第30話 まだまだ続く異世界交流



 どうやら次のエリアも、遺跡タイプのようで似たような風景が広がっている。今回は入ってすぐに、コボルトの集団がお出迎えしてくれた。

 近くに奴らの集落でもあるのだろうか、盛んに周囲に警告の叫びを発して、こちらを囲むように攻撃して来る。

 正直やり難いが、身を守る程度なら部長も割と心得たモノ。こちらはとにかく前に出て、奴らの注意を惹き付ける。調子がいいな、既に2匹が戦闘不能になっている。

 続けてもう1匹、これも称号《天真爛漫》のお陰か。


 気怠さは残っているが、衰弱による身体の鈍化は綺麗に消え去っている。それどころか、以前より動きにキレが加わって、敵を攻撃する際のパワーも倍加している感覚に包まれてる始末。

 架空スマホから、自分のステータスを見て納得。マイナス補正が、いつの間にかプラスに転じている……HPやMPの値はプラス補正は受けないのね、マイナスから脱却しただけで充分に嬉しいけど。

 つまりだ、《天真爛漫》はそういう効果を持っているって事。


 実にタイムリーと言うか、マイナス補正にまみれた自分にピッタリあつらえた感が満載と言うか。リビングメイルの屈強さと反骨心が窺える、そんな能力の称号だな。

 詳しく説明すると、《天真爛漫》の補正能力は自身に掛かっているマイナス補正を、プラス補正に転じてしまえるらしい。何か、毒を受けても回復するとも説明があって、少し怖いけど。

 とは言え、別に回復や支援魔法も普通に受け入れオッケーみたい。




 皆轟春樹:Lv13   HP:74(74)   MP:99(99)

===========―――――――

物理攻撃:129(80)   物理防御:122(75)

魔法攻撃:96(64)    魔法防御:83(54)


スキル【16】《平常心Lv2》《観察Lv2》《日常辞典》《投擲Lv2》《剛力Lv2》《罠造Lv3》《光魔法Lv3》

予備スキル《餌付け》《追跡》《時空Box(極小)Lv3》《エナジー補給》《購運》《硬化Lv2》《糸紡ぎ》《潜行》《高利貸》《借技》《剣術》《夢幻泡影Lv2》《人形使役》

獲得CP【1675】   獲得SP【30/0】


『称号』:《安寧》《天真爛漫》

状態異常:呪い《衰弱》《悪夢》《陽嫌》

装備:銀の槍、手作りフレイル、工具の盾、蜘蛛糸のマフラー《空気浄化》、木綿のポーチ《収納倍加》、蜘蛛糸の作業着

持ち物:ポーション×4、マナポ×3、毒消し薬、薬草軟膏×4、架空スマホ、スキルの書(未鑑定)、コイン袋×2



 その辺は、部長に実験して貰って確認済みである。とにかくこれで、生き延びる可能性が上昇した訳だ。SPも再び貯まって来たが、この辺はまた落ち着いて弄ろうと思ってる。

 今の所は、スロット枠も何とか足りてるからな。ステータスも《天真爛漫》のお陰で上々だし、本当にリビングメイルを倒せて良かったと思う。

 一言で言うなら、開放感が半端無いって感じかな!


