第57話 暇潰しの白部屋探索



 目覚めると、レベルアップしているといういつものパターン。ひと眠りのつもりが、実は結構眠り込んでいたみたいだ。架空スマホを確認すると、ざっと3時間余りかな。

 お陰で既に夕方過ぎ、腹も減ったし夕飯の準備でもするかな? 生憎と俺は部長と違って、自炊能力は著しく低いのだけど。

 即席麺の類いなら、何とでもなるからそれにしよう。


 あの巨大施設に辿り着いて以降、食事と寝床に関しては大幅に水準を満たしている現状で。今更カップ麺も無いと思うけど、これはこれで食べ飽きないのだから大したモノだ。

 そんな訳で《時空Box(極小)》からキャンプ道具を取り出して、湯沸かしの準備を進めつつ。同じくカップ麺を物色していると、猫耳娘も起きて来た。

 そして食事の気配に、興奮模様の様子。


 こちらは間借りしている身分なので、一食くらいは奢るのに何の問題も無いのだが。これこれ、それは物凄く辛い奴だから、お前は大人しくシーフード味にしておきなさい。

 などと遣り合いながらも、俺は先ほどの夢の中での戦闘風景を思い出してみる。ネムが充分に戦えるのは分ったけど、コイツのレベルやスキル並びはどうなんだろう?

 修行中なのは立派だが、成長は出来てるのかな?


「そう言えば、ネムのレベルや主力スキルはどうなんだ? こっちは夢の中の戦闘で、無事レベル21に上がったけど。

 おっと、飯を食ったら夢の中のドロップアイテムを分配しようか」

「うにゅ、ハルキはもうレベル21ニャのかっ!? ウチはまだ15ニャ、ズルいニャ!」


 狡くは無いが、騒ぎ立てる猫娘がひたすらウザかったので。出来上がったカップ麺をフォークと一緒に小娘の目の前に置いてやり、俺も質素な食事に取り掛かる。

 ついでにスナック菓子とジュースも、わびしい食卓の華やぎに添えてやろうか。それを見たネムは、俺の目論見通りに黙り込んで食事に夢中になった模様。

 猫舌なのか、食べるのはメチャ遅かったけど。


 そんなネムのレベルは、現在15らしい。主力スキルは《格闘術》《気配察知》《オーラ纏い》と、まぁこちらの見立て通り。《オーラ纏い》は、攻防に役立つ便利なスキルだとの事。

 軽装での戦いが主流の、ネムにとってと言う注釈は付くけど。ハルキも欲しいかニャと問われたが、俺はこれ以上スキルを増やすつもりは今のところ無い感じ。

 だが、彼女の目的は別の所にあった模様。


「ハルキの使ってた《光魔法》は凄いニャ……ウチも欲しいニャ、交換して欲しいニャ!!」

「俺は別に良いけど、お前も《借技》持ってるのか?」


 持っていないらしいが、代わりにそれが可能なアイテムを所持しているとの事。その名も“コピー札”と言って、手にした者が自分の所持スキルを念じれば札にコピー出来るのだそう。

 ネムはそれを、ご主人から3枚ほど手渡されているそうだ。今回の労働の報酬に加えて、先月の頑張った大賞の報酬らしいのだが。

 良く分からないが、何だかアットホームな組織っぽい。



 そんな話をしながらの食事も無事に終わって、再び騒ぎ始める猫娘の前で、俺はおもむろに今回得た報酬を広げて行く。例の夢の中の宝箱も、無事にジェームズの手腕によって開封済みだ。

 中身は結構多いな、それからかさばる大鎌は俺には全く必要のないモノ。恐らくネムも欲しがらないだろうそれは、やたらと禍々しい気配を漂わせている。

 他は何と言うか、小物の配分が多いかな?


 やたらと目立つのは、俺も1個持っている黒っぽい珠だろうか。《日常辞典》での鑑定でも、『闇の宝珠』との名前で表示されてるな。

 他はお馴染みのSPジュエルとか、CPカプセルが数個。それから小さな卵っぽいのは、どうやら衝撃を与えると爆発する使い捨て武器らしい。

 これは凄いな、今後の戦闘にぜひとも欲しい所。


 他は魔石とか、ポーション類が数個ほど雑に宝箱の底に転がっていただけ。おっと、成長カプセルも2個入ってたな、初見のアイテムは『魔力増大の薬』って奴で、これは自身の最大MPを増やしてくれるっぽい。

