第54話 分裂したり併合したりする人々



「……別について来なくても良かったんだよ、寺島君? 私はあの2人の考え方が、我慢出来なくなったから勝手に行動する事にしただけなんだから。

 向こうも後衛役の女子だけだし、寺島君まで抜けるときついんじゃない?」

「いや、まぁ……確かにそうかも知れないけど……僕も少し思う所があって、向こうチームには居辛いかなぁって。

 元のほつれを作ったのは、やっぱりあの2人かなあって思うし……」


 細木の語り掛けに、濁した言葉を返す寺島。話の通りに、現在は細木と寺島は2人切りでのチームとなっているようだ。

 つまりは、斎藤先生と女生徒の南野での2人が、取り残された結果になる。向こうは後衛のみのチームなので、今後の探索は大変なのは目に見えているけど。

 パーティ内の軋轢あつれきは、どう仕様も無い程には膨れ上がっていた様子。


 それ故の破綻はたんで、この分裂となったみたい。命懸けのダンジョン探索の途中とは言え、チーム内に不調和を抱えて行動するのも命取りではある。

 結果、細木は単独でダンジョン探索に挑む事を決めたようだが。釣られるように寺島も、彼女と行動を共にする事を決心した模様。

 そんな訳で、2つに分裂したチームの出来上がり。


「どっちにしろ、今日から厳しい道のりになるわね。まぁ、戦闘に関しては強敵が出て来ない限りは平気だと思うけど。出来れば信頼出来る、新しい仲間が欲しいわね」

「そ、そうだね……」


 ここでも決定権の無い寺島は、後をついて行くだけの従者と成り下がっている模様。戦闘の指揮取りやエリアのワープ先決定も、全て細木が担っている始末で。

 それでも上手くチームは回っているし、そこそこ順調に距離は稼げている感じだ。エリアは遺跡エリアがメインだったが、2つのワープ通路を潜った先は現代建築エリアへ。

 時刻はそろそろ昼時、元パーティと別れて半日が経過。


 細木の変化は、外見だけでなく内面の性格にも及んでいた。それに違和感を覚える程には、メンバーの誰も元から彼女と親しい間柄では無かったけれど。

 リーダシップを発揮して、積極的に行動するなんて、以前の彼女からは想像の出来ない事態には違いなく。それでも探索は順調で、寺島も何の文句も無く付き従っている。

 そして更なる幸運を、このチームは引き寄せる結果に。


「……あれっ、向こうから歩いて来るのって、同じ学校の生徒じゃない? 寺島君、3人いるけど誰か知ってる人いるかな?

 ってか、ウチのクラスの男子生徒かな、見覚えがあるし」

「えっ、ああっ本当だ……うわあっ、凄い偶然だね! 僕らラッキーだよ、知り合いとこのランダムな迷宮内で、2度も遭遇するなんて!」


 確かにそうなのかも、ランダムでワープ先が決まるとしたら、その先に探索者がいる確率も知れてるし。向こうもこちらに気付いたようで、3人とも足を止めてこちらを見ている。

 彼らは揃って学生服姿で、似たような背格好をしていた。探索に疲れ果てた容姿は、どこか郷愁を誘う。一応はそれぞれ、武器らしき得物を手にしているけど。

 歴戦の戦士と言うには、程遠い見た目である。


 彼らの頭の中で、どんな計算が働いたのかは不明だけど。揃って2人の元に駆け寄って来たのは、明らかな歓迎の印からだろう。

 嬌声を発している者もいるし、この変化を喜んでるのは傍かも窺える。それから無事だったのかと、細木パーティをおもんばかる掛け声も聞こえて来て。

 向こうのチームも、今まで相当苦労して来た様子。


「お~い、そっちは地下鉄ホーム脱出組の、俺らの学校の同級生に間違い無いよな? 出会えて良かった、無事だったんだな!

