第27話 癖のあるパーティで頑張る人々
最初は13人でのパーティだった、それが今では10人までに減っている。スキルを融通して貰ったとは言え、そこは戦闘経験などない素人ばかりのパーティ。
見知らぬモンスターに遭遇する度に、毎回大騒ぎになって、怪我人程度は出ていたのだけれど。幸いにして、出て来るのは意外と弱いゴブリンや大ネズミが大半だった事もあって。
こちらも数で対抗して、何とか事無きを得ていたのだが。
それが呆気なく崩れてしまったのは、2日目の朝だったと
昨日まで普通に喋っていた相手が、朝起きてみたら突然死んでいたのである。夜中のモンスターの襲撃か、はたまた世を
原因は定かでは無いが、桜子の受けた衝撃は大きかった。
「どうだろう、自分で首を吊ったようにも見えるけど……私たちの知らないモンスターに、誘い出された可能性も疑うべきだな。
死因もモンスターも、完全に私の専門って訳じゃないんだが……」
「それはそうでしょう、
皆もいいかな、それから道中もより周囲に気を付けて」
場を仕切っているのは、2人の大人だった。その頃はまだ、そうだったと言う意味だけれど。自称医師の岸那部と、自称自営業の太った中年オヤジ。
ところが、この戦闘では全く役に立たないリーダー気取りの中年オヤジが、3日目の朝に死体で発見されたのだ。しかも今度は、尖った武器で刺された傷が急所に幾らでも見付かって。
自殺ではない、他者の介入が証明されてしまった訳だ。
そこからパーティは、より一層のギクシャク感に襲われて行った。誰かが誰かを不審に思い、自然と集団内で更に小さな集団に分かれて行く。
そしてついさっき、とうとう戦闘中にも犠牲者が出てしまった。相手はスケルトンとゾンビの群れで、こちらはその死霊モンスターを上手く
後衛にいたサラリーマンが襲われて、首筋を噛み切られての失血死。
桜子はその時、果敢にも前衛で戦っていたので、その顛末は全く見ずに済んでいた。この集団は、戦いに赴く者と非戦闘組の格差が物凄く激しい。
桜子は、《爪操術》と《演舞法》で何とか敵の殲滅に一役買っていた。ただ戦闘が好きな訳では全くなく、ギャルのノリで何となく空気を読んだ結果である。
それでも何とかやって来れたのは、同じ前衛メンバー達のお陰か。
前衛メンバーのリーダー格は、何故か
まさか異世界での戦闘で、役立つ男だとは露ほどにも思っていなかった。それでも先ほどの戦闘でも、彼の指揮のもと敵を退ける事には成功したのだ。
まさか後ろから襲われるとは、誰も思っていなかっただけの話。
それからやはり同級生の
天海は赤い眼鏡を掛けた、中肉中背の女生徒で、桜子とは別のクラスで接点は無かったものの。その戦闘能力は、まさに目を見張るものがあった。
《粉砕魔法》と言うらしい、ゾンビも骸骨も粉々である。
ただし、MP消費が激しいらしく、連続で使えないのが難点か。それからもう一人、前衛で頑張る唯一の大人組、
まだ若く20代らしいのだが、戦闘もキャンプ地設置も、積極的に手伝ってくれている。ともすれば生徒組で固まりがちなこの現状も、彼が橋渡しをしてくれているお陰で破綻せずに済んでいるとも言える貢献振り。
そんな功労者だが、ゾンビや骸骨は流石に苦手だったらしく。
「……俺や古野橋さんのスキル構成だと、腐肉のゾンビや骨ばかりの骸骨には、とことん相性が悪いな」
「ホントそうっ、生では絶対に触りたくないし……天海ちゃん、粉砕魔法も手加減してよ。腐肉がこっちまで飛んで来るから、凄くバッチイのよ!」
「ごめんごめん、でも
「戦闘つっても、後ろからただついて来てただけのリーマンだったしなぁ。武器くらい持てって言っても、まるで聞こうとしなかったし……当然の報いじゃね?