 この中で大当たりは、どうみても自身2個目の宝珠である。ただし使用結果が分からないので、ネムに訊ねる事に。俺の見立て通り、このアイテムはどうやら大当たり確定っぽいな。

 猫娘の驚き顔が、それを雄弁に物語っている。


「凄いニャ、ハルキ!! こんなのダンジョン探索してても、滅多にお目にかかれないお宝ニャ!! お店で買うにも500万JP以上するし、ハルキは運だけは良いニャ!!」

「それはどうも……」


 《購運》スキルは最近、全然使ってないんだけどな。スキルレベルも上げてないし、悲しい事にお蔵入りスキルの1つになっている。

 それはそうと、宝珠の使い方は何とか判明した。前提として、『氷の宝珠』なら氷系の、『闇の宝珠』なら闇系のスキルを持っている必要があるそうで。

 その持ち主が宝珠を使うと、強力な必殺技が覚えられるらしい。


 それは確かに凄いけど、闇系のスキルを持たない俺には宝の持ち腐れじゃ? 俺は収納から『氷の宝珠』を取り出して、試しにと使用を念じて見る。

 それは確かに、俺の中へ新たな力を発芽させたようだ。それを確信した瞬間、『氷の宝珠』は俺の手のひらから消え去って行った。

 ただし、それを使うには《氷魔法》のレベルが足りないみたい。


「ハルキ、他の宝珠も持ってるとか、ひょっとして神様に愛されてるニャ!? 羨ましいニャ、ウチもパワーアップしたいニャ!!」

「分かったよ、そのコピー札ってのよこしな……《光魔法》でいいんだな、後の2枚はどうするんだ?」

「1枚はウチの《オーラ纏い》をコピーして、ハルキにあげるニャ! もう1枚は、ハルキの好きにして良いニャ。

 その代わり、宝箱の成長カプセルはウチが2個とも貰うニャ!!」


 その位は全然構わない、そこからアイテムの分配は順調に進んで行った。俺の方はSPジュエルとCPカプセルを1個ずつ、それから爆裂卵を全部。

 後は薬品類を適当に、使ってしまった毒消し薬も何とか補充出来た。ネムはSPジュエルを多めに貰ってご満悦、こちらが『魔力増大の薬』を貰っても文句は無いらしい。

 そして問題の、『闇の宝珠』の行方なのだけど。


 何とビックリ、ジェームズの所有となってしまった。ネムの話では、この中でこの品が使えるのが彼だけだという理由かららしいのだが。

 売ってお金を分配するってのは、ネムの中では無いらしい。パワーアップは出来る内に出来るだけが、探索者として当然の処世術なのだとか。

 なるほど、色々と為になるな。


 そして当然のように、『闇の宝珠』を使用するジェームズ。クマのぬいぐるみの手の中から、突如消えて行く闇色の珠。どうやら使用は、無事に為せたっぽいな。

 従者の成長は素直に嬉しいが、こちらも一応SP使用からの成長を忘れずにしておこう。個人ダンジョンでSPジュエルも得たし、夢魔の卵撃破でスキルP+6もゲット出来たし。

 ……おやっ、レベルアップでSPが3も増えている?


 ひょっとして、職を決定した恩恵なのだろうか? 今後ずっと+3P得られるとしたら、これは物凄いお得である。早速均等上げを一度行うと、ラッキーな事にスロットも増えてくれた。

 幸先良いな、CPカプセルと魔力増大薬も使用しつつ、何を上げるか迷う事暫し。ネムに促されるまま、ついでの様にコピー札も思わず使ってしまった。その結果、《光魔法》は無事ネムの元に。

 そして俺は、新たに《オーラ纏い》を習得。




 皆轟春樹:Lv21   職業:召喚士    HP:141(141)  

==――――――――――――          MP:301(275)

物理攻撃:221(140)    物理防御:243(134)

魔法攻撃:198(125)    魔法防御:195(110)


スキル【23(+3)】《日常辞典Lv3》《時空Box(極小)Lv3》《氷魔法Lv3》《剣術Lv2》《オーラ纏い》《光魔法Lv4》《空間収納(中) Lv2》

予備スキル《餌付け》《平常心Lv2》《観察Lv2》《投擲Lv2》《追跡》《エナジー補給》《耐性上昇Lv3》《購運》《罠造Lv3》《潜行》《糸紡ぎLv3》《剛力Lv3》《硬化Lv2》《高利貸Lv2》《波動術Lv2》《木霊術Lv2》《借技Lv2》《夢幻泡影Lv2》《等価交換》《人形使役Lv2》《魂魄術》《召喚魔法Lv2》