 こっちは……色々あって今は3人だよ……」

「私達の方も似たようものよ、ちょっと前までメンバーはたくさんいたんだけどね。死に別れたり空中分解したりで、今はこの2人だけになっちゃった。

 えっと、米田こめだ君と今村いまむら君と……涌田わくた君だっけ?」


 いきなりスレンダー美女から名前を呼ばれ、キョドってしまう男子生徒たち。それから彼女に細木だと名乗られると、揃って信じられないと言う表情に。

 それ程までの変貌を遂げた細木だったが、それを指摘されても特に動じた感じでも無く。向こうのパーティ構成を聞き出して、この場を仕切って性格まで変わってしまった雰囲気。

 それに文句を言うでもなく、大人しく対応する3人組である。


 それによると米田は《時空Box(大)》を所有して、食料を大量に保管しているとの事。運よく補給地点に巡り合えたらしく、食事には困っていない3人組である。

 それから今村は《魔術師セット》スキルを持っていて、後衛で攻撃魔法の支援が可能らしい。そう言われれば、彼だけ制服の上からローブを羽織ってワンドを手にしている。

 傍目には、仮装している風にしか見えないけど。


 最後の涌田は木の棍棒を持っていて、スキルも《鈍器使い》と《司祭》の2つで戦闘においては光り輝いている。この3名、いわゆるゲーム的なパーティ編成である。

 ただの偶然に過ぎないのだけど、ここまで生き延びて来られた理由はその辺にあるのかも。ここに前衛が可能な細木と寺島が入れば、更に理想のパーティになりそう。

 その発言に、盛り上がる一同であった。


「よしっ、それじゃあ5人でパーティ組もう!」

「いいねっ、じゃあ回復は任せておいてっ!」


 俄然元気になる3人組と、明らかに安心模様の寺島である。何しろ2人パーティでは、回復要員も食糧すらも心許なかったのだ。

 それが幸運にも解消されて、心のつかえが解消されるのも当然と言うモノ。自ら切り離した、斎藤先生と南野の事など既に忘れ去っている様子。

 そんな男たちを、やや離れた場所で冷ややかに眺める細木。


 ――それは果たしてこのパーティも、長く続くのかと疑う顔色だった。









 ギャルの古野橋このはし桜子さくらこが属するパーティは、散々な現状に陥っていた。散々と言うより陰惨かも、何しろ最初は13人もいたメンバーが今はたった6人だ。

 半分以下に減じてしまった理由は、まぁ色々あるのだが。戦闘で亡くなった人が3人、寝て起きて来たら死んでいた人が4人もいたと言う事態に。

 パーティ内の雰囲気は、今や地に落ちている状況である。


 生き残った内訳は、学生が4人に一般の大人が2人。整体師の日下部くさかべと、自称医師の岸那部きしなべで2人と、生徒は男女が2人ずつ。

 チームのリーダーは、整体師の日下部が担っていた。それから男子生徒のチャラ男の森脇もりわきが戦闘リーダーと言うか生徒のまとめ役で。

 まかりなりにも、一応は纏まったチームにはなっている。


 全員が何かしらの、戦う手段スキルを所持しているメンバーが生き残ったとも言える。死亡したメンバーは戦闘に非協力で、文句ばかり言いながらついて来ている連中だったとも。

 それでも仮にも仲間だった人たちの死は、重く桜子の心に圧し掛かっていた。他の生き残りメンバーも似たようなもので、秘かに仲間内での犯人探しが行われる始末。

 特に学生たちは、密談モードで内部の犯人探し。


 確信は無いけど疑ってしまう、最近は学生組で見張りを立てて被害は無くなったけど。男子生徒の近森ちかもりは、ほぼ大人のどちらかとの推測に至っている様子。

 近森は《剣士セット》と言う9Pのスキルの使い手で、戦闘では初期の頃から目立つ存在だった。セットスキルの恩恵で、空間から剣と鎧を取り出す有利さも手伝って。

 控えめな性格さえなければ、チームの中心に居座っていても不思議ではないキャラだ。


 しかもサブに《不眠不休》と言う、ほぼ寝ずの番が可能なスキルを持っていて。これは元の世界で、睡眠を削ってゲームに興じていた流れからの取得である。

 こんな苦境で役に立つとは思わなかったが、元からのコミュ障で名乗りが遅れてしまい。こんなに数が減っての名乗り出で、今に至ると言う。

 それでも最悪の状況を食い止めているだけ、マシなのだろう。


「整体師とお医者さんか、どっちも怪しいと思えばそうなのかも……とにかく近森君に、夜は頑張って貰うって事で。戦闘では私達も頑張るから、本当にお願いね?」

「うん、まぁ……いいけど、僕も死にたくは無いし」

「生徒会とか、他の連中と早く合流したいよなぁ……」


 などと弱音を吐いたのは森脇で、近森に寝ずの番を頼んだ女生徒は天海と言う名前の後衛職だった。《粉砕魔法》と言う魔法スキルで、今まで敵を倒すサポートをしてくれていて。

