第29話 鎧モンスターとの激闘



 ペジィから大体の情報は聞き終えたし、こちらの支度も整った。昼ご飯もご馳走になったし、少女の鞄も薬草でパンパンである。俺たちの分も採集したし、お出掛け準備はオッケー。

 後はつつがなく、噂に聞く変異種モンスターを倒せばめでたいなって状況なのだが。遠目で窺ったその鎧モンスター、体躯は2メートルの全身鎧のその勇姿。

 間違っても、刃の攻撃は効きそうにない!


「……あれって、ゴーストとかと同じカテゴリーなのかな、部長? 俺の《光魔法》が駄目なら、もう既に打つ手が無いんだけど」

「……皆轟君の《光魔法》って、ほぼ初級の技しか無いんでしょう? マミーもどきは倒せたけど、アレには難しい気がするよ……」

「だよなぁ……おっと、こっち向いた」


 遠くの茂みから観察した結果、何か厳しいねって話し合いに落ち着いた。でもまぁ、あれが死霊カテゴリーに属するのなら、最悪接近して、鎧の中に《光弾》を撃ち込めば何とかなる筈。

 希望的観測だが、部長もアレはリビングメイルに間違いないと言ってるし、まず間違いは無いだろう。つまりあの鎧の中身は空っぽだ、亡霊が動かす鎧の化け物。

 現に日の光は苦手らしく、屋根のある廃墟内ばかりを移動している。


 それでもあの分厚い鎧のせいか、日向でも一応は行動可能らしい。ペジィも何度か、このエリア内で追いかけっこを繰り広げたそうだ。

 度胸あるな、捕まったらペチャンコだぞ!?


 何しろリビングメイル、両手持ちの巨大な槌を装備している。それを苦も無く振り回すそうで、これは接近戦に持ち込むのも嬉しくない情報だ。

 ペジィはその身の軽さを活かして、細い通路や段差などを利用して逃げ延びたらしい。それを聞いて、俺は作戦を紡いで行く。

 作戦は大事だ、何しろ今回は《罠造》の焼却手順は狙えないし。


 新しく手に入れたスキルにも、使える奴があれば積極的に登用する構え。意地を張っていても仕方ない、元の持ち主が気に入らなくても、スキルに罪は無いのだし。

 その結果、《剛力》で高い所から重い岩を落とす作戦を遂行する事に。その前に《光弾》は試してみるが、こちらは余り当てに出来そうもない。

 もう少しパワーがあれば、また話は違って来るかもだけど。


「ペジィ、どっか良い場所無いかな……岩を持って登れる、奴をおびき出せそうな屋根付きの場所って」

「ん~っ、登れる場所……そうだっ、中央の遺跡のアーチ通りの所なら、横の大木を伝って登れるかも?」

「おおっ、それじゃあそこに案内してくれ、頼むペジィ」


 そんな訳で、俺たち3人は揃って移動を果たす。ペジィの案内で、お堀沿いにエリアの中央方面へ。この先に半壊した遺跡があって、その奥にゲートがあるらしい。

 そのゲートのある中央付近に、あの鎧の化け物が居付いてしまったらしく。帰り道に蓋をされた少女は、実はここで丸一日泊まり込んでいた模様。

 不運だな、行きに出遭えばすぐ帰る手段もあったのに。


「でも、そしたら危険な奴を集落に招き入れてたかも知れないし……」

「そっか、それも大変だな……とにかく、俺達で出来るだけやってみよう」


 穴だらけの作戦だが、まぁ何とかなるだろう。取り敢えず《高利貸》で鞄ごと入手したアイテムで、自己強化は忘れずにやっておこうと思う。

 《日常辞典》で確認したところ、木の実は『知恵の実』と言うらしく、魔法攻撃が数ポイント上昇するらしい。ちなみに一緒に入ってたスキルの書は、《日常辞典》では鑑定不能だった。

 そういう事もあるんだな、レベル不足とか?




