第62話 生徒会チームとの対戦



 そんな訳で俺たちは、両チーム揃い踏みでバトロワ対戦部屋にいる。午後も既に遅い時間で、この後に個人ダンジョンに入る予定なので余りゆっくりはしていられない。

 ってか、特別チケットを使いたいと思ってたんだっけ……メンバーも決めないとだし、微妙に忙しいな。まぁ、この団体戦のメンバーは既に決まってるけど。

 俺は先鋒で、向こうは確実に明神が出て来る筈。


 いや、確か連中の話では“勇者”明神たったかな? そんなセットスキルもあるんだなぁ、強そうだけどその実力は如何程いかほどだろうか。

 興味はあるが、勝ちを譲って堪能したいって程でも無いな。コイツに勝てば、“勇者キラー”なんて称号も貰えるかも知れないし。などと冗談は程々にして、そろそろ始めようか。

 少々騒がしいが、メンバーは全員揃ってる筈。


 周囲を確認するが、こっちのチームに欠員は無い。ってか、静香の様子が何かヘン。玖子や佐々品さんはいつも通りの表情で、何か打ち合わせをしている所。

 それから宮島さんと持木ちゃんだが、こちらも通常通りに対戦を前にして顔色が悪い。そろそろ慣れてくれないかな、戦う度にこれじゃあ先が思いやられる。

 ってか、俺と顔を合わせようとしない静香は明らかにヘン!


 いや、そこまで好かれていると思い上がっている訳では決して無いんだけど。ピンと来たのは、これはあいつが何かを隠している時の態度と同じって事。

 何をやらかしたのか、かなり気になる所ではあるけど。先鋒は試合場に上がってくれとの、間の悪い進行役のアナウンスが響き渡り。

 仕方無く従う俺、後で忘れずに問い詰めないとな。


 反対側からは、対戦相手の“勇者”明神がリングイン。さっきの制服姿と違って、立派な鎧と剣を装備している。似合っているとは思わないが、それなりの風貌ではあるな。

 こちらは最初から、金剛の剣とオーガ爪の槍の二刀流を選択している。装備に関してはいつもの探索服で、寄せ集め感が満載である。

 これで今までやって来たのだから、そこは仕方の無い所。


 向こうは良い気合いの乗り方、ってか殺気がひしひしと伝わって来ている。役職に就くのが当然と思っている、上の身分の者特有のオーラと言うか。

 俺みたいな端役に言い負かされたのが、腹が立って仕方が無いのだろう。だからと言って、瞳にそこまで殺気を含めなくても良いのにな。

 嫌われ者でも、傷つく事だってあるんだぜ?


「そっちは初戦だっけ、この戦いはダメージ喰らってもほぼ痛みは発生しないから、安心して斬り掛かって来て平気だぜ? まぁ、人を相手に真剣を使うのを躊躇う気持ちは分かるけどな。

 他にも大まかなルールは、ちゃんと把握してるか、生徒会長?」

「心配は無用だ、皆轟……お前に剣を振り下ろすのに、何の躊躇ためらいも無いからな。これは純粋な力比べじゃない、己の信念を掛けた戦いだ。

 そして福良木と、チームに相応ふさわしいリーダーに成長する!」


 そこまで憎まなくてもと思うが、どうも俺と福良木が仲良過ぎるのが気に入らないのかも。幼馴染なんだし仕方が無いけど、それが通用する程に色恋沙汰は容易い感情では無いってか?

 取り敢えずは戦闘だ、ここで負けては俺の信念も否定されるってモノ。向こうの言い分には違いないが、信念を押し通す大事さは俺も身に染みて分かっているつもり。

 争いが必須の異世界での、定番のルールとでも言おうか。


 とか思っている内に、向こうが何の情緒も無く斬り掛かって来た。型は一応様になっているが、踏み込みも剣先の速度もまだまだ甘いな。

 剣術は、剣のさばき方が一番大事だと思っている内は素人だ。間合いの取り方を含めた足捌きが駄目だと、そもそも敵に攻撃が当たらない。

 スキル頼りの攻撃じゃ、その辺に理解は及んでるのか?


