第34話 ヤンキー対決と教壇変異種
昼飯は屋上で食べたいよなと、階段を見付けては上がって行っているのだけれど。何故だか全く屋上に辿り着く気配は無し、それどころか建物の種類が変わって行っている感じ。
校舎には違いないが、明らかに別の建物に変わっている。一体何階建てなんだと、こちらから文句を言いたくなるレベルではあるけど。
次に至るゲートも見当たらず、建物を
それでも適当に敵のパペットを間引きながら進んで行くと、途中でレベル14へとレベルアップを果たしてしまった。順調ではあるな、ついでに階段の踊り場で昼飯も終わらせて。
今後はどうしようかと、部長と話し合う。
「う~ん、マップ検索でもそのフロア分の地図しか表示されないんだよね……こんな風に階層のあるマップだと、階段の上り下りの度にチェックして行かないと……。
意外と厄介だね、現代建築エリアも」
「まぁ、そうだな……しかも学校とか、特に回収出来る備品とかも無いし。せめて食料とかあれば、助かるんだけどなぁ」
「そうだね、チョークとか持ち帰っても仕方ないしね……」
《投擲》で飛ばして、授業中に寝てる奴は容赦しない! とかって遊ぶのも、1回やって飽きちゃったしな。ってか、さすがにそんな癖のある先生は未だに出会った事など無いんだけど。
パペットへのダメージも、チョークが当たったからと言って何の効果も当然無くて。この技は恐らく、今後永久に封印される事だろう。
いいけどね、別に悔しくは無いし。
他に役に立ちそうなものも、ほぼ皆無という学校エリア。見付かるのは誰かが置きっぱの教科書とか、掃除用具や机や椅子など。幾らあっても、腹の足しにも戦闘の補佐にもならないのは当然で。
そんな訳で、ほぼ全ての教室をスルーして歩いていた俺達だったのだけど。不意にある教室の1つから、複数の人の気配を感じ取って。
慌てて身を潜めたのだが、部長と上手く連係が取れず。
「……誰だっ!?」
「うわっ、ゴメン……見付かっ……あれっ、隣のクラスの伊澤君!?」
「何だ、奴らか……」
ああっ、誰かと思えばヤンキー3人組か……部長たちとの
それ程に警戒する相手では無いが、同じ境遇の者同士とは言え、元から仲が悪いとしたらどうなんだ? 脅威になり得るのだろうか、この異世界で。
そう言えば、地下鉄ホームで意識の無い俺から、金を盗んだと言う目撃情報もあったっけな。それが本当だとしたら、こちらも思うところがあるけれど。
取り敢えずは、《高利貸》はセットしておこうか。
素通りも何だしな、後ろからつけ狙われても
向こうも取り立てて、仲間を集めようとは思っていない筈である。いや、そうとは限らないのか……生徒指導の教師たちみたいに、自由になる兵隊なら欲しがるかも。
ここは
こちらも兵力増強は大歓迎だけど、気の合わない連中と手を組むのはストレスにしかならないからパスだ。元の世界でも、コイツ等の暴虐さと幼稚なプライドは際立っていたし。
それで俺や光哉達とも、バチバチに揉めたりしていたのだ。その割には、ガチ勢の宗川兄妹にはビビりまくっていたから、喧嘩の腕は大した事は無いのは分かっている。
虚勢とハッタリの連中だ、適当に煙に巻いて別れるのが吉かな?