 皆轟春樹:Lv11   HP:46(74)   MP:61(99)

======------------------------

物理攻撃:54(80)   物理防御:46(75)

魔法攻撃:39(64)   魔法防御:33(54)


スキル【16】《平常心Lv2》《観察Lv2》《日常辞典》《投擲Lv2》《剛力Lv2》《罠造Lv3》《光魔法Lv2》

予備スキル《餌付け》《追跡》《時空Box(極小)Lv3》《エナジー補給》《購運》《硬化Lv2》《糸紡ぎ》《潜行》《高利貸》《借技》《剣術》《夢幻泡影Lv2》《人形使役》

獲得CP【1642】   獲得SP【19/9】


『称号』:《安寧》

状態異常:呪い《衰弱》《悪夢》《陽嫌》

装備:銀の槍、手作りフレイル、工具の盾、蜘蛛糸のマフラー《空気浄化》、木綿のポーチ《収納倍加》、蜘蛛糸の作業着

持ち物:ポーション×4、マナポ×3、毒消し薬、薬草軟膏×4、架空スマホ、スキルの書(未鑑定)、コイン袋×2



 スキルのセット内容を一部変更、レベル2に上げた《剛力》を入れてある。SPジュエルでポイントが入ったので振ってみたが、《光魔法》をレベル3に上げるべきだったか?

 ポイントはまだ残っているので、それも不可能では無いけど。12ポイント……うぅむ、振り込んでみるべきか迷うな。一応は保留にしておこう、困った時の候補って事で。

 今回の肝は《剛力》だ、それで鎧モンスターを退治してやる!


 ペジィも作戦執行には、かなり興奮している模様。率先して道案内から、落とす岩の選定までしてくれている。散々追い掛け回されて、怒りも貯まっているのだろう。

 ペジィの見付けた岩は、俺の腕でも抱え切れない大きさだった。普通なら絶対に動きもしない重さ、それでも《剛力Lv2》は不可能を可能にしてくれた。

 驚きの声が、各所から上がっている。


「凄いな、皆轟君……スキルって偉大だねぇ、その大岩を持って木登り出来るかは別として」

「無理だな、別の方法を考えよう……《時空Box》には、重量オーバーで不可って出るし。ホームセンターでゲットした紐で、何とか引き上げるかな?」

「私も手伝いますっ……おっ、囮だって平気だよ~?」


 殊勲な言葉を発するペジィと共に、懸命に作業する事30分余り。汗だくになりながら、何とか壊れかけのアーチの上に百キロを超す岩の塊を設置するのに成功した。

 本当は的が外れた時の予備とか欲しいけど、作戦決行前にこれ以上消耗するのも大変だ。とにかくぶっつけ本番で、やれるところまでやるしかない。

 最悪、こちらにタゲが向かったら、ペジィには単独でエリア脱出を命じてある。




 こうして始まった、3人でのリビングメイル討伐作戦なんだけど。色々と考えた末、のっけから俺はアーチの上に隠れていることに。

 最初に《光魔法》の効きを確かめたかったんだけど、それで俺にタゲが来たら、アーチの上から岩を落とす役目が果たせなくなる。

 それならば、最初からペジィと部長に囮を頼んだ方が、スムーズに事は運ぶ筈。


 一応は落下場所としての座標役に、ジェームズをアーチの真下に待機させてある。ここまで2人が鎧モンスターを連れて来てくれれば、後は俺の役目である。

 一発で決めなきゃだから、当然の如く緊張感はある。外した時の事なと考えない……必ず成功させて、このエリアを解放してやるのだ。

 俺は決意と共に、敵が来る予定の方向を睨み据える。


 程なく部長とペジィが、何となくコミカルな動きでこちらへと駆けて来るのが見えた。障害物の遺跡群を縫って、アーチ通りからは一直線の石畳となる。

 追い掛けて来るリビングメイルは、俺が思っていたよりも俊敏に見えた。いや、大柄なので実際の動きより歩幅が稼げているのだろう。

 とにかく両者の距離は、思ったよりも離れていない。


 これはちょっとピンチなのか、作戦を変更した方が良いのだろうか? しかし、他の方法と言われても、奴を足止めするイメージがまるで湧かない。

 内心で焦りながらも、急いで走れと俺は2人に念を送る。そんな両者は、ようやくアーチ通りの直線コースに入ってくれて、もう一息でジェームスと合流だ。

 その背後に、物凄いプレッシャーと共に出現する鎧の化け物。


 ガシャガシャと、重装備の立てる音が五月蠅い。アレの中身が人間だったら、まず出せない速度である。無尽蔵なスタミナ、日の光に弱いって本当だろうか?

