第61話 勇者チームとの会合



 今は皆で落ち着いて、施設の2階の休憩スペースの様な場所のテーブルの1つを占領している所。皆と言っても、こちらのメンバーは俺と嶋岡部長と佐々品さんのみ。

 後は生徒会のパーティから、明神みょうじん福良木ふくらぎ、それから確か書記をやっている神楽坂かぐらざかと言う女生徒の3人が目の前に。一応は、情報交換と言う建前でのミーティングだ。

 議題は主に、現状把握と言ったところだろうか。


 うん、まぁ……さっきの管理者との一連の遣り取りへの追及は、誰もしてこないと思いたい。隣の部長は微妙な顔付きをしているが、そこはこの異世界では長い付き合いだし。

 俺が上の者に楯突くのは、習性みたいなモノだと思って貰えれば。ちょっと違うか、まぁ何も無かったのだからそこは勘弁願いたい。

 そう、あのフォレストと名乗った管理者からの追及は特に無かったのだ。


 もちろん懲罰の取り下げもなされず、福良木のスキルは封印されたままではあるが。本人に確認したところ、スマホの表示にも現在使用不可のマークが出ているそうだ。

 良い事をしたのにトホホな顛末だが、考えて見れば粕谷かすやサイドからすれば、完全不利益を被っただけの敵対行動の結果となってる訳だ。

 そう思えば、この罰も甘んじて受けるべきなのか?


「まぁ、管理者の裁きの件は置いといて……取り敢えずは、この施設での行動の指針なんかは嶋岡部長の作ったレポートを参考にしてくれ。

 各個人の部屋の机の上に置かれてるしおりは、割と不親切で肝心な事が載ってないからな」

「うん……僕のレポートは施設に関する事だけってより、この異世界のルールなんかも記載されてるから。だから、生徒会チームも気付いた事があれば教えて欲しいかな。

 そうすれば、より確実な情報を後から来るチームに残せるから」

「素晴らしい取り組みね、嶋岡君……私が身を以て体験した通り、あの管理者と名乗る偉そうな態度の連中は、決して私たちの味方では無いって書き足しておいて頂戴な?

 まぁそれは、勝手に拉致された時点から分かってはいたけれど」

「そうだな……副会長の言う通りだと俺も思う。スキルだなんて便利で強力なモノを貰ったお陰で、勘違いしている連中もいるかも知れないけど。

 連中は間違いなく、俺たちを使い捨ての駒か何かだと思っている筈だよ」


 福良木と明神生徒会長の追従の言葉に、その通りだとの神妙な場の空気。生徒会チームは頭の良い連中が多いから、現状を中庸ちゅうように見る事が出来て何とも素晴らしい。

 熱心に部長のレポートを読んでいた神楽坂も、そうですねと大人しく肯定して来る。ただし、敵認定した管理者との力の差には、誰もえて触れようとはしないけど。

 まぁ当然だ……考えても、無駄な事ってこの世にはあるし。


 こちらの路線としては、取り敢えずは従う振りをしつつも。各々が力を付けて行って、納得のいかない指示を出された際には逆らえたら良いな的な感じだろうか。

 何しろ、この世界から逃げ出す手段が全く見付からない状況である。それは俺たちより前に召喚された、先輩たちの言動から窺っても推測出来る。

 現状の対策としては、その位しか提案出来ないのが歯痒いけど仕方がない。


 この場に玖子がいないのは、粕谷のスキルを喰らった静香の面倒を見ているから。奴のチームで同じ目に遭っていた連中も、取り敢えずはロビーに運んで粕谷とは隔離済みである。

 向こうも束縛系スキルを封じられたとは言え、同じ空間に置いておくのはいかにも不味いと言う判断だ。その当人の粕谷と取り巻き2人の女生徒は、管理者の裁きの後にフイっといなくなった。