「何だ、皆轟じゃねぇか……青木達はどうしたよ、まさか置いていかれたのか?」
「お前らも、3人以外はつるむ相手いねーじゃん。教室で居残りか、進歩の無いのが丸分かり」
「……何だコラ、喧嘩売ってんのか!?」
いきなりヒートアップしたのは、やはり一番喧嘩っぱやい野村だった。おっと、いかんな……そんなつもりは無かったんだけど、馬鹿にしてるのが言葉に伝わっているようだ。
部長がまぁまぁと取り成してくれているが、連中からすれば空気でしかない。そう言えば俺の金盗って行ったそうだなと、面倒なのでいきなり核心を突いてやると。
急に黙り込んだので、一応忘れてはいなかったようだ。
「意識の無い奴相手なら、幾らでも強気に出れるよなぁ……所詮はお前ら小悪党だろう、幾ら努力してもそれ以上にはなれねぇよ。
大人しく盗った金返すんなら、これ以上は言わないでおいてやるぞ?」
「舐めんな、皆轟……てめえなんざ怖かねぇよ!! お前ら、やるぞ……!!」
おっと、いきなりの宣戦布告とは……余裕のない連中だな、余程図星を突かれたのが癪に障ったみたいである。それならこちらも、自衛するのは
ぶん殴っておいて、《高利貸》で盗られた金の取り立てを行うのみ。
部長には入り口から動かずにと指示を出し、俺とジェームズは教室の中へと踏み込んで行く。おかしな雰囲気は無いので、罠の類いは警戒せずに良さそうだ。
むしろ連中の方が警戒すべきだな、予想される進路上に幾つか仕掛けてやるか? しかし乱雑な机の迷路は、どうにも進路予測の邪魔にしかなり得ず困ってしまう。
しかも左に展開した奥井が、景色に溶け込んで消えて行く!!
驚いた俺は、とっさにその周辺に《罠造》でのトラ挟みをバラ撒きに掛かる。伊澤から飛んで来た《氷弾》は、何とか盾でガードが間に合った。
そして右から突っ込んで来た野村は、何と狼男のように獣へと変化して行く途中!! コイツ等、ビックリサーカス団か何かなのか!?
意表は突かれたけど、ダメージは未だ喰らってはいない俺。
逆に、透明になった奥井の方が、罠に掛かって悲鳴を上げていた。これで一人脱落かな、机の上を渡って近付いて来られなくて良かったけど。
その分、獣と化した野村のスピードは、馬鹿に出来ない勢いを伴っていた。ここは俺も手抜きは出来ないな、奴のかぎ爪で引っ掻かれたら相当のダメージを負ってしまいそう。
そんな訳で、俺の一番の最大ダメージを誇る《光爆》をプレゼント。
「ぐがっ……!!?」
「奥井っ、……野村っ!?」
残された伊澤も、慌てながらも戦う意思は崩していない様子。なおも《氷弾》を飛ばして来ながら、俺との距離を詰めようとしている。
接近戦でも何か手はあるのかな、こちらはどっちでも構わないけど。むしろ、さっきの《光爆》の威力を知ってまで、近付いて来る度胸は
そして大きく見開かれる奴の目、それは爛々と真っ赤な光を放っていた!
うおっ、これは……途端に金縛りにあった俺は、奴の奥の手に驚愕するしか手段は無く。どうも奴と視線を合わせた事が、このスキル作動のトリガーとなったらしい。
《邪眼》とか、そんな感じのスキルだろうか……厨二病っぽいけど、まんまと掛かった俺が批難するのもアレだな。仕掛けに成功した伊澤は、満面の嫌らしい笑顔になっている。
その口が絶叫を放ったのは、それから約2秒後だった。
ジェームズは、小柄だけに目立たずに机の下から接近出来てしまった模様で。そこからの容赦無いバールの一撃、どうやら奴の向う
それと同時に、俺の金縛りも解けてしまったようだ。悪くないスキル活用だったけど、まぁ相手が悪かったな……俺の相棒にまで気が回らないとか、その時点でアウトである。
もとから3対1の喧嘩だし、多少のスキル多用は許して欲しい。
それにしても、何とも締まらない喧嘩だったなぁ。こちらは数のハンデを抱えていたんだし、もう少し伊澤達には気張って欲しかったと変なダメ出しをしつつ。
取り敢えずは主犯の伊澤をぶん殴って、まだやるかと問うてみたところ。半泣きで勘弁してくれと謝られて、まるでこちらが虐めたみたいである。
先に俺の金を盗んだのは、そっちなのを忘れてないか?
「取り敢えず、取り立ては容赦しないぞ……お前らが俺の財布から盗った金、利子付きで返して貰うからなっ!