 ちなみに俺のは本当だ、《陽嫌》の呪いのせいで妙に気怠い。


 部長とペジィが、変にテンションの高い悲鳴を上げつつも、俺の潜むアーチの下を潜り抜けて行った。それを紳士的に見送るジェームスは、次なるリビングメイルを足止めの構え。

 いや、体格的に無視されると終わりだけど。俺は鼓動を速めながら、《剛力》を発動させて側に置いていた岩に手を掛ける。その気配を感じたのだろうか、鎧の化け物は直前で急停止。

 ヤバッ、これじゃあ作戦が遂行できないっ!!


 焦った俺は、《投擲》もついでに発動させて、側の大岩を奴に向けて放り投げる。緩い放物線を描いて、狙い違わず大岩はリビングメイルの立つ位置へ落下して行く。

 そして当たったと思った瞬間、奴は華麗にそれを避けたのだった。


 ……流れを読めよ、こっちは奥の手を使ったって言うのに!! これは不味いな、本当の奥の手は《光弾》だったか! しかしこの魔法は、敢え無く奴の鎧の表面を焦がしただけ。

 やっぱり鎧に守られている、中身部分が敵の弱点なのだろうか? 接近戦で奴の兜の面頬を外して、中に向けて《光弾》を撃ち込めと?

 ちょっと無理かな、先に潰される未来しか見えない。


 ってか、俺は奴に完全にロックオンされた模様……真下に居座って、ハンマーでアーチを壊しに掛かっている。足の裏から伝わる振動は、一撃ごとに強くなって行く。

 くっそう、今なら奴の頭上を狙い放題なのに……《罠造》の鐘突き棒を試したところ、多少はダメージが通ったみたい。鎧の肩口が凹んでいる、だけどその程度。

 もう少し重さがあれば、或いは……。


 ここで俺の頭は、かつてない程にフル回転を始めた。《光魔法》をレベル3にする、或いは《罠造》をレベル4に上げる……どちらも12ポイントで可能で、今回は両方同時も可能である。

 ただし、両方を検証している間にも俺のいるアーチが壊されてしまう可能性の方が高い気も。とは言え、隣にそびえる樹の枝に飛び移ってしまえば、まだ少々時間も稼げるな……。

 うん、少しだけ気持ちに余裕が出て来た!


 他に方法がある気がして、俺は架空スマホをなおも弄り続ける。それから決断、《光魔法》をレベル2⇒3へSP12ポイントを使用する事に。

 おっと、画面のCP交換のリストの欄に、思わず目線が引き寄せられてしまった。何かあるのか、さっきの失敗を取り消せるアイテムが……?

 おおうっ、こんなのが追加されていたとはっ!


 交換ポイントは、たったの50Pだった。最近増えて来た、討伐モンスターの部位報酬的なアイテムだ。モンスター名はヌリカベ、討伐アイテムは何と『ヌリカベの石壁』だ。

 俺は有無を言わさず、それを購入する。


 幸いな事に、それは思ったよりは大きかった。落下させて奴の頭を凹ますのに、充分過ぎる程度には。夢中になって、アーチの破壊活動に勤しむ鎧の化け物目掛けて、俺は思い切り石壁を投げ下ろす!

 今度こそ、狙い違わず奴の頭部分の鎧は弾け飛んで行った。


 この瞬間を見逃す程、俺はお人好しではない。新たに取得したLv3魔法、《光爆》を鎧の隙間目掛けて放ってやると。リビングメイルは、声にならない絶叫を放って崩れ落ちて行った。

 そして鎧の隙間から、一斉に放たれる蒸気のようなナニか。良く分からないけど、死闘に決着はついたようだ……直接の殴り合いなど、遂に一度も無かったけれど。

 一番肝が冷えたのは、部長とペジィが奴に追い付かれそうになった時位か?




 崩れかけたアーチから、隣の大木に飛び移って地上へと降りる。その頃には、部長とペジィも大急ぎで駆け戻って、俺に向かって声を掛けて来てくれた。

 ジェームスも無事で、全てが上手く行った模様。


 まぁ良かった、俺に関しては再びレベルが2つも上がっていたし。しかも討伐報酬なのか、SP+10Pと新しい称号天真爛漫をゲットしていた。

 大盤振る舞いだなぁ……今回に限っては、マミーもどき戦より苦戦した気はしないけど。しかし、レベルアップって大切だなぁって、今更ながら思ってしまった。

 それ無しじゃ、あの窮地は切り抜けられなかっただろう。


「お兄さん、凄いじゃないですか! 作戦通りでしたね……鎧はあんまり、ペッシャンコにはなってませんけど……」

「んむっ、実は作戦は思いっ切り失敗してしまってな……最初に投げた大岩は、あそこに転がってるだろ?