 女生徒にしては大柄で力持ち、荷物運びも率先してこなすサポート気質の持ち主で。キャンプ地の運営や料理に関しても、ほぼ彼女の手腕によるものが大きい。

 何故かギャルの桜子やチャラ男森脇とも仲良しで、一緒のチームにいると言う。


 その点でも近森は浮いた存在だが、彼の持つ《不眠不休》と《異界知識》の2つのスキルは、今やチーム生き残りに関しては肝となっていた。レベルの上昇もドロップ品の収集も、ここまで割と順調なこのチーム。

 今ではチーム平均レベルは10を超え、SPジュエルやCPカプセルでの成長も目覚ましい勢い。ゲームお宅知識と異界知識の融合は、生き残りメンバーには絶妙に働いている。

 ただ本人的には、この現状をどう思っているかは全く不明で。


 不安と疑心暗鬼が満載のこのチームだが、残ったメンツはそれなりの腕前となっているのも確か。この波乱満載の異世界に馴染んだ感もあって、ちょっとのアクシデントでは揺るぎそうもない。

 そして本人たちは知るよしも無いが、もう少しで巨大モール施設に到着出来る位置にまで近付いている。彼らの苦難が報われるまで、あともう少し。


 ――それまで無事に、何とか生き残って欲しいモノである。









 こちらも波乱に満ちている、オタク3人衆と秀才パーティだけど。意に反して、探索の道順はとても順調だった。それもこれも、彼らの所有スキルの豊富さが関係しているのかも。

 リーダーの枢木くるるぎは、《痛み魔法》と言う変わった魔法を有しており、更には近接では《反射》なんてスキルも使いこなしている。戦闘センスもなかなかで、恐れを知らぬ闘い振りは今までパーティを引っ張って来た原動力かも。

 そして以前口にした通り、《スキル奪取》も隠し持っているとすれば。


 異世界探索に関しては、割と死角がないキャラなのかも知れない。それでも時々、探索中にサボる姿勢を見せるのは《怠惰》スキルが影響しているのかも。

 これはサボる程に経験値やスキルPが増えると言う、ちょっと変わったスキルである。3Pの安いスキルの癖に、将来化けそうな異様な性能を示していて。

 今後の成長に、目が離せない人物かも知れない。


 そういう意味では、ガリ勉の國岡くにおかが掲げた目標もそうなのだが。《魔王セット》は13Pと重過ぎて、未だにその片鱗すら窺えない。

 それでも探索には、《腐食魔法》と言う4Pのスキルで貢献は出来ている。もう1つの《傲慢》と言うスキルは、従えた部下の数だけ自己が強化されると言うモノ。

 残念ながら現時点では、これもお蔵入りのスキルである。


 オタク2人目の飯田いいだだが、彼は他のメンバーに較べたらまともなスキル構成だと自負していた。とは言え、《呪術》なんて怖そうな奴も取ってしまっているけど。

 他は《異界知識》とか《弱点看破》とか、真っ当に探索にも戦闘にも役立つモノばかり。後は《遠隔射撃》と《器用度up》で、戦闘のサポートに徹するのみ。

 悩みは投げる武器が、案外手元に少ない事くらい。


 そして最後のオタクの増野ますのだが、この異世界に来て猛烈に異彩を放っていた。元は偏屈で不潔な生徒止まりだった彼は、《身体変化》と言うスキルで強烈な変貌を遂げ。

 このチームで唯一無二の前衛をこなし、敵を殺す事に喜びさえ抱いている様子。受けた傷も《悪食》で癒えるし、ただその食事風景と咀嚼するモノは、仲間でさえ目を背ける始末。

 彼の食するのは、つまりは自分が倒したモンスター達。


 それによってレベルが上がるし、《悪食》はたった3Pのスキルなのに性能は凄いのかも。ただしリスクもそれなりに存在するのが、何となく透けて見えるのが怖い所。

 彼がさらに所有する、《憤怒》や《禁忌》などはまさにその典型的なスキル群には違いなく。《憤怒》はセットしておけば、敵の攻撃を受けるたびにこちらの攻撃力等が上がるので便利なのだが。