《高利貸》……発動しろっ!!」
待ってましたとばかりに、本当に容赦のない取り立てを始める《高利貸》スキル……レベルを2へと上げたお陰か、その暴利は格段に上がっていた模様。
とは言え、俺の財布の中には5万円近く入ってたからな。高校生にとっては大金だ、利子もそれなりについているのだろうし、スキルを1つ位貰っても罰は当たらない筈。
と言う訳で、スキル《氷魔法》が俺のモノに。
それからSPとCPも、結構増えてくれたみたいだ。取り立ての最中、一番に伊澤が掻き回されるように震えていたので、主犯は恐らくコイツだろう。
他の連中もスキルの余波を喰らってたので、俺から盗んだ金は、仲良く分配でもしたのかな? まぁ、悪銭は身につかないと実地で覚えてくれ。
後は知らない、改心するなり引き籠るなりご自由に。
「……嫌な場面見せたな、行こうか部長……」
「あ、うん……そうだね、女性陣が引くのも分かるかな……」
なるほど、やはり傍から見ると相当に酷いんだろうな、俺の《高利貸》での取り立ては。前のパーティから追い出されたのも、決して向こうの我儘だけじゃなかったって事か。
一応は反省するけど、だからと言ってやられっ放しで済ますのは話がまた違って来る。被害者は一生、
そんなのは間違ってる、それは誰の決めたルールだ?
部長は、それ以上は何も言わなかった。ただ静かに、俺の後をついて来てくれている。それは部長なりの優しさなのか、俺への静かな同意なのか。
或いは、反対意見を腹に抱えているのかも知れない。いつか部長まで俺から離れて行ったら、俺は果たして正気を保っていられるだろうか?
自信は無いな、誰だって孤独は怖いものだ。
それがこんな異世界となれば、尚更のことである。考えてみれば、俺を切った女性陣も物凄い薄情だな。仮にその後、俺が野垂れ死んでも関係無いって意思表示な訳だろうから。
もっとも、向こうもそれなりのリスクを抱えての決断だったには違いない。信頼関係って難しいな、ちょっとしたズレや格差、考え方の違いで簡単に崩れてしまう。
俺も今後は、もう少し身内の事を
などと考えつつ、学園エリアを進む俺たち。それにしても広いと言うか、校舎が変な繋がりをしていると言うか。やっと見つけたゲートを潜った次のエリアも、またも校舎だったりして。
まるでループしているような気にさせられる、それとも窮屈な檻に入れられている感覚が近いだろうか。考えてみれば、現実の校舎も似たようなモノか。
先生と言う看守がいないだけ、こっちの方がマシな感じ。
「……この音はなんだろう、皆轟君? 機械の駆動音かな、すぐそこの教室からだ」
「……何だろうな、羽音……? ちょっと見て来る、部長はここで待っててくれ」
突然に出現した今までのルートとの差異に、俺達は驚きながらも対応を迫られる。怪しい音のする教室前まで、俺は単独で偵察に赴く事に。
その結果、怪しい音はやっぱり虫の羽音だと判明した。教室の後ろの扉の窓から、そっと伺った教室内には。何故か一番前の教壇に佇む、ひときわ大きな大樹のようなパペットが。
それに付随するように、巨大な蜂の巣か幹についている。
しかも形状からして、飛び回ってるのはどうもスズメバチらしい。サイズは大ゴキブリと同じくらい、つまりはフットボールサイズと超大きい。
間違っても刺されたくは無いが、幸い《罠造》の投網でも捕獲出来そうなサイズ感ではある。コイツも変異種なのかなと、俺はこんな場所での
ただし戦うかどうかは……やべっ、奴らはこっちを認識してる?