 相手は鎧装備なので、こちらも遠慮なく手を出させて貰おうか。なんちゃって二刀流だが、威力を犠牲にして手数勝負だとそれなりに機能している感じだ。

 すれ違いざまに2発、振り返り様に明神から小手を奪ってまずは良い調子。こちらは《剣術》こそセットしているが、ほぼ幼い頃から身についた技術頼りである。

 素人のスキル頼りになど、負けてはいられない。


 鎧のお陰でダメージこそ少なかったが、心理的優位には立てた模様。明神は焦った様子で、今度は我武者羅がむしゃらに突っ掛かって来た。

 こちらは《硬化》こそ掛けているが、心情的にはスピード重視のファイターである。向こうの攻撃など、当たってやるつもりは毛頭ない。

 向こうも地力の差を感じたのだろう、戦法を変えて来た。


 こちらも相手が突っ掛かって来る度に、何度も刃を小手や胴に当てていたからな。最終的に足を掛けて転がしてやったので、剣術では敵わないと感じたのだろう。

 それにしても未だに体力を6割にまでしか減らせて無いのは、向こうの地力の強さだろうか。勇者職の底上げが凄いのかもな、レベルに関しては間違い無くこっちが上だろうし。

 そんな不利を感じて、明神が急に魔法を放って来た。


「うおっ、さすが勇者ってか……!?」

「ハルちゃん、油断しちゃダメだよっ……!」


 舞台の下から、静香がかぶりつきで応援してくれているけど。さっきの挙動不審を忘れた訳じゃないからな、試合が終わったら問い詰めてやる。

 それより光系の魔法の直撃を喰らって、佐々品さんの助言によると4割も一気にHPが減ったとの事。本当のチートって言葉、こういう奴にこそ相応ふさわしいんじゃね?

 チマチマと蓄積した俺の攻撃ダメージ、これでチャラって何なん!?


 腹が立ったので、こちらも《光弾》からの《光爆》を放っての反撃。向こうは一撃当てて油断してたのか、モロに俺の魔法を喰らってくれた。

 そしてその2発で、やっと2割減ったよとの再度の報告。やっぱりチート確定だな、バランスのおかしなゲームをプレイしてる感覚に、さすがの俺も堪忍袋の緒が切れそうな気分。

 そこに何故か飛び交って来た、福良木からの喝入れ。


「ハルっ、いつまで慣れない二刀流で遊んでるつもり……? ウチのリーダーを舐めてたら、あっという間に足元をすくわれるわよっ?

 倍以上のレベル差とスキル差があるんだから、それを見せて御覧なさいっ!」


 その言葉に反応したのは、魔法攻撃にピヨッていた明神の方だった。飾り付きの豪華な片手剣を握り直し、何かの技を放とうとしている。

 それを喰らいたくない俺は、素早く《投擲》で右手に構えていた短槍を明神に向かって投げ付けて。低い姿勢からの前転をかまして、相手の技を見事に避けてみせる。

 そしてそのままの勢いで、相手へ向けて両手構えでの振り下ろし面。


 スキル技を撃ち終わった後の硬直時間って、本当にあるんだな。それは例え勇者だろうと、逃れられない運命だった模様。隙だらけの頭に一撃、それでも相手のHPは完全にめっせられず。

