入手確率が高くなってます」
そうなのか、てっきりこのダンジョンでメダル大量ゲットだぜと浮かれていたのだけど。まぁ、スキル書も魔法系とか欲しいには違いないかな。
一緒に突入予定の仲間に問うてみたが、それで全然構わないそうなので。ちなみにメンバーだが、静香と嶋岡部長の2人に加えて俺がリーダー役を担う予定。
手強いダンジョンらしいので、気合を入れて行きたい所。
ところで3番目の後衛に嶋岡部長が決まった理由だが、俺の独断と偏見である。女子チームの誰かに経験を積ませるための同行をとも思ったが、途中で人選が面倒臭くなって。
もう部長でいいやんと、頼み込んだらあっさりと承諾して貰った次第だ。逆に汚名返上をと必要以上に張り切っている静香は、半分以上は強制連行である。
トップレベルの戦力だから、まぁ当然の人選ではあるけど。
「強い敵が2匹も出て来るんだね、頑張るよ……フーちゃんとクゥちゃんも、一緒に頑張るって言ってるよ!」
「僕も頑張るよ、とは言ってもサポート要員が精々だろうけど。今回は強敵が確定らしいから、邪魔にならないように下がってついて行くね」
嶋岡部長は相変わらず謙虚だな、静香に限っては既に自分のヤッた過ちを綺麗サッパリ忘れている様子。ご機嫌に召喚した2匹を撫でながら、出発の合図を待っている。
まぁ、時間も押してるしさっさと入るか……受付嬢の話だと、こちらの施設は6時には入場を締め切ってしまうらしいので。後1時間あるけど、俺たち以外に人影は無し。
なんでかな、有効に使えば自己強化もメダルゲットも可能な施設なのに。
それは良いとして、さて突入だ……俺はジェームズを従えて、2人に視線で合図を送る。探索姿の部長と静香が、それに頷いてゲートへと歩み寄る。
ここも定番のワープゲートからの移動で、さっきまで存在しなかったゲートが壁に突然出現して。昏い闇色のそれに向け、俺を先頭に入場して行く。
さて、手強いと噂されるエリアの難易度は
特別チケットエリアは、意外な事に現代建築のダンジョンだった。ただしほぼ全てが倒壊していて、更には水没していると言う足場の悪さ。
建物も3階建てとか、元はそれ以上の高さの建築物ばかりで。倒壊しているとは言え、視界は
さっそくそれらを、倒しに向かうフーちゃんとクゥちゃんコンビ。
俺もシルベスタを呼び寄せて、前衛の強化に勤しんでと。ジェームズは部長と一緒に後衛に配置、そして敵の姿を求めて歩き始める。
雑魚はどこにも配置されていて、大トカゲや水ネズミや大水蛇の姿を確認した。静香がはしゃいだ声をあげて、一緒に探索は初めてだねと声を掛けて来る。
そう言えばそうかな、特に意識してはいなかったけど。
「張り切り過ぎて1人だけ突進するなよ、静香。ってか、いつもあの2匹は自由に行動させてるのか?」
「そうだねぇ、それで宝箱とかあったら知らせてくれるし。敵も勝手にやっつけてくれるし、凄く便利な子たちだよ?」
そうらしい、俺のチームで言うとキャシータイプだな……彼女も召喚獣だし、自由奔放なのはそう言う設定なのか? まぁいいや、確かに便利には違いないし。