獲得CP【6、815】   獲得SP【17/3】   JP【3、158、058】 


『称号』:《安寧》《天真爛漫》《飛竜乗雲》

状態異常:呪い《衰弱》《悪夢》《陽嫌》

装備:オーガ爪の槍、銀の槍、手作りフレイル、工具の盾、蜘蛛糸のマフラー《空気浄化》、木綿のポーチ《収納倍加》、蜘蛛糸の作業着、髑髏の指輪、手斧、古びた腰帯、ニルムの革帽子《感知》、器用のリストバンド《スロット枠+3》

使役:狂乱綿熊、亡霊重鎧、隠密鼬


持ち物:ポーション×6、マナポ×5、薬草軟膏×4、架空スマホ、灰狼神の木札、竜の宝、竜の爪、竜の鱗、竜の心臓、大樹の枝、大樹の樹液、マミーの心臓、マミーの死霊布、ワニ革、インプの被膜、蜂の毒針、骨くず、妖怪の石壁、巨大植木鉢、氷の宝珠、魔石×17、魔術師の家具一式、襤褸布、ワーム肉、聖水×2、毒消し薬、爆裂卵×7個、金剛石、リッチの魔杖、リッチの法衣、オーガの骨、魔鷹の矢羽根×10、魔狼の牙、グールの毒爪×3、コピー札




 いや、覚えるつもりは無かったんだけど、つい勢いで……。どうやら《オーラ纏い》はスロット枠3Pと低コストで使用出来るらしい。

 使用者のネムによると、非常に便利なスキルだと太鼓判を押されてしまった。ちなみにこのコピー札、どんなレベルの高いスキルをコピーしても、レベル1でしか覚えられないとの事。

 その点では、《借技》と《夢幻泡影》のコンボの方が優秀かな?


 考えた結果、増えたSPで《氷魔法》と《剣術》スキルをそれぞれ伸ばす事に。《氷魔法》については、宝珠で得た必殺技を使えるようにする為である。

 《剣術》スキルの方も、今後二刀流で戦うなら伸ばしておいて損は無いと考えた次第。そしてこれもレベル2から、必殺技を使えるようになるそうなので。

 間違いなく、こちらの戦力アップの一助になる筈である。


 ついでにCP交換品もいつの間にか増えていたので、物体化して収納保存する事に。今回は大ボスリッチ関連のアイテムが幾つかと、そのダンジョンに出て来た雑魚のドロップ品が。

 この先役に立つかは全く不明だけど、持っておくだけ持っておこう。他には寝るまでの間、これと言ってやる事も無い。新たに覚えた各スキルを、この身に馴染ませる位だろう。

 何しろここにいる間は、暇を持て余している訳だから。


 望み通りに念願の《光魔法》を入手出来たネムも、同じく浮かれまくっていた。SPジュエルによるパワーアップも済ませたらしく、夕食後なのに元気満タンな感じ。

 てっきり再び、のんびりと惰眠を貪るモノだと思っていたのに。その間コチラは、レベル上げした《剣術》での二刀流の型稽古でもしようと考えていたんだけど。

 ネムの提示したのは、もっとアクティブな実戦への誘いだった。


「ハルキも新しい技の、お試しをサッソクしたいんだニャ!? ウチが今から修練用のダンジョンとツナげるから、一緒にそこに入るニャ!

 強くなるためには、とにかく修行あるのみニャ!!」

「おおっ、そんな事が出来るのか……ネム、お前凄いな」

「ウチらは修業がお仕事だから、ご主人が準備したダンジョンに入る許可を得るのは簡単ニャ。本当に凄いのは、ウチのご主人ニャ!!」


 なるほど、従者と言うか弟子達のために、ダンジョンまで用意してあげているらしい。俺たち拉致された探索者が、色んなエリアを歩き回らされているのと同じ感じなのかな。

 もっとも、俺達に限っては半ば強制的にダンジョン探索を強いられてた訳だけど。強くなるためって割り切れば、確かにあの空間は便利には違いない。

 しかしこの世界の住人にとって、空間作成って通常仕様なのか?