 かなりの威力だったのに、何とも残念な結果だったけど。その後の追撃を向こうはかわせず、結局は俺の圧勝と言う顛末で落ち着く事に。

 いや良かった、実は勇者相手で心配はあったのだけど。


 舞台下で騒いでいる静香はともかく、向こうは落ち込んでいる生徒会長のケアに、チームの面々が大慌て。信頼も大きかっただけに、負けたのが信じられない様子。

 福良木だけが、良い経験をしたわねと1人納得顔でチームメイトを諭している。この施設内での戦闘や情報集めも、良い経験だと割り切っているのは凄いかも。

 適応しなければ生きていけない、その事を一番わかっているのは彼女かも。



 ってか、今気付いたけど部屋の壁際に見学者が何人か窺えた。宗川チームが数名、どうも俺と生徒会長の戦いを眺めていたみたいだ。

 今は嶋岡部長が捕まっていて、何やら熱心に話し込んでいる。そう言えば俺も、静香に話があるんだったかな。とか思っていたら、次の次鋒戦のコールが鳴り響いた。

 それに応えて、勇んで舞台に上がる静香。


 向こうは誰かなと思っていたら、何と副生徒会長の福良木だった。ちょっと待て、あいつはスキルを全て封じられている筈だろうに。

 道場に通っていたのも小学生時代の3年余りだったし、真面目に7年以上通っていた静香とは実力の差は歴然の筈。何より福良木は、武器の類いは一切身につけていなかった。

 捨て試合かといぶかる人達の前で、福良木だけが自信満々。


 そんな都合など関係なく、切って落とされる第二試合開始の合図。こちらのチームの次鋒の静香は、戸惑いながら対戦相手を見遣るのみ。

 それも当然だ、何しろ静香と福良木もモロに幼馴染だしなぁ。仲は良いと言うか、子供の頃は静香は妹分みたいな扱いを受けていたっけ。

 何より、武器を持たない同級生に斬り掛かる度量を、静香は持っていない。


 そこまで計算しての出馬なら凄いが、途端に雲行きが怪しくなって来たのも事実。現に今も、間を詰めているのは福良木の方だったり。

 無手のままの相手に詰め寄られて、明らかに委縮している静香。幼馴染が相手ってのもあるかもだが、ここは戦いに徹し切れない甘い性格がモロに顔を出してるな。

 いやまぁ、俺もこの戦法は戸惑うかもだけど。


 玖子だけは、さっさとやっつけなさいと激しいげきを飛ばしている。あいつも福良木とは小学生からの顔馴染みなのに、何とも容赦の無い事ではある。

 福良木は小学校卒業までとは言え、道場には真面目に通っていた印象が。道場主催の地域の餅つき大会とか寒中水泳とかも、積極的に参加していたし。

 中学に入ると、塾や他の習い事で道場から足は遠のいてしまったけど。


 アイツの家はいわゆる名家で、かなり裕福な家庭なのは近所でも有名だったな。道場に通っていたのも、師匠が地域では名士で知られる存在だったからなのだろう。

 親の教育方針もあったのだろう、何しろ聖子は一人っ子だったからなぁ。そう言えば、昔は普通に呼び捨てにしてたな……静香もよく懐いてたし、本当の姉妹の様に仲が良かった。

 信じられないかもだが、玖子と聖子も普通に仲が良かったし。


 などと俺が回想に耽っていると、舞台上で大きな進展があった模様。2人の距離はほぼ無くなって、ここから壮絶な舌戦が始まったのだ。

 とは言っても、それは一方的な戦いだったけど。


「なぁに、静香……私に剣を向けてどうしようって気なのかしら? 子供の頃に、あんなに可愛がってあげた私に向かって、まさか斬り掛かるって事は無いわよね?

 静香はそんな、情の無いじゃないものねぇ?」

「えっ、そうだけど……聖子ちゃん、武器が無いなら貸そうか?」

「道場の帰りに、毎日のようにアイスやジュースを奢ってあげたっけ? あの頃は楽しかったわ……私は静香を、本当の妹のように可愛がっていたのよね」


 懐かしむような口調で、しかしその瞳には威圧を醸し出すと言う器用な真似をする福良木。真っ直ぐな歩みは止まる事を知らず、何故かそれに合わせて後退を余儀なくされる静香。

 下がっちゃダメでしょと、猛烈なお叱りは舞台下の玖子から。そんな顔馴染みのヒートアップすら楽しむように、絡み付くような福良木の戦略は止まらない。

 そして何故か泣きそうな静香、どうしてこうなった?


 卑怯でしょとか、私と替わりなさいと言うクレームは、玖子の最後の悪足掻きだったのだろうか。その後の運命と言うか流れを、俺はある意味的確に予知していた。

 剣の実力では、遥かに差のある2人には違いないだうけど。知略に関しては、圧倒的に福良木の方に分がある感じ。それはもう、勝利に直結する程度には。

 予想通りに、静香は半泣きで自らリングアウト。



 これで1勝1敗の五分になった、俺が必死で勝ち取った勝利が水の泡だなっ! まぁそれは良い、それより腹立ち紛れに舞台に上がった玖子はウチのエースの1人には間違いなく。