「部長、なんか見付かってる……変異種パペットと蜂の群れだ、廊下は狭いから撃って出る!」
「えっ、マジ……皆轟君、気を付けて!!」
さっきの同級生ヤンキー達との闘いは、遣り合ったとも言えない短時間での勝負だったしな。こっちの奴らは、多少骨があると良いのだけど。
とにかく向かって来る鉢の群れが厄介だ、《罠造》の投網で捕獲は定番として。教室に入ってから気付いたけど、普通のパペットも数匹机の影に潜んでいた様子。
そいつらも木の棒を掲げて、襲い掛かって来ている。
大忙しだな、ただし最初に接近して来たのは、捕え切れなかった大スズメバチだった。毒針の攻撃に身を
一撃で粉砕されて床に落ちて行く哀れな昆虫。
いやでも、やはり毒針の恐怖は相当なモノがあるな。教室の出入り口で、部長が後詰めに到着したと報せて来た。俺は咄嗟に思い付いて、《時空Box》に入れてあった強力ジェットの殺虫剤を取り出す。
これはバル〇ンと一緒で、ホームセンターでのいざと言う時用の補給品である。現在建物エリアでのモンスターの傾向から、ひょっとしたら必要かなと感じての行動だったのだが。
今回も役に立って欲しいと、俺は部長にロングパス。
「部長、蜂の方を頼む……! こっちは先に、木人形を倒して行く!」
「わ、分かった……気を付けて、皆轟君!」
教室に入り込んだ俺の方に、モンスター達のタゲは全て向いている。後方の部長は安全だと思うけど、変異種の動きだけはいまいち読めないな。
案の定、パペットの群れを足止めしていると、教壇を思い切り投げて来られた。危うく直撃しそうだったそれを何とか躱して、こちらも反撃の機会を伺う。
しかしアレだ、巨大とは言え木製たしな。
《罠造》のタライ爆弾で、燃やしてしまえば呆気なく終わりそうな雰囲気。しかしパワーは侮れない、また近くの机が勢いよく飛んで来た。
狙いは正確だな、一見鈍重そうなのに。
変異種のパペットは、手には棍棒などと可愛げのある武器は持っていなかった。大抵は教室内の机か椅子を掴んで、簡易武器に使っているみたい。
ほとんど投げつけて来るけど、パワー系の敵の相手は何度か対戦していて慣れている。見極めだけはしっかりと、相手のパワーに翻弄されないようにするのが鍵だ。
今回に至っては、接近戦をするつもりも無いしな。
そんな訳で、オーガ戦での作戦を踏襲させて貰う。面白味も真新しさも全く無いが、確実に敵を倒せるなら、そんなのは必要が無いとも言える。
《罠造》は本当に優秀だ、今まで何度、こちらの窮地を救って貰った事か。今も確実に大樹パペットを捕らえて、油を掛けて燃やしてくれている。
付属の蜂の巣も、これで一網打尽だな。
部長のフマ〇ラー攻撃も、それなりの撃退数を誇っているようだ。殺虫剤に倒された蜂たちが、床にひっくり返ってピクピクしている。
雑魚パペットの群れも、同じくトラ挟みやら鐘突き棒の落下やらで、教室の窓側で揃って戦闘不能状態に陥っている。あっちは、変異種を片付けてからでいいかな。
その変異種だけど、燃えている最中の大暴れが酷い!
トラ挟みで捕まえているから良いけど、あんな状態で走り回られたら大惨事だったな。ってか、木人形に痛覚とかあるんだろうか?
ダンダンと床を思い切り拳で殴り付けていて、その度に教室全体に少なくない振動が伝わって行っている。これってヤバくないか、断末魔にしてはやり過ぎだろ!
そして恐れていた事態が、何と教室がたわみ始めたのだ。
そんな事ある筈が無いだろうと、俺もこの事象には真っ向から脳が拒絶して。思考から追い出したいのはやまやまだけど、暴れる奴を中心にまるでアリ地獄のような教室の床の状態。
そして周囲の机や椅子と一緒に、たわんだ床の中心へと堕ちて行く俺。
そう、どうやら床に大穴が開いたっぽいこの状況。哀れに燃え続ける大樹人形は、こんな手段で俺を黄泉の国への巻き添えに選んだようだ。
その落下の衝撃は、割と凄かったようにも思うけど。実際は、坂道を滑り降りる様な感覚で、底に落ちた衝撃は大した事は無かった。
しかもありがたい事に、パペット変異種とは離れた場所に落とされたみたいだ。
奴が燃え続けてくれているお陰で、底の景色は何となくだが見て取る事が出来た。そこも元は教室だったようなのだが、巨大なナニカが自分の好みに変えてしまって久しい様子。
それは突然に上から降って来た闖入者に、驚き警戒しているようだった。それとも身体に降り注いだ机や椅子などの落下物に、怒り心頭に達しているのかも。
良く分からないな、完全に異種族の感情なんて。
――その蒼い鱗のドラゴンは、金色の瞳で真っすぐ俺を見据えていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
*誠に申し訳ありません、『ADSL回線』工事の問題で1~2ヶ月ほど更新がストップする事となりました。詳しくは近況報告に書きますが、再開までしばらくお待ちください。
他にも連載している小説もありますので、そちらでお楽しみ頂ければ。まぁ、更新止まってる奴も結構ありますが(笑)。
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