 その辺は本当に謎仕様の、コッチの世界の技術レベルの話であるけど。ただし例えば半世紀前には考えられなかった、携帯電話やら3Dプリンタ、その他各種の現代の科学技術をかんがみると。

 そんなの信じられないと、頭ごなしに否定するのも馬鹿げている気が。現代科学の進歩を否定するのと、こっちで与えられた魔法やスキルを常識外れと揶揄やゆするのと。

 一体どう違うと言うのか、常識って考えて見れは不思議である。


 とか思っていると、ネムは毎度の如く先頭に立って白い部屋の奥へと進み始めた。それに当然の如く追従する、ジェームズとシルベスタ。

 思考にふけっていた俺は、ちょっと遅れて連中の姿を追う破目に。それにしても、こちらで常識とされる創作作業について、こっちの住人の認識はどうなっているんだろう?

 例えばネムとか、ちゃんと分かって利用しているのか?


「なぁ、ネム……このコアとやらで空間を創り出す能力って、白の陣営の神様の能力なのか? そこら辺の認識と言うか常識、こっちの住人はどんな解釈してるんだ?」

「ハルキは難しく考えすぎニャ……コアと魔石さえあれば、どこかの空間をコピーするのは誰だって出来ちゃうニャ!

 ハルキの世界には、そんな技術は無いのかニャ?」

「いや、まぁあるな……空間そのものってのはさすがに無いけど、似たような技術は確かに存在するか……」


 例えばコピー機やFaxは、今では普通に普及して誰もがその用途を理解している。更に言えばクローン技術なんて、一昔前はSFだと思っていたのに。

 あれは遺伝子のコピー技術で、どうやら現代科学の力では成功しているとの話。それを鑑みると、空間のコピーと言うのも驚く程では無いという気がしてくる。

 いや、実際は凄い技術なんだろうけどな。


 ネムの話は、そこからこっちの世界の構成情報へと変化して行った。これも俺の知らない常識だ、しっかり覚えて帰らないとと肝に命じて。

 これに関しては、俺の知る世界と全く様相が異なっていた。世界は3層+αで成っていて、主要なのが上層と中層、それから下層エリアらしい。

 そこに住む人種は、それぞれ異なるのだそうで。


 上層エリアは、精霊や自然霊の住まう桃源郷の様な場所らしい。人間はほとんど住んでおらず、ごく稀に仙人が居を構える程度なのだとか。

 そんな人間の主たる居住区は、、中層エリアだとの事。一番広大なのだが、常に人族同士の争いが絶えないとの注釈。それは俺の世界も同様で、今更驚くような内容でも無いな。

 そして問題なのが、中層と同じ位広大と言われる下層エリアである。


 俺の認識だと、地獄とか妖魔の住まうエリアに感じられるんだけど。ネムの話だと、確かにモンスターの数は多いけど、普通に人族も街を造っているらしい。

 下層と中層の違いは、モンスターの数だけではない。下層は年々、エリアが広がって行くらしい。つまりは、コアで創り出された新エリアの存在である。

 人々はそれを、深層や浅層と呼ぶのだとか。


「浅層はコアと魔石で創り出して、暫く経てば消えちゃう不安定なエリアだニャ。ハルキが今まで探索して来たエリアも、だいたいはこの浅層エリアだニャ!

 深層エリアは、その浅層エリアが安定しちゃったジョウタイだニャ。理由は、リョウシツな魔石がカンケイしている場合が多いニャ。

 ウチらが創っても、大抵は色んな陣営で取り合いになるけど……強力なモンスターが、巣を作っている場合も多いニャ!

 空間とかのコピー技術は、確かに白の陣営の神様は得意分野だニャ。代わりに、戦闘系は苦手だニャ……それを知ってて、他の陣営の連中は横取りを常に狙ってるんだニャ!!」

「それは酷いな……なるほど、神様にも得意や不得意があるんだな。ってか、白の陣営の神様は、陣営の皆に強力なスキルを配ってるじゃないか。

 戦闘が苦手って事は、全然無いんじゃないのか?」


 ネムは俺の問いに、ちょっと驚いたように束の間振り向いた。それから、コイツ何を言ってんだかって呆れた表情に。俺は何か変な事を言ったかなと、暫し自分の質問を思い返す。

 スキルについては、エリア創造同様に謎が多いと俺は思っている。便利で強力ではあるけれど、《夢幻泡影》みたいにたまに暴走する事もあるし。

 しかし、ネムの口から出た説明は俺を驚かせた。





「何言ってるニャ、ハルキ……スキルも、戦闘や各種技術のコピーに決まってるニャ」







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