こっちも手いっぱいで、他人の面倒までは見きれませ~ん!」
お茶らけて答えるチャラ男の森脇だったが、その場の全員が似たような心境だったとも。本当に自分の事で精一杯で、他人の事情まで考える余地など誰も無いのだ。
何といっても、楽な生活に慣れ切った現代人である。戦闘アリ生活の面倒ナシの異世界ダンジョンは、過酷過ぎる環境でしかなかったようで。
犠牲者に構う余裕など、実際の所ありはしない現状である。
或いは、そんな感情も既に麻痺しているのかも知れない。連日出来立てホヤホヤの死体を見るなど、以前の学園生活には決して無かったイベントである。
死体の処理も、すっかり慣れたモノ……とまでは行かず、何とか小さな穴を掘って埋める程度が精々だ。これも学生組が中心となって、作業を進めて行く。
それにしてもと、桜子は思う。
自分に同行を持ち掛けて来た、自称医師の岸那部なのだが、あれ以来すっかり大人しく非戦闘組に収まってしまっている。もちろん誰かが傷を負えば、簡易手当てをしてくれるけど。
自分から誘っておいて、それは無いでしょと思う程の消極性で、自身の存在を希薄にしている感がある。お陰でこの集団のリーダー格は、チャラ男の森脇と整体師の日下部が担う事に。
それはそれで構わないのだが、何だかすっきりしない桜子。
現在のこの集団は、桜子と天海を含めた女生徒が4名、森脇と近森を含めた男子生徒が3名、それから日下部と岸那部を含めた大人組が3名の構成となっている。
今後の探索でも、数を減らしていきそうな予感がヒシヒシとするこの集団。
自衛の為《魅了》スキルで護衛を作ろうかと、危ない妄想に耽る桜子だった。
それとは別に、逃げ遅れたクラスメイト、
3人でどうにか、ここまで来れた次第である。
直史も試行錯誤の末に、自分のスキル《双剣士セット》を使いこなし始めていた。元々の両手利きなので、そこから受付嬢のお姉さんに勧められて取得したのだが。
雑魚相手なら、敵に一息もつかせずに倒し切る事も可能な剣技を繰り出せる。今ではこのパーティの、メイン火力となっている直史。
それでも敵の数が多いと、やはりバタバタしてしまう。
そんな中、義男が何とか独り立ちしてくれたのが、戦術的に大きなプラスとなっていて。度胸こそまだ中途半端だが、取り敢えずは戦おうとする意欲は見られる。
そしてその戦い方だけど、これまた一風変わっていた。スキルの恩恵か、腕がグ~~ンと伸びて、敵を離れた場所から打ち据えるのである。まるでアニメみたい、本人もそれは承知しているのだろうけど。
まさにノリはそんな感じで、光哉と直史も上手くおだてている。
「よっ、さすがだね、義男! 海賊王も真っ青だぜ、仲間想いの主人公ってか!」
「義男のお陰で、俺達ゃ本当に助かってるぜ! 今後もこの調子で頼むな、お前はウチのエースだから!」
「えっ、いや……それほどでも。そもそも、エースはお兄さんの名前……」
などと謙遜しているが、顔はにやけが止まらない感じ。今では直史と義男の2トップで、光哉は《水魔法》での援護に徹するフォーメーションが主流である。
それだと回復魔法も使えるし、光哉の持つ《幸運》スキルも同時にセット出来るし。これのお陰かは定かでは無いが、昨日は探索の途中で宝箱に巡り合えたのだ。
その時のテンションは、今でも覚えているほど。
《探索セット》も確かに重要だが、運も欲しいよなとの集団の意見は一致して。再び良縁を求めて、マイペースに彷徨う男子生徒3人衆。
時たま戦闘をこなしたり、春樹は今頃どうしてるかなぁなどと愚痴を呟いたり。
そんな何となくの探索が実を結んだのは、3日目のお昼過ぎあたり。不意に感知した人の気配に驚いて、戸惑いつつも息をひそめて近付いて行ってみると。
遺跡エリアを堂々と闊歩する、鎧姿の人物と馴染みの制服姿の女生徒を発見!
慌てて大声で呼び止めて、遺跡の石畳を駆け寄って行くと。向こうも相当驚いた様子、それでも光哉たちの顔を確認すると、戦闘態勢を解いてくれた。
それもその筈、両者とも顔見知りのクラスメイトだったのだ。
「おおっ、
大変だっただろう、怪我があれば俺が治せるぞ!?」
「それは助かるわ、青木君……そっちは3人パーティなの? 出発した時には、もっと大勢でつるんでたような記憶があるんだけど?」
「モンスターに遭遇した途端、大半の連中は後先考えずに逃げ出したよ……かくして、戦える奴らが残されたって感じかな?