 中堅に出たのは別に良いが、向こうは相談した結果、戦闘スキルを一切持たない生徒が出て来る始末。究極の後出しジャンケンだな、そしてすぐさま降参すると言う潔さ。

 これで2勝目だが、全く喜べそうもない。


 ってか、向こうは策士である……恐らく福良木の策略がはまっているのだろうが、仲間に欲しいよなと素直に思う。何せこちらは、直情型のリーダーにお莫迦な犬みたいなエースである。

 知略を絡まれたら、相当苦労するよなとは思っていたけど。その通りになったな、この後の2戦が不安で仕方が無い。でもまぁ、明神以上の化け物は出ては来ない筈。

 こっちも決定打に欠ける、女生徒2名だけどな。


 そんな訳で、せめて2人とも引き分け程度には持ち込んで欲しい所。そう期待して押し出した副将戦、こちらは持木ちゃんで相手は柴内しばうちと言う名の男子生徒だった。

 武器の類いは持ってないけど、やる気は充分ありそう。その予感はバッチリ当たり、試合開始の合図があった途端に耳をつんざく雷の落ちる音が。

 おっと、柴内は《雷魔法》持ちだったか。


 既に《トリックスター》で、両手に2つの武器を構えていた持木ちゃんだったが、魔法には備えは無かったようで。確かにそうだ、今までの対戦相手はみんな近接攻撃ばっかりだったし。

 術者って、近付かれたらそれで試合終了みたいなイメージがあるんだよなぁ。ところが雷の特性上、痺れを伴う効果がそれを綺麗に打ち消してくれているようで。

 近付く事すら儘ならず、持木ちゃんは4発目の落雷で呆気無くダウン。


 これで2勝ずつで並ばれてしまった、最後はバレー部エースの宮島さんに頼るしかない。顔を蒼褪めさせて壇上に登る彼女、過度な期待は出来ないな。

 そして相手は、これまた遠距離武器を持って舞台に上がって来た。確か坂崎さかざきって名前の生徒会の役員だったかな、よく覚えてないけど。

 そいつが手にするのは、割と質の良さそうな長弓だった。


 装備も革鎧を着込んでいるし、ひょっとしてセットスキル持ちなのかな? どちらにしろ弓が下手って事は無さそう、遠距離での対戦は厄介だな。

 対する宮島さんは、既に《千手法》を展開して防御の構え。盾も2つ用意しているので、いきなり急所に矢を受けるって事態にはならない筈。

 そして始まる大将戦、両者の距離感はまさに引っ張り合い。


 距離を縮めたい宮島さんと、この距離を保ちたい坂崎と言う構図に。案の定、坂崎の弓矢攻撃は素人とはかけ離れたレベルで物凄い威力。

 盾で必死に受ける宮島さんだが、身体に当たれば一気にHPを持って行かれそう。見ているこっちも怖いのだから、受ける宮島さんは魂が冷え冷え状態だろう。

 それでも彼女は、最後まで頑張った。


 結果は、15分間お互い粘っての引き分けとなって。これで2勝2敗1引き分けのドローとなって、まぁメダル4枚獲得は良かったと思いたい。

 最後の大将戦で、負けていたらメダルは半分の2枚だったのだから。皆で大将の宮島さんをねぎらいながら、この後の予定などを話し始める女子チーム。

 玖子はなおもおカンムリだが、それを上手く外木場さんが宥めている。



 それにしても、上手く勝ち星を取られたなぁ……策士がいるチームは、所持戦力以上にメダルを稼げる良い例かも知れないな。

 とか思っていると、磯村さんが急に驚き声をあげた。彼女はバレー部のマネージャーで、全員分の稼いだメダルを預かっているメンバーでもあるのだが。

 彼女が言うには、どうも不自然にメダルの数が減っているらしい。


 周囲のメンバーも、驚いた様子で再度の確認をマネージャーに求めるのだけれど。ちゃんと数えた結果、管理者に没収された分を除いて丁度10枚無くなっているとの事。

 離れた場所でその騒ぎを眺めていた俺は、明らかに様子のおかしい女生徒を約1名発見出来ていた。って言うか、最初から挙動不審が目立っていたな、アイツ。

 つまりは静香だ、どうやらコイツが犯人らしい。


「おい、静香……お前の仕業だろう、メダル10枚どこやった……?」

「……ハルちゃん、ごめんなさぃ~~!!」





 ――いや、泣いても許さないからな!?






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