 恐らくだが、あのチームは完全崩壊したと見て良いだろう。


 その中に、ヤンキーの伊沢達3人組がいたのは、どんな成り行きだったか全くの不明。こちらとしては関わりたくは無いし、この集積施設で頑張って再出発を果たせよって感じ。

 積極的に応援はしないけど、野垂れ死んでくれと願う程に恨んでもいない。ただ最初に貰えたはずのチケット、あれを粕谷に全て奪われていたとしたら。

 このモールでの活動は、絶望的には違いなく。


 その文句を俺や生徒会チームが言いに行くのも、ちょっと違うなと考える次第である。自分の面倒は当然ながら自分で、この施設の5日間も同じ理屈で乗り越えて欲しい。

 何と言うか、俺たちのチームのメダルの集まり具合も、4日目を迎えてかなり微妙なのだ。他の人に関わっている暇など無いってのが、実は本音だったり。

 ペナルティで言われた、メダル10枚剥奪が痛かったなぁ……。


 玖子もこれには堪えただろう、午後のチーム戦と個人ダンジョンで巻き返さなければ。とか思っていると、玖子が食堂の入り口からこちらを見付けて近寄って来た。

 静香がいないので心配したが、念の為に個室で休ませているとの事で。磯村さんの《疲労回復》スキルで、一応は治療に当たって貰っているらしい。

 それなら安心かな、まぁ静香はウチのチームの大黒柱だし。


「あら、玖子……お疲れさま、静香も無事で良かったわ。お陰でこちらは、5日間も《聖女》の力を封印されてしまったけれど。

 精々、恩に着て頂戴な」

「それはご愁傷さま、でもそうね……恩には着るわ、静香があんな奴の奴隷にならなかった事に対してはね。それより、そっちの旅は順調だったの?

 まぁ、ハルより波乱万丈の奴はいないと思うけど」


 失礼な注釈をつけるな、そして俺を胡乱な目で見るな。本当に2人とも、幼馴染だと思って容赦が無いな。そして嶋岡部長も、実はこんな事があってねと、俺の道のりを語り出して。

 う~ん、確かに白の陣の管理者の非道な性格とか、同じ13期のメンバー内にも非道の種は存在するとか。そんな例に溢れた、俺のここまでの過程には違いないけど。

 改めて語られると、少々ムズかゆい思いが。


 これには、部長のレポートを読み進めていた明神生徒会長も、顔を上げて熱心に聞き及ぶ構え。そして生徒指導の教師たちの非道や、仲間の死の場面では思い切り顔を曇らせて。

 それは同伴の女性陣も同じ、ただし俺がチームを追われたシーンでの同情は貰えなかったけど。生徒会長のみ、不審そうに首を傾げて納得いかなそうな顔付きになっただけで。

 やはりこの辺は、男女の機微の差なのだろうか。


 それから俺が呪われている事実や、レア種を何匹も退治している話になると。皆の視線も、何だか怪しい人物を眺めるソレに変わって行って。

 居心地が悪い事この上ない、俺はそんな危険人物では無い筈だ。味方の筈の玖子までが、そんな胡乱な視線を向けて来るのには参ったけど。

 俺だって好きで呪われている訳じゃないし、レア種との遭遇は運でしかない。


「そうね、ハルは昔から運だけは強いものね……厄介事を巻き起こすのも得意だし、それに突っ込んで行くのも昔からよね?

 それにしても残念ね、私のスキルが使えてたら、すぐに呪いを解いてあげるのに」

「本当に間が悪いな、ってかこのタイミングは嫌がらせにしか思えないな。他に何か解呪の手段を知らないか、福良木……?」


 福良木は肩を竦めて、他人事でしょと呑気な表情。幼馴染のピンチだと言うのに、全く以て慌てた様子が無い。まぁこいつは昔からそうだ、他人が苦しむ姿を見るのが何より好きってサドな性格で。

 そんな奴が《聖女》って、本当に洒落が効いてるよな……そう言うと、明神はムッとした表情になったが、同じく幼馴染の玖子は大きく頷いてくれた。

 そんな話に割って入って、そう言えは危険人物はこちらも見たと神楽坂の発言。


「称号に“殺人鬼”とか“同族殺し”って危ないのを持った人物が、《陰陽師》ってスキルで攻撃を仕掛けて来たんです。生徒会長が追い返してくれましたけど、術で手下を創り出す危険なスキルの持ち主には違いありません。

 さっきの騒動を起こした粕谷さんとか、《強奪》を使用した生徒指導の教師もそうですけど。危険人物の周知もしておいた方が、今後の安全度の向上には繋がるんじゃないでしょうか?