そっちは、元から2人で出発したのかい?」
「こっちも似たようなものね……男女混合の、15人程度の大きな集団だったけど、中と外からのトラブルで、呆気無く空中分解よ。
仕方無いから、気の合う2人で何とかって感じ」
お互いの境遇を話し合いながら、テンション高めな光哉に対し。篠原と里中の女生徒コンビは、何となく未だに警戒の素振りを見せている。
篠原はどこから調達したのか、重厚な西洋の鎧を全身に
手には、これまた重厚な片手剣と重厚な盾を持っている。
この盾が曲者で、幾つもの刺付きで凶悪な形状をしていた。恐らくはモンスターの血に染まっていて、見掛けは歴戦の勇者に見えなくもない。
そんな篠原は、学校では柔道部に所属していて、体格も重量級である。ただし性格は至って温厚で、体型の割に目はつぶらで少女趣味の一面も。
現在は、《重戦士セット》で召喚した装備を身に纏っての探索中。
もう一人の里中は、料理屋の娘と言う事もあって、スキルもそれに合わせたような品揃え。手にしているのは大振りの包丁で、これは《包丁使い》で召喚したもの。
他にも《肉捌き》や《具材採集》で、戦闘や食べ物採集に貢献して来ている。
そんな里中は、部活こそしていないが、陽に焼けた健康的な容姿の長身細身の女生徒である。篠原とは正反対だが、そこが逆に気が合うポイントなのかも。
そんな2人が戸惑うのも、もちろん理由がある。前に所属していた集団が、酷い内部分裂を起こしたのだ。
スキルを悪用しての、殺し合いにまで発展しかけた事件も起こったりして。
「……そんな訳で、私たちは最少人数の方が、まだ気が楽なんだけど。この先がどうなってるか分からないし、戦闘では不安もあるんだよねぇ……。
あんたたち、絶対に変な事もしないし裏切らない?」
「そりゃあ、確実にってのは無理だけど……そこら辺は、つまりは心に余裕のあるか無しかって話だろ? 余裕のない奴は不埒な行動に走るし、ある奴はどっしり構えて、物事をしっかりと先まで見据える的な?
どうよ、俺達がそんな切羽詰まってるように見えるか?」
堂々と言い切った光哉だったけど、内心では虚勢を張りまくりだったり。後方の義男に対して、オドオドするなと必死に念を発するのも忘れない。
それが通ったかは定かでは無いが、2人の女生徒は短く内緒話で意思の確認作業をした後で。それじゃあしばらく、厄介になるよと了承の言葉を発した。
それを聞いて、ホッと胸を撫で下ろす光哉と直史。
これでまかりなりにも、5人パーティとなった訳だ。ほぼ前衛ばかりの、多少歪な構成ではあるけれど。生き延びる確率は上がった筈と、その点は正直に安堵する一同だったり。
取り敢えずは、今夜のキャンプ地を探そうぜと、早速移動を再開するメンバーたち。それぞれのスキルを報告し合いながら、己の立ち位置を定める作業へ。
それが継ぎ
事の起こりは、確かに管理者アイギスの不手際だった。不慣れな呪術などを、召喚者の1人に重ね掛けした結果、その術式の痕跡を相手陣営の管理者に付け入れられてしまい。
お陰で拠点の一つを、奴ら“
全く、どうしたものか……と彼は呆れ返る思い。
白の陣営は、いわゆる新規参入の若輩者で、敵の陣営は数えるのが嫌になるくらい多い。逆に言えば、仲良しの陣営が無い訳だが、向こうからすれば出る杭は打ってしまえ的な感じか。
そんな訳で、慎重に事を勧めなければならない筈なのだが。管理者たちのやる事は大雑把で、総じて取り敢えずは数を集めて何とかしようが今までの傾向である。
何ともならないのが分からないのかな、と彼は思う。
管理者の1人として、彼もそれなりの権限はあるのだけれど。無駄に口を挟んでも、徒党を組んで今の召喚ゲームに熱中する、アイギス達には
彼も実際、訳も分からずに連れて来られた召喚者たちの、判断や活躍を眺めるのは大好きだった。毎回お気に入りを何人か探し出して、その探索振りを観察する事までしていた。
しかしまぁ、そのお気に入りの1人が厄介なトリガーになるとは!