連携で狩るってのは、弱い奴らの戦法だってか。自然界では肉食獣がその傾向にあるが、彼らは生きる為に確率の高い方法を選択したのみ。
そもそも万一怪我を負えば、生存すら危ぶまれる世界なのだ。
その点召喚獣は、負傷しても再召喚して貰えば済む話。確かに単独で突っ込んでも、命の心配をせずに済むのは有り難いかも。そう思ったら、召喚士ってかなり強い職だなぁ。
静香に関しては、《召喚士》をレベル3に上げたくて、今はスキルPを貯めている最中だそうで。あまり自身のHPやMPを、重点的には伸ばしていないそうだ。
気持ちは分かるが、探索ではHPやMPの数値も重要だぞ。
特に静香は、地味に前衛にも立つしな……召喚の維持にはMPも必要だし、そっちの値も重要にはなって来る筈。そう忠告すると、じゃあ伸ばすねと素直な返事。
コイツは余り物を考えないから、スキルのセットや成長のさせ方などは誰かが指導してやらないとな。でないと、本当に趣味に走って変で偏った成長をしかねない。
静香の場合、実際にありそうだから怖いよな。
「ちゃんと玖子か佐々品さんに、ステータス画面の事とか相談しろよ? お前の成長方針は確実に偏るからな、第三者に見え貰えよ」
「何で? ハルちゃんがいるじゃん、一番頼りになるのはハルちゃんだよっ! ここを脱出しても、ずっと一緒にいるんだからね!」
いや、そう言われてもな……こちらの希望と未来の現実とは、必ずしも一致するとは限らないから。努力はするが、叶えられない未来って多分幾らでも存在する。
とか口にしてしまうと、お子様な静香が
実際、敵の数と種類も段々と増えて来た。
リザードマンや巨大ワニ、イソギンチャク型の待ち構え水棲生物のモンスターが、ズラリ勢揃い。お陰で経験値の入りはまずまず、CPカプセルも結構溜まって来た。
途中、静香のフーちゃんが戻って来て、どうやら宝箱を見付けた様子。召喚主の彼女には、そんな報告のニュアンスが分かるようで無邪気に喜んでいる。
そんな訳で、崩れかけたビルの内部に向かう俺たち。
マップが案外広いので、宝箱を全部見付けるのは至難の業かも知れないな。フーちゃんが発見したのは、割と豪華で大きなサイズの宝箱だった。
中身も凄くて、高価そうな壺や皿の他に、金製品など換金性の高そうなものが数点と。CPカプセルやSPジュエルも数個混じってて、後はポーション類も色々。
中には成長カプセル3本と、リセット薬が1本確認出来た。
「幸先良いね、メダルは1個も入って無かったけど。あっちに退出用の魔方陣も確認出来たよ、アレを使えばいつでも帰還は可能なんでしょ?」
「そうだよ部長、他の場所にもある筈だから確認お願い……レア種の確認して、敵いそうになかったらお宝だけ回収して出るのもアリかなぁ」
「そんなの勿体無いよ、私とハルちゃんがいればどんな敵だってやっつけられるよ!」
この個人ダンジョンが初めてな嶋岡部長は、割と慎重に構えているのは当然として。何度もクリア経験のある静香は、イケイケ模様なのは仕方が無いのか?
とか考えていたら、今度はキャシーが探索から戻って来た。どうやらボス級の敵が、この先で徘徊しているのを発見した様子で緊張気味。
おっと、まだ突入から15分も経ってないぞ?