 9Pと重い《禁忌》は、さすがの増野も試すのが怖い。


 簡易な説明文では、禁忌系のスキルとの併用で絶大な力を発揮するそうなのだが。つまりは増野の所有するスキルでは、《悪食》や《憤怒》と言う事にはなる。

 それが万一暴走でもすれば、簡単に人間をやめる事態になりそうな気配がビンビンだ。それは流石に増野でも望んでいない、ただ万人に認められたいと言う欲望は誰よりあるけど。

 この異世界ならそれも可能だ、スキルで成り上がる事が可能なこの世界なら。


――強烈にそう思う、増野もそんな人物の1人には間違い無かった。









 “灰の陣営”のガウト親方率いる旅団チームは、無事に交易所の一つ“レント”エリアへと到着した。それは春樹たちと別れた翌日の事で、間の1日は良い狩場に遭遇したので。

そこに籠って、交易品となる獲物を狩っていたのだ。


 この交易所は、他所と較べると比較的大きな部類に入る。人種も様々で、色んな陣営の狩人や商人が店を出したり行き交ったりしている。

 ガウト親方は迷う事無く、仲間を率いてまずはここの責任者に挨拶へと出向き。暫く後には、交易の許可証と自由に使える土地を借り終わっていた。

 後は腰を据えて、欲しい物を見て回ればよい。


「親方、いつも通りにいったん落ち着いてから他の店を見て回るんだろ? 一応売り物になる物は、貸店舗に並べておくかい?」

「うむ、いや……厄介な連中がここに居座っているらしい。紫炎の陣の傭兵たちが、3日前から我が物顔でこのエリアに陣取っているそうだ。

 そいつらが消えてくれるまで、しばらく様子を見た方が良いかな?」

「ええっ、あの悪名高きならず者集団がいるのかよっ……運が悪いな、下手に喧嘩を吹っ掛けられないようにしなくちゃ」


 ガウト親方の報せに、途端に警戒した表情になる残りのメンバーたち。それ程に紫炎の陣の傭兵団“地獄の煉獄”は厄介者で、残虐性とその強さは遠くまで噂が鳴り響いている。

 こんな下層にまで来るなよと思うけど、そもそも連中の思惑は浅層での略奪に他ならない。わざわざ安定しない他者の陣に攻め入って、略奪するのが彼らの流儀である。

 下層に住まう民としては、厄介極まりない存在の奴らだ。


 少人数で活動する灰の陣営側としては、絡まれて良い事は何もない。下手に顔を合わせないようにするのが、最良の策には違いなく。

 とか思っていると、視界の端に噂をしていた連中の行軍がチラッと移った。大柄な馬に騎乗した団体が、大通りを我が物顔に闊歩している。

 揃いの緋色の鎧は、連中が潤っている証だろう。


 傭兵団で、こんな揃いの武具を揃えているのは、略奪が上手く行っている証拠に他ならない。全員で50名はいるだろうか、馬の手入れもしっかりされていて迫力は相当ある。

 団内の規律もしっかりしているとは噂されているが、ガウト親方の視線は厄介者のそれを眺めるモノに他ならない。残虐さで知れ渡った傭兵団なのだ、それは仕方無いだろう。

 チラッと見、遠征の準備は既に完了している様子。


「……連中、また他陣営に攻め入りに向かうみたいですね。奴らは新参者の白の陣営を毛嫌いしてるから、近くをうろついてるハルキたちが心配だな。

 この間も、何人始末したって戦果を大声で吹聴してたし」

「浅層で行動してる探索者には、まさに厄災だろうな……出遭わない事を切に願うよ」


 他の陣営からも厄介者扱いを受けている“地獄の煉獄”団は、全員が騎乗して疾風のように略奪を行う事で有名だ。中でも団長の“鬼面”のドルバンは、その強さと残虐性で名を馳せており。

 巨体で強面こわもての様相を有し、傭兵団のイメージを体現したような人物である。中年に差し掛かる年齢ながら、筋肉の質や運動量にいささかの衰えは無い様子。

 むしろ残忍さが、その身から染み出している感も。


 その隣に馬首を並べる“赤髪”のザイレスも、この傭兵団の中では有名だった。長身で長く伸ばした赤髪と、緋色のマントが特徴的なこの人物。

 一見見た所は優男にしか見えないが、残虐性は団長に匹敵するとの噂である。部下たちも、どちらかと言えばこの副長をより恐れているようにも感じる程で。

 そんな“地獄の煉獄”団は、かなりのスピードでレントの交易所を去って行く。


 ――その移動先で、血の雨が降るのは既定の事実。








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