この顛末に、当のアイギスは怒髪天を衝く怒りよう。そんなの自分の処理能力不足でしょと、彼は内心思うのだが、口には決して出さない配慮程度はある。
呪いの反動は恐ろしいのだよと、多少馬鹿にしつつ考えながら。その場の雰囲気で慣れない事をするからだと、思わず上がりそうになった口角を必死で押さえつけるテンペストである。
いやしかし、こちらの犠牲が酷過ぎて本心では全く笑えない。
「……それでどうするのかね、アイギス? このままやられっ放しではメンツも立たないし、第一呪いの元を放って置くのも不味いんじゃないか?
君の不手際だ、何とかしたまえ」
「言われなくても分かっていますよ、グリフィン……こちらの手駒は少ないですが、全くいないわけではありません。私自らが率いて、橙の陣営も呪いの元主も片を付けて参りますよ。
後始末は頼みます……もっとも、早々に片付けて戻って来る予定ですがね」
果たしてそう上手く行くのかなぁと、テンペストは内心で呟く。連れて行く補佐官は全部で4名、それに加えて甲殻ガーディアンも2体起動させるようだ。
アイギスも腕前は悪くないので、敵の主導者と渡り合うには不足は無いと思われる。ただし、相手の陣営に殴りこむには、不意を突かない限りは難しいだろう。
そう、こちらが先ほど痛手を被った時のように。
報復に出る旅は、きっと辛いだろうなとテンペストは想像した。メンツとか言って焚き付けられたけど、みんなもっと気楽に過ごせば良いのにとも思う。
やれやれだ、本当にもっと酷い事にならなければ良いけどね。
いわゆる勇者パーティである、
まぁ、目的も曖昧でどこに向かっているのかも定かではない現状。急ぐ必要も感じられず、安全な場所が見付かればそこに居座ってしまう心理も充分に理解出来る。
しかも、それに拍車を掛けて
そんな感じで、前へと進むも皆と合流に戻るも、方針が全くのブレブレで今一つ切れの無い集団に成り下がってしまっていた。リーダーの明神としては、心苦しくて仕方が無い。
状況を整理しつつも、元の地下鉄ホームに戻れない現実はやはり辛い。ここにいるメンバーだけで、全ての事柄を決定して遂行して行かねばならないのだから。
つまりは、リーダーの明神の双肩に重い荷が掛かって来ると言う。
「孤立したなら、もうそれは仕方が無いよ……自分たちの安全を第一優先で、先に進むしかないんじゃないかな? 幸い、生徒会長がチート戦闘力をもってるから、モンスターとの遭遇もうまく切り抜けて行けるし」
「そうだね、副会長も回復系スキルのレア職持っててくれてた事も大きいし。まぁ、パーティへの貢献度としては、アレだけど……」
「そう言うな、彼女の我儘は今に始まった事じゃないだろ……。それより、上手くエリアを繋いで行けば、安全そうな建物で一夜を過ごせる事も判明したし。
敵の数も増えて来てるけど、俺達で何とか対応出来るしな」
なるべく女生徒2人には、危険な戦闘行為に巻き込みたくないと、生徒会長の明神が話を締める。男子生徒から副会長の福良木の不満が出るのも、まぁいつもの事と受け流し。
実際、彼女に関しては回復手段が後ろに控えていると言う存在感だけで、大いに助かっている部分がある。それがあるから、男子生徒からも大きな不満も出ない。
ただし、彼女の我儘で探索も進んでいないのも事実で。
《狩人セット》を持つ
それに明神の《勇者セット》を加えれば、大抵の戦闘はほぼ一瞬で終わってしまう。同じく後衛の
戦闘能力は随一な集団なのに、この足止め状況はちょっと悲しい。
「男同士の内緒話は終わったかしら……それなら、そろそろ今夜の宿を探して下さらない? 野宿なんてゴメンだわ、少なくとも昨日の水準を保って頂戴。
このパーティには、か弱い女性が2人いる事、忘れないでね?」
「わかってるよ、副会長……それじゃあ、みんな出発しようか」
探索出発目から3日目の午後、昼休憩を終えた一行は出発の準備を始める。目指す場所は未だハッキリしないが、女王のように指示を下す福良木の要望には応えないといけない。
何故かは誰も分からない、それは生まれながらの素質以外の何物でもなかった。恐ろしいまでの美貌と染み出る風格は、この異世界生活でもいささかの衰えも見せず。
むしろ、冴え渡って来ているようにさえ感じられる。
――この程度の我儘で済んでる内はマシと、明神は心からそう思うのだった。
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