 どう思います、会長に副会長?」

「そうだな、神楽坂の言う通りかも知れない……とは言え、皆が神楽坂のような《看破》系のスキルを持ってる訳じゃ無いし、一目見た人物が危険かどうかなんて、面識か手配書が無ければ分らないよな。

 さて、どうしたモノか……」


 そりゃそうだな、危ない称号持ちが外をうろついてると言われても、こちらはソイツの人相を知らないのだ。警戒しようにも、見知らぬ男は全員怪しい目でって破目になり兼ねない。

 それにしても、神楽坂は《看破》なんてスキルを持っているのか……便利そうではあるけど、果たしてスキル悪用の抑制には成り得ないよな。

 人は一度手に入れた利便性を、手放す程には強くは無いし。


 例えば粕谷だが、今回の件に凝りて奴隷作りをやめたりはしないだろう。生徒指導の仁科や押野も、最後には開き直ってスキルを悪用していたしな。

 精々が、敵の特性やスキルの覗き見程度の活用か……長期戦になりそうな相手とか、手強いレア種なんかには有効かも知れないな。

 とか考えていたら、不意打ち的に俺が《看破》を受けていた。


「……うわっ、何て数のスキルを持ってるんですか、皆轟君!! 呪いも1つじゃ無くて3つも……えっ、称号も3つ持ってる……!?」

「やめろっ、お前たち……っ!!」


 咄嗟に大声を上げた俺に、驚いて竦み上がる神楽坂。それ以上に驚いたのは、隣に座っていた明神生徒会長だったのかも。何しろ、いつの間にか神楽坂の首筋に、刃物状のモノが狙いを付けてるし。

 ここからは見えないが、ジェームズも机の下から神楽坂の足に殴り掛かろうとしていた。どうやらジェームズとキャシーは、彼女のスキル使用を敵対行動とみなした様子。

 それはまぁ当然か、俺らしたら財布の中身を勝手に見られた気分。


 ところが神楽坂と明神は、そうは思わなかった様子。こちらを睨み付けて、去っていくキャシーの主である俺の不手際を責め立てる雰囲気。

 ちょっと待て、俺が悪いのか……? 神楽坂の首元の髪が数束落ちて、改めて竦み上がって怯え始める神楽坂だが。それを懸命に慰める、明神生徒会長は明らかに殺気を孕んだ目で俺を睨んでいる。

 その隣で、相変わらず緊張感も無く肩を竦める福良木と言う構図。


「何を殺気立っているの、明神君……? 今のは明らかに、多恵が悪いわよ……勝手に人様のスキルを覗き見るなんて、相手の鞄の中身を無断で盗み見るようなモノじゃなくって?

 ハルの可愛い護衛に、敵対行動と取られても仕方が無いわ」

「えっ、でも……そっ、そうですね、ごめんなさい」

「まぁ、別に見られて困るような事は無いけどな……呪いについては既に部長に喋って貰ってるし、スキルの多さは裏技を偶然に発見した結果だし。

 称号もレア種を何匹も討伐した結果だから、腕さえあれば誰でも可能だよ」


 こちらも護衛達の過剰反応について謝るべきかと思ったが、殺気を向けられて軽く受け流せるほど大人じゃない。ってか、下手したら3人目のスキル封印案件である、黙っていてやるだけ有り難く思え。

 そんな雰囲気を察したのか、嶋岡部長が取り成すように割って入って。そっちの道中はどうだったのと、機転を利かせて話題転換を図り始める。

 答える福良木によると、割と平穏な道のりだった様子。


 そのせいでか、福良木のレベルは8までしか上がっていなかった。スマホの情報を見せて貰ったので、その情報も間違いなく確かである。

 しかもスキルの成長もほぼ無しで、お金が貯まって無いのが福良木の不満ポイントらしく。彼女の持つ《時空購買》と言うスキルは、CP購買とは別に現金が必要らしく。

 幾らか貸してくれとまで、向こうに頼まれる始末。


 仕方が無いので、スキルが再使用可になったら俺も使わせて貰うのを条件に、30万程貸す事に。架空JPの譲渡の方法を、必死になって2人で探す事数分余り。

 他のメンバーは、やはり危険人物への対処方法がどうしても気になる様子で。どうやって事に当たるべきかと、他の人々に報告する方法の2点について熱く語っている。

 まぁ、相手によっては出会い頭に殺される可能性もあるからな。


 それだけなら対処の方法もあるが、粕谷みたいな奴隷化スキルの対応は割と大変だ。俺は《耐性》スキルを持ってるから慌てる事は無いが、他に対処方法と言ってもすぐには思い付かない。