こんな早い時間での遭遇は想定外、個人ダンジョンとはどうも勝手が違うようだ。静香のフーちゃんとクゥちゃんも戻って来て、これで一応全戦力を投入は可能になった。
そしてキャシーの案内で移動して、目視でそのボスを確認する。ちょっとビビった、巨体鎧を着込んだなシャチみたいな獣人が、大勢の部下を率いて移動している。
ここより下方の、水が溜まったビル間の道路の部分に、ざっと20匹以上の獣人部隊が。人の体型をしているが、顔はタコだったりイカだったり、手強そうな鮫だったり。
それぞれ立派な装備で、ただしこちらには気付いていない様子。
これはチャンスではあるかな、何しろ強そうな軍団が固まって移動しているのだ。一応は静香の召喚獣に、範囲攻撃があるかを聞いてみるけど。
無いそうなので、試しに俺の《氷華》を軍隊の中心へ撃ち込んでやろうか。良く分からないけど、範囲攻撃にも使える威力だと思うし。
そんな訳で、皆に打ち合わせしてから詠唱開始。
「うわっ、いつの間にそんな凄い魔法を覚えてたの、皆轟君……!」
「凄いっ、ハルちゃん……あんなにいた敵が、一網打尽だよっ!」
一丁前に難しい言葉を使った静香だが、残念ながら一網打尽とは行かなかった様子で。《氷華》は連中の真ん中で見事に花開いて、周囲に向けて多大な被害を及ぼしたのは確かだったけど。
その上、水場を凍らせたりと敵の陣地は物凄く悲惨な状況に陥っており。それでも外側にいた約半数は、この襲撃に耐えてこちらの存在に気付いた様子。
騒がしく怒声を上げながら、ビルの斜めになった外壁を登って来る。
そこに容赦の無い、フーちゃんとクゥちゃんのダブル迎え撃ち。それに続こうとする静香を何とか抑え込み、俺は魔法で後方支援に徹する構え。
頭の悪いモンスターじゃあるまいし、足場の悪い場所で戦う意味は何もない。こっちに登って来れた敵だけ、ご苦労さんと相手をしろと静香に言い含めて。
そんな戦いをしていたら、敵の数はあっという間に残り僅かに。
獰猛なシャチ顔の大ボス獣人は、しぶとく生き残っているな……魔法攻撃を手伝ってくれているジェームズは良いが、暇そうなシルベスタが突撃して行きたそうな雰囲気。
静香も同じく、そろそろ良いでしょと敵のボスを指さして甘えん坊モード発動中。仕方が無いので、シルベスタをガードにつけて特攻の許可を与えてやると。
斜めの壁を、物凄い速さで駆け下りて行くお
シルベスタが頑張ってついて行ってるが、彼の巨体だとどうしても限度があるよな。フーちゃんとクゥちゃんも押せ押せで、副長っぽい鮫獣人に一方的に攻撃している。
残った雑魚は、ジェームズの魔法で呆気無く昇天して行った。ウチの長男は、日を追うごとに強くなって来てるな……ひょっとして彼にも、レベルアップ的なナニカがあるのかも。
そして静香の一薙ぎで、崩れ落ちて行く大ボス獣人と言う構図。
何と言うか、足場が凍っていて敵は
ジェームズが素早く降りて行ったのは、恐らくドロップ品を回収に向かったのだろう。俺も一応は安全を確認しつつ、後衛の嶋岡部長を誘って静香に合流する。
何と言うか、問題無く最初の大ボスは撃破出来た。
「簡単に勝てたね、皆轟君……いつもこんななの、個人ダンジョンって?」
「いや、5枚チケットのはもっと手古摺るし時間も1時間以上掛かるんだけどな。メダルを探す手間もあるし、敵ボスももっと強い印象だし。
まぁ、今回はチートな静香の軍勢が加わったからな」
皆轟君も充分にチートだよとは、斜面に苦労して降りて行く嶋岡部長の呟きである。まぁ弁解の余地は無いかもな、それほど《氷華》の威力は別格だと俺も思う。
お陰で近接攻撃部隊には、暇な思いをさせてしまったけれど。怪我の心配をせずに済んだのだ、ここは良かったとしておこうじゃないか。
そんな訳で、俺と部長もドロップ品拾いに参加。
メインは大小の魔石と、SPジュエルにCPカプセルだろうか。ジェームズに至っては、大ボスのシャチ獣人の着ていた鎧が気になる様子で。
シルベスタに手伝って貰って、丸々剝ぎ取るつもりらしい。それから豪奢な槍とか、ポーションみたいな瓶が数本……いや、中身はコレってタコやイカ墨らしい。
こんなの何に使うんだ、でもまぁ回収はしておくか。
追加で大ボスの所持品から、目的のメダルを2枚ゲット出来た。他には目ぼしいものは無いみたい、ジェームズの見立てだから確かだろう。
他の獣人の武器や防具類は、回収が大変なので諦める事に。それより宝箱探しだ、メダルを追加でゲットしたい。その声に反応して、再び散っていく従者たち。
報告は割とすぐ、しかも2方向からやって来た。
そこからは宝箱の中身の回収ターンである、大型の海鳥の襲撃もクゥちゃんとジェームズメインで撃ち落としてくれて大助かり。ジェームズには、途中でエーテルをせがまれたけど。
MP回復は、俺も秘かに追いついていないので。一緒に薬品で回収して、さて宝箱の中身回収である。やけに豪華な宝箱だなと思っていたが、何とスキル書が2枚も入っていた!