 見事に外れて、ぶつけたのは予定外の石壁だ」

「ほへぇ……こんなの一体どこにあったの、皆轟君? アーチの天井でも、強引に外したとか?」


 その手があったか! いや、いやいや、さすがにアーチの石壁は《剛力》程度では取り外せなかったと思うぞ。何にせよ、CP交換50の石壁は、とっても役に立ってくれたのは事実。

 しかしこのアイテム、本当は何に使うんだったのかな? 良く分からないけど、もう一度CP交換リストを見たらまだ交換可能みたいだ。

 それなら別に、用途が分かればまた購入するでいいか。


 ペジィは何故か、ジェームズと手を取り合って喜びの舞いを踊っている。無邪気と言うか、陽気な子だな……気に入った様子だけど、ジェームズはあげないからな?

 部長はリビングメイルの亡骸から、何か取れないか検証している様子。結果、SPジュエルが落ちていたのを発見。それは囮役のお礼に、部長に進呈する事に。

 ちなみに部長は、レベルアップはしてないみたい。


 戦闘には貢献してないからなぁ、囮役は頑張ってくれたのに。少しくらいは部長に経験値が入っても良いのにな、こちらの全取りは心苦しい限り。

 そう言うシステムだから、仕方ないのかな。ってか、他の陣営のペジィは、一体どんな成長過程を踏んでいるのだろう? 凄く気になるが、少女はスキルについては何も知らない様子。

 その代わり、神様から“加護”なるモノを貰っているのだとか。


 実際、強力な加護を受けた朱の陣営の戦士は、物凄い戦闘力を誇るらしい。基本の能力は、ペジィと同じく弓矢や槍を使う狩人タイプらしいのだが。

 飛竜程度なら、ソロで狩ってしまう能力を持っているとの話である。この世界って、やっぱり竜とか普通にいるんだな。部長と2人で、妙なポイントで感心してしまったけど。

 どうも陣営ごとに、レベルや強化の概念は違うっぽいと判明。



「それじゃあ、本当にお世話になりました……あっ、私と同じゲートに入っても、別のエリアに飛んじゃいますからね? お兄さんたち、こっちの生まれじゃないせいか、色々とこっちの常識が抜けてますねぇ……。

 なんなら、もう少し一緒にいて教えてあげますよ?」

「気持ちは嬉しいが、子供はお家に帰らなきゃ駄目だぞ! 今度は変なモンスターとか、怪しい人に絡まれないようにな!」

「……えっ、僕らって怪しい人扱いなの、皆轟君?」


 そりゃそうだろう、スキルなどと言う訳の分からない技を扱う、別の世界からやって来た人間だぞ? 俺だったら、そんな奴に出くわしたら、裸足で逃げ出すね!

 そう口にすると、部長もなるほど確かにと相槌を打ってくれた。悲しいかな、これが現実だ……訳の分からない場所で、行き先も分からず彷徨う存在。

 それが俺たち、他称“白の陣営”の召喚者だったりする。


 自覚はまるで無いけど、戦闘力はそれなりに保有しているんだよね。こちらの生態系を崩す程度には、拉致らちられて三桁の人数が活動している訳だし。

 ペジィの話では、ここら辺のエリアは、本当はまるっと白の陣営の占有となっているらしかった。それを知りつつも、少女は薬草摘みにちょくちょくお邪魔しているのだとか。

 アクティブだな、危ない真似は控えて欲しい。


 そんな訳で、俺たちは簡潔に別れの挨拶を交わして別々のゲートへ。またどこかのエリアで、出会えるかも知れないし、これっきりの縁かも知れない。

 彼女の活動範囲は広いらしいので、また会えるよと笑って告げるペジィ。俺にとっては初の、会話の通じる異世界人種との交流だったな。

 うん、夢の中のアレはノーカンだ。


 他の陣営の面々も、彼女みたいに話の通じる連中だと良いけど。ペジィの話だと、大抵は喧嘩っ早い血の気が多い連中ばかりだとの情報だった。

 そんな奴らに限って縄張り意識が強いので、滅多に出くわす事は無いそうだが。白の陣営は新参者なので、からかいに出向く性悪者もいるそうだ。

 嫌だね全く、皆で仲良くしようよ。





 ――誰にともなく、そう呟く俺だった。





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