 福良木のスキルで解除は出来たみたいだけど、それを対応と呼ぶかは別の話だ。それで解放された連中も、粕谷に対しては諍いでは収まらない可能性もある。

 あの女殺してやると、言われてもこちらに止める権利も無いし。


 自業自得だと突き放すのも冷た過ぎるかもだが、こちらに飛び火されてもハッキリ言って困る。こちらはただの学生なのだ、公正に裁くスキルなど持ってなどいない。

 仮に持っていたとしても、重過ぎる裁きはちょっと勘弁。例えば人を殺して回っている同じ13期メンバーがいたとして、その罪を裁いてくれとか。

 ただし、その標的にされた場合はどうするべき?


 今後はひょっとして、こちらの手を汚す事態も充分に起こり得る訳だ。明神みたいに、そこまで踏み込むべきでは無いと甘い事など言ってられない。

 相手はこの世界のルールに適応して、タガが外れた罪人である。こちらに対してスキルを悪用したり、その命を奪ったりに対して何の躊躇ためらいも無いのだ。

 今のうちに覚悟を決めておかないと、大事なモノを奪われた後で後悔しても遅過ぎる。


「僕らは飽くまで学生だ、絶対にそこまですべきでは無い……元の世界に戻った時に、どう皆に釈明するんだ、皆轟君?」

「戻る前に殺された生徒が、現に何十人もいるんだぜ、明神生徒会長? 武器を持って目の前に立たれた時に、落ち着いて話し合う余地なんて無いだろう?」

「まあまあ、2人とも落ち着いて……取り敢えず座り直して、冷静に話し合おうよ……?」


 嶋岡部長の言う通り、さっきの神楽坂の《看破》騒動以降、俺たちのテンションは妙に荒れ模様で。今もお互い椅子から立ち上がり、お互いを言い負かそうと熱くなっている。

 権力と見たら対抗心が湧き上がる、俺の悪い癖でもあるよな……それより甘っちょろい意見を述べる、目の前の相手には腹が立って仕方がない。

 コイツは間違っても、スキルの悪用で目の前で友達を喪った事など無いのだろう。


 尾崎や水本に対して、あの死は事故だったから仕方無いで、軽く済まされるような腹立たしさを覚えつつ。先ほどの事と言い、どうも生徒会長とは価値観に差があり過ぎる。

 その場の雰囲気は、まぁ俺の意見に味方する生徒もいるので助かっているけど。向こうの方が役職持ちなので、その辺のプライドの高さで押され気味な気がしてならない。

 現状では、そもそも役職なんて何の関係も無いけどな!


 福良木なんて、俺の可視化させた架空スマホを眺めるのに夢中で、会話なんて聞いてない有り様。それもそうだ、そもそもこの議題が生徒会案件なんてふざけた話である。

 最初は、2チームでの情報交換会に過ぎなかったのは確かなのだが。それからこの施設での、5日間の行動指針のレポートに沿う提案くらいか。

 それが凶悪犯に対する法整備など、ぶっ飛び過ぎである。


「……考えてみたら、何だか見当違いの議論だな。俺達がこの場で結論を出しても、他のチームがそれに準じるとは限らないし。お前らはスキルの悪用によって、仲間を殺された事が無いから甘い事を言ってられるんだろ?

 俺は、同じ轍は2度と踏まないと誓ってる……例えこの手を血で汚そうと、仲間は護り切るってな。そっちはそっちで決めたルールに則って、この世界で生きて行けばいい。

 これで議論は終了だ、こっちはポイント稼ぎが滞ってるんでな」

「そうね、私も明神君にはもう少しワイルドさを備えて欲しいと思っているわ……ハルの言う、こちらの世界に適応した生き方も取り入れてくれないと。

 私達のチームリーダーを称するなら、確かに自ら手を汚すくらいの覚悟は持って欲しいわね。でも明神君だって、ハルに言い負かされたまま引っ込めないでしょうし。

 そこで提案があるのだけど……





 ――チーム戦だっけ、それで決着をつけたら如何いかが?」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る