 そんなウキウキしながらの探索に、水を差すコボルトの群れも何とか撃退を終えて。今回は多かったな、ゆうに10匹以上は倒したと思う。

 奴らの武器も回収して、とくに弓矢の類いは何かに使えるかも。携帯袋からも、コインや小物を貰っておいて。そこまで時間を掛けず、その場を立ち去る俺たち。

 その辺は、段々と慣れてきた感はある。


「そろそろ、今夜の宿を見付けたいな……上手い事、あのマンションみたいなところが見付かればいいんだけど」

「難しいんじゃないかな……まぁ、野宿の覚悟だけはしておくよ」


 前向きなんだか後ろ向きなんだか、とにかく部長の言葉に俺も気を楽にして探索を続ける事に。遺跡の構造は今回も複雑で、結局はコボルトの集落も見付からず終い。

 別に寄ってみて、お宝発見! なんてルートを期待していた訳では無いけど。黒い翼をもつ、奇妙な生き物の襲撃を受けるよりはずっとマシなんじゃないかと思う。

 《日常辞典》ではインプと表されたので、以降はその名前で。


 ってか、コイツ等普通に魔法を撃ってくるんですけど!? 小柄なので、大抵は手作りフレイルの一撃で墜落してくれるので助かっているけど。

 ちなみにジェームズは、背丈が足りなくて全然戦闘には貢献出来ていない様子。部長の方がまだ頑張ってくれている、魔法の飛来には大いにビビっているけど。

 それはこちらも同じ、当たると結構ダメージが酷い。


 それでも数分後には、何とか群れの全てを退治し終わって。《光癒》で俺と部長を回復、少し休んで再出発と言う流れ。マナポーションは数が少ないので、まだ飲んだ事が無い。

 部長が生産の流れに乗せれれば、数を気にせずに済むようになるんだけど。マナポの製造には、まだ原料が少しだけ足りないとの事なので。

 貴重な薬品の流通には、もう少し時間が掛かりそう。



 少し進んだ場所に、沼地的な場所が見えて来た。水辺は大歓迎だが、何か濁った水の中にモンスターが潜んでいそうな雰囲気が。

 飲料水にもなりそうにないし、今夜のキャンプ地的にも不向きだとスルーしようとしたところ。部長が待ったを掛けて、池の周囲の植生を観察し始めた。

 確かにここは、他とは違う草木が目立つけど。


「……あっ、あの沼に浮かんでる蓮の花!? あれって薬の原料だ、間違い無いよ皆轟君! ちょっと欲しいかも、ってかマナポにも使える筈!

 絶対に欲しい、お願い取って来て!!」

「落ち着け、部長……ふうむ、まぁ何とかなりそうかな? 水の中に入らなくても、《糸紡ぎ》で糸を操って蓮の花を引っ張れば……。

 よしっ、試しにやってみよう」


 興奮する部長を尻目に、俺は池の淵に立って、セットを弄って《糸紡ぎ》に集中する構え。その途端に、物凄い勢いで水の中から何かが飛び出して来た!!

 驚いた俺は、慌ててソイツに蹴りを見舞って後退する。


 蹴りは確かにヒットしたが、それは大ワニの上顎だったみたい。勢いよく眼前で閉じられるあぎとに、俺は一気に血の気の引く思い。

 あんなのに噛まれたら、身体の一部が泣き別れになってしまう。部長の悲鳴に構わず、俺は脊髄反射で《光爆》を奴の眉間目掛けて撃ち込んでやる。

 その一撃に、大ワニは目を眩ませてあらぬ方向へ。


 側にあった槍を持ち直し、改めて部長の方を見遣ると。あっちはあっちで、池から襲撃して来た大型のペリカンみたいな鳥についばまれている最中だった。

 いや、アレもえげつないな……嘴の内側に、何かぎっしり尖った歯が生えてたのが見えたよ。完璧に肉食らしいな、そっちの応援に《投擲》で矢弾を飛ばして援護しつつ。

 俺は槍を構えて、大ワニの脳みそをほじくり出す作業。


 ハッキリ言って、あの丸太より太い胴体に、こちらの攻撃が通用するとは思えない。取り敢えずは目を眩ませている間に、奴をキッチリ仕留め……。

 わっ、お替わりの2匹目と3匹目が沼から湧いて来た! 《罠造》のトラ挟みで対処しつつ、ダメージは余り通ってない様子。部長、そっちへの応援は遅れるぞ。

 こっちは手一杯……ってか向こうも数が増えてるな!


 沼地を舐めていたかも、野生じゃあ水を飲みに来た草食動物を、待ち構えるハンターの宝庫じゃないか。もたもたしていると、向こうの勢力は増えるばかり。

 いや、こちらも経験値の稼ぎ時と割り切ろう。MPも潤沢に使えるようになったし、パワーで乗り切ってやる。《罠造》の鐘打ち棒落としも追加して、とにかく敵の自由にさせない事。

 数では既に不利なのだ、何かしらアドバンテージを作り出さないと。


 ものすごく敵の群れに押されてる部長にも、《光弾》で手助けなどしつつ。向こうは灰色の大型の鳥が、いつの間にか5羽以上増えていた模様。

 こちらもビックリだが、へっぴり腰で剣を振り回す部長も限界近い感じ。今回はジェームズも、地に降りた大鳥相手に役には立ってくれているけど。

 破綻は近いな、とにかく数を減らしてしまおう。


 そんな訳で《光爆》を解禁、体力の低そうなペリカンもどきを先に間引く作戦へ変更だ。MP消費の激しい大技だけど、こちらのピンチなのだから仕方が無い。

 幸い、追って来るワニは不在で良かった……後でゆっくり仕留めてやる。大鳥の群れも、突然の乱入者に大慌ての様子。銀の槍に突かれ、光魔法に焼かれて、あっという間に数を減らして行って。

 部長のピンチは、取り敢えず去った様子で何より。


「あっ、有り難う皆轟君……助かった、目ん玉くり抜かれるかと思った……!」

「まだ終わってないぞ、部長……最後に大物の始末しなきゃ。ちなみに部長は、ワニ革のなめし方って知ってる……?」


 さすがに部長も知らないらしい、やれやれ無駄な殺生になってしまうのか。いや、経験値が入って来るから、完全には無駄では無いんだけど。

 とにかく俺たちは、一応動きを封じたワニを仕留める作業を行う。弱っていてもそこは野生のモンスター、侮って怪我などしたくは無いし。

 暴れるしっぽの一撃を避け、何とか慎重に討伐成功。


 かなり神経を使った上に、案外と実入りは少なかったけど。それでも何となくの達成感、ついでに《糸紡ぎ》での蓮の花の回収も忘れない。

 やれやれ、ちょっとした原料採集が大仕事になってしまった。ちなみに今回の敵も、半分がSPジュエルとPカプセルを落としてくれた。

 その点では、コボルトよりは優れていたかな?




 冷や汗を拭いつつ、俺たちはその沼地を後にして。再びエリア探索を続けて、ようやくの事今夜のキャンプ地になりそうな場所を探し当てた。

 残念ながら、遺跡エリアを出る事は適わなかったのだけれど。崖のくぼ地のような場所を発見出来て、幸いモンスターの姿も近くには無い様子。

 時間も随分と遅くなっていたので、妥協した結果である。


「皆轟君、ここは場所的には悪くは無いと思うんだけど……誰かが同じく、キャンプをした跡があるみたい。大丈夫かな、変な奴らとバッタリ遭遇とか……?」

「確かに最近、他の団体との遭遇率は上がってる気はするなぁ……何でかな、エリア移動のルートが集約している感じなのかな、部長?」

「あぁ、そんな事もあるのかもなぁ……?」


 適当な推測なのだから、そんな簡単に乗っからないで欲しい。それとも、案外と俺のその考えは、的を射てるのかも知れないな。

 だとしたら、この変てこな異世界ダンジョンの出口は、もう近いのか。楽観は出来ないけど、期待はしていいのかも。いや、変な奴らと遭遇確率も、必然的に高くなるとしたら。

 さすがに安穏としてられないな、このキャンプ地も気を付けないと。


 取り敢えず、寝る前にはCP交換80Pを支払って“安全領域”を展開するのは当然として。ジェームズを歩哨に立たせて、《罠造》での対策もしておかないとな。

 それはともかく、残念ながら近くに水辺の無いこのキャンプ地。いつもと違うのは、何と日没が存在するって事だった。いつものエリアだと、光量は常に一定だったのに。

 次第に暗くなって行く周囲に、俺たちは仕方なく野営の準備。


「ここに焚火の跡があるのも、食事の為だけじゃなかったみたいだね。どうしよう、今から薪になる木切れとか集めてこようか、皆轟君?」

「一応ランタンは荷物の中にあった筈、それで今夜はしのごうか、部長。夕ご飯もレトルトで済まそう、安全な屋内とは違うしな……」


 それがいいねと部長も同意、そんな訳で日が少しずつ暮れて行く中、簡素な食事を大急ぎで済ませて。焚火はお湯を沸かすのに使ったのみで、早々に消してしまう。

 炎の温かさを手放すのは心細いけど、周囲の存在を必要以上に刺激したくは無いので。食事以降は、俺と部長は声も潜めて存在感をなるべく消すように務める。

 あの夜の襲撃みたいなのは、もう懲り懲りだからな。


 それでも会話のネタには困らない、お互いの成長の仕方とか色々と突き詰めて話す事は多いし。部長は現在レベル7、スロット枠はまだ11しか無いそうだ。

 《時空魔法》には、まだ少し足りないけれど。俺が均等上げを推奨しているせいで、なかなか一気にと言う訳にも行かない様子。

 でもほら、やっぱりHPやMPも大事だからねぇ。


 ちなみに部長、SPジュエルのスキル専用Pも、《時空魔法》用に取ってあるそうだ。どんだけ入れ込んでるんだって話だが、それだけ期待も大きいのだろう。

 それが報われる日が、早く来てくれると良いけどね。そんな話をしながらも、俺たちは慎ましいランタンの明かりで夜を明かしていた。

 そんな静かな時間が破られたのは、周囲にすっかり闇が満ちた頃。


「おっ、どうやら先を越されたようだな……どこの陣営だ? 俺たちは“灰の陣営”だが、果たして友好が築ける相手かな?」

「なんだ、たった2人か……取り敢えず、今夜はこれ以上の移動は無理だ。悪いが、近場に寝床を構えさせてもらうぞ」

「子供が2人とはな、迷子か何かか……? おいっ、どこの陣営だ?」


 自らを“灰の陣営”と名乗った屈強な男たちは、全部で5人の旅集団のようだった。荷物も多く、全体的にくたびれた佇まいだが隙らしい動きは見られない。

 そこそこの戦闘集団のようだな……ペジィが薬草摘み専門だとしたら、コイツ等は狩りや戦闘で生計を立ててる連中に違いない。

 そんな雰囲気が、否応無しに溢れ出ている。


「大丈夫、安全領域が発動しているから奴らは入れない……奴らもどうやら、それを分かっているみたいだけどな」

「……僕たちみたいな連中に、前にも会った事があるって事? それって、立場的に不味くない?」


 部長の意見はごもっとも……前に会った白の陣営の連中が、どんな対応をしたかで、大いに変わって来る可能性はあるかもね。

 こちらとしては、言葉でちょっかいを掛けられる位なら、じっと我慢すべきなのだろう。それでも俺としては、この程度の荒くれ者なら軽くあしらう自信はある。

 何だかんだで、ペジィも実は良い子だったしな。


 実際、連中のキャンプ支度は実に手際が良くて惚れ惚れする程だった。瞬く間に焚火と、それを囲む簡易椅子が出現、奴らは各々で寛ぎ始める。

 もちろん、こちらに対するさり気ない観察は緩む事は無い。連中の1人が、ジェームズを気に入ったのか、しきりにコレは何だと質問を飛ばして来る。

 どうも、自分の子供へのお土産に欲しいみたいだ。


 ジェームズは俺の大事な相棒なので、差し出す訳には行かないけれど。幸い俺の《時空Box》の中には、奴らが見た事の無いアイテムが色々と入っている。

 現に彼らは、電池式のランタンも珍しそうに話題にしているし。そうそう、ぬいぐるみなら今朝泊まったマンションから、2個ほど失敬して来ている。

 何故と言われても、Boxに隙間があったからとしか言えないけど。


「……アンタ等、狩人集団なんだろ? 獲物が上手く取れなかったのかい、えらく貧相な夕ご飯みたいだけど。

 ……ひょっとして、見た目ほどは腕が無いとか?」

「……なんだと、小僧!?」


 彼らが用意しようとしている夕食は、非常に簡素なモノだった。今度は俺が、それに穏やかでない質問を逆に投げ掛けてやる。

 案の定だが、たった一投目で餌に食いついたやさぐれ連中。剣呑な目つきで、全員揃って俺の事を睨んで来た。隣で思い切り部長がビビってるが、俺は忙しく思考を巡らせる。

 釣れた魚にだって、餌を与えなきゃ大きくならない。


 俺はゆっくりと立ち上がって、こっそりと《時空Box》から小柄のぬいぐるみを取り出してみせる。それから数の少ない、スナックと酒瓶もついでに。

 これらも餌だが、ただで奴らに渡す程に俺はお人好しではない。きっちり対等の立場だと分からせない限り、向こうも取り引きを舐めて掛かるだろう。

 まずはこちらの尊厳を、きっちり確立させておかないとね。


「俺たちは白の陣営らしいが、それは今は関係ない……お前たちには、普段の素行を見守ってくれる神がいるかい? 俺たちの世界には、そんな神様に捧げる闘技が存在するのさ。

 いつまでも戯言をほざいてないで、それで決着をつけよう。





 ――相撲って言う神聖な闘技の事だ、肉弾戦で武器は使わない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る