《水中呼吸》と《水耐性》らしい、ただしメダルは1枚も無し。
その点は残念だが、この宝箱は確実に当たりだなぁ……今までの個人ダンジョンではそんな事は無かったので、ちょっと驚いてしまったけど。
特別ダンジョンって、ひょっとしてそう言う仕様なのかな? 他にはSPジュエルやCPカプセルが多数、それから恒例の換金性の高いインゴットや宝石類が少々。
一緒に覗き込んでる静香から、オーっと言う歓声が上がる。
「メダルは無いけど、スキル書や換金性の高いアイテムが結構入ってるな」
「そうだねっ、お金持ちになれそう……クゥちゃんが次見付けたって、行こうハルちゃん!」
忙しないが、宝箱のお代わりなんて贅沢過ぎるよな。そして次の宝箱は、鍵付きだったけど何とかこじ開ける事に成功して。中には何と、『水の宝珠』と《水中適応》のスキル書が。
これも大当たりである、それにしても見事に水関係の品物ばかりだな。ここがそっち系のダンジョンだから、合わせているのだとは思うけど。
他のアイテムは、前の2つと似たような感じ。
割と豪華な副景品の数々に、ちょっと感覚が変になりそう。麻痺すると言うか何と言うか、取り敢えず女子チームのパワーアップには大助かりには違いない。
そして2匹目の大ボスを発見したのも、同じくキャシーだった。インしてまだ40分程度だけど、もうフィナーレに導く感じかね?
そいつは水に浮かぶ小島に、陣取って宝箱を守るヒドラだった。
しかも3本首で、大型トラック程度の大きさでタフで見るからに強そう。まぁ、数ではこちらに分があるから卑怯だとは間違っても言えないけどな。
そんな訳で、部長に強化を貰って皆で突撃する事に。残念ながら《氷華》の再詠唱には、数時間待たないといけないと言う欠点が。
結果、囲んでボコ殴りと言う野蛮な戦法を採決する破目に。
それでもこのお莫迦な戦法も、やってみたら結構強かった。もっとも、最低限の作戦は前もって決めていたけど。ヒドラの居座る小島は、割と広くて暴れるには充分。
俺の役割だが、ヒドラの首の気を惹く役割である。《光魔法》や《罠造》を利用して、とにかく相手の視界に割って入って派手に邪魔をしてやるのだ。
その間に、静香や召喚獣たちが手傷を負わせていく作戦だ。
これが見事に
こうなると、俺も首落としへと参加する余裕が生まれる訳で。最終的には残り2本を同時に潰して、我がチームが完全勝利をもぎ取る事に成功した。
ヒドラはそれぞれの首から、魔石やSPジュエルを吐き出して没。
「やったね、また勝ったよ……お腹空いたからもう帰ろう、ハルちゃん!」
「いやしかし……今の所、メダルが2枚しか集まってないんだが……?」
「それは不味いね、ヒドラの守っていた宝箱の中に入ってると嬉しいんだけど」
期待の高まる小島の宝箱だが、これにも厳重な鍵が掛かっていたと言う。今回は無理やり開けると大変かもと、ジェームズの診断で顔を揃えて悩み始める一行。
その間に、召喚獣たちは再びエリア探索へと向かってくれたのだが。これ以上は、彷徨う雑魚敵くらいしかこのエリアには残っていないそうな。
う~ん、それじゃあ帰るしか無いのか?
「……あっ、そう言えば持木ちゃんが鍵開けとか得意だよ? この宝箱ごと持って帰るのはどうかな、ハルちゃん?」
「静香にしては冴えてるな、そうしよう」
――そうして俺たちは、特別ダンジョンを去るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます