第24話 新パーティメンバーの亀裂



 足取りが重いのは、皆が総じて一緒だった。厄介事しか持ち込まなかった、男子教師陣との縁をようやくの事断ち切ったとは言え。仲間の同級生を、2人も戦闘で失ったのだ。

 手放しで喜べる状態ではない、それでもそんな内心に反比例するように、探索は順調に進んで行った。難解なダンジョンエリアを突破して、次のマップへ。

 ここも遺跡エリアだが、造りは単純みたいだ。


 一度だけそこで、ゴブリンの大集団に遭遇した。大小合わせて15匹以上、魔法を使うのもいたし、装備が上等の偉そうな奴もいた。

 寺島は王様じゃないかと推測していたが、国民1ダース半の王国なんて片腹痛い。それでもソイツは強かったし、珍しく剣技のマシな敵を見た気分。

 寺島が相手取っていたが、途中不利になったので俺が代わりに始末した。


 雑魚の集団も、俺の《罠造》の格好の的になって来ている。特にタライ爆弾は、投網で捕えてのコンボ技にすると、一方的な殺戮さつりくでしか無い気が。

 空気が一気に悪くなるので、敢えて使わずトラ挟みと投網でこらえているけど。それでも足止めと数減らしには好都合なスキル、使わない手は無い。

 俺たちの定番の戦法になってるし、少々の強敵にも安定して使えると言う。


 そして危なげなく、その集団を駆逐し終えて一息。強かった推定王様と魔法使いからは、SPジュエルをゲット出来た。Pカプセルも半ダース拾えたし、まずまずの戦果だ。

 他の連中にも強くなって欲しいから、アイテムの補給は大歓迎である。と言いつつも、SPジュエルとPカプセルを1個ずつ貰えて、こちらの強化計画も順調である。

 さっきのオーガ戦と《高利貸》の件で、SPは大幅に増えてるんだけどね。


 パワーアップは、取り敢えず今夜の仮宿を見極めてからだ。仲間もさっきの戦闘で、仲良く一斉にレベルアップを迎えた様子。こちらはオーガ戦で、既に2つレベルが上がってる。

 そこからは大きな戦闘には出くわさず、休憩を挟みつつ進んで行き。


「皆轟君、その……男子教師の人たちは、私たちを追い掛けて来るかしら?」

「さあ、そんな元気は無かった筈ですが……もし出遭っても、不用意に近付くのは得策じゃないとは思います。向こうはこちらを相当恨んでるし、こちらの命やスキルを奪って来る可能性が非常に高いですね……。

 下手に宝石や金目のモノを所有してるから、全員が疑心暗鬼になってるし」

「そ、そうなのね……分かったわ、有り難う」


 一度だけ、斎藤先生とこんな感じの話を交わした。俺は正直に、奴らの消耗具合と危険性を先生に告げたけど、先生の顔色は冴えないままだった。

 先ほどの戦闘の余韻である、神経のギスギス感がそろそろ辛くなって来た頃。ようやく遺跡エリアを抜けて、現代建築エリアへと一行は到達を果たした。

 もう少しの我慢だ、今夜の仮宿を探し当てるまで。


 さっさと寝床を探し当てたいのは、全員が思っていた願いだったようだ。いつも以上に口数の少ないパーティは、基礎工事の途中のようなコンクリ製のダンジョンを進んで行く。

 敵もチラホラ、こちらの空気を全く読まずに、出現しては驚かし役を見事に果たして行く。それを片付けて行くと、やがて小さなドラッグストアへと出た。

 待望の補給ポイントらしいが、店舗は結構小さい造り。


「わあっ、助かるわ……薬品類の補充も出来るわね!」

「こりゃいいや、食べ物も置いてるし……皆轟君、今夜の寝床はここでもいいんじゃない?」

「どうかな……店舗が小さいと、逆に逃げ場も無いからな。例えばゲートの両方から敵に侵入されると、かなりの確率で詰みそうだ」


 それもそうねと、南野がゲートの配置を確認しながら同意したので。ここで小一時間、皆で補給活動をした後に、再び寝床探しに出発する事に。

 スーパーやホームセンターで補給した荷物も、数人が1日3食消費すれば、結構な速さで減って行く。俺は嶋岡部長と組んで、食料や非常用の薬、火炎放射器の予備スプレー缶やペーパー類なんかを物色して行く。

 飲み物も欲しいな、重い物は即《時空Box(極小)》行きだ。


 次のエリアは、いきなり立体駐車場に通じていた。こんな唐突感は、ゲートを潜る移動の方法上、まぁ慣れっこではあるのだが。

 人気のないガランとした空間と言うのは、物寂しくて不気味ではある。一応何台か車はあるのだが、障害物か何かのような立ち位置にしか見えないと言う。

 それでも、中央の建物にトイレもあるし、仮宿には良いかも?


「そうね……敵の姿が無いのなら、車の影とかで一夜を明かすのはアリだと思うけど……」

「車のドアが開けば、車の中でもいいかもな? あの大きなバンとか、どうだ?」

「ちょっと調べて来るね……本当に、敵はいないよね、皆轟君?」


 確実とは言えないので、一通りぐるりと廻って確認してみたところ。敵の影はチラリとも見えず、しかもどの車もカギは掛かっていないと言う無防備さ。

 ただし、車のキーそのものが無いっぽいので、車を移動させるのもちょっと無理。とか思っていたら、嶋岡部長がサイドブレーキを外せば、押して移動は可能な筈と口にして。

 男衆で苦労しつつ、簡易防壁を車で作成。


 その間、約30分足らず……女性陣はその間に、夕食の準備をしてくれていた。時間的に夜になって、ようやく呪いの不快感が少しずつ薄れて行く。

 夕食時にも、どこか不穏な空気は女性陣を中心に流れていた。どこか腫れ物に触るような会話と視線、それを避けるように口数も少なくなる一行。

 寺島も不安そうに、視線をあちこち彷徨わせている。


 嶋岡部長だけは、どこか深い物思いにふけっているようだった。水本と尾崎、両名と一番親交が深かったのだから、それは当然だとも思う。

 あまり邪魔しないでおこう、俺も今日は本当に疲れた。


 恒例の罠設置と、それに伴う周知を仲間に言い渡しておいて。俺は1台の白いバンの扉を開けて、そこに寝所を作る作業。立体駐車場の電灯の明かりは程々で、気温も快適だ。

 その辺は、この異世界ダンジョンの有り難い設定でもあった。変に暑かったり寒かったりして、体調を崩して探索に影響を及ぼしたくなどない。

 だから寝具も、ホームセンターで拝借したタオルケットで事足りる。


「女子組はなんか、真剣に話し合ってるね……ショックな事が続いて、改めて身の危険を感じてるみたいだけど。

 皆轟君は、男子と女子の感性の違いってどう思う?」

「へあっ、何だそりゃ? 部長お得意の、小説的な精神分析か何かか? そりゃ随分違うだろうよ……俺も幼馴染の女の子の言動とか、全く理解出来ない時あるし」

「そう、全く違うんだよね……それが悪い方に転がらなきゃいいけど……」


 一緒のバンに入って来た嶋岡部長は、俺に語り掛けながらため息一つ。憂いの表情は、どうも過去の同級生の死と同時に、未来のこのパーティを案じているような。

 後ろのシートを倒して出来たスペースに、無理やり2人分の寝床を確保しながら。俺と部長は、今後の展望について語り続ける。

 敢えて、今日の昼にあった出来事の話題を避けながら。


 どうすれば良かったのだろうと、考えても彼らは戻って来ない。当然だ、生と死の間には、ゲートでの転移以上の隔たりがあるのだから。

 押野たち生徒指導教師の待遇も、あれで良かったのかとの思いもある。だけどどれだけ憎んでいても、直接この手で人を殺めるのには抵抗があるのも事実。

 向こうにも、そんな度胸が無かったと思いたい。


 話はいつしか途絶えていて、部長はどうやら先に眠りについた様子。俺もそろそろ瞼が重い、これに抗うのは相当な根気が必要だ。

 眠りに落ちるまでの間に、昼の戦闘で大量に貯まったSPをどうするか考えないと。とにかくスキルも余計に増えたし、スロット枠は是非とも増やしたい。

 どうしようかな、悩む……。




 などと考えていたら、いつの間にやら夢の中にいた。いつもの薄暗くて果ての無い空間、迎えてくれるのは、馴染みの夢魔の集団だった。

 昨日は威勢の悪かった連中だったが、今日はどうも勝手が違う様子。見れば、体格の良いぼろを来た仮面の指揮官っぽい奴が、数体ほど混じっていた。

 あれも夢魔だろうか、まぁ雑魚よりは強そうだが。


 この《悪夢》の強化だが、呪いがパワーアップしてるって事は無いよな? ちょっと心配だけど、こちらは抗う事しか出来ない訳で。

 そんな感じで、念を込めて《光魔法》の降臨を願う。ついでに愛用の銀の槍を願ったら、驚いた事に普通に召喚出来てしまった……凄いな、夢の中って。

 或いはこれも、スキル《夢幻泡影》のお陰かも?


 弱点が丸分かりの雑魚連中に、今更手古摺る筈もなく……それ程に時間を掛けずに、敵の群れを駆逐し終える事に成功。大きいサイズの夢魔も、大した事が無かったと言うオチ。

 経験値にはなってくれたので、こちらとしては大歓迎。


 さて、暇になったし寝落ちで中断していた作業に戻ろうか。何しろ起きるまで暇だしな、夢魔がまたやって来たら相手をしなきゃならないけど。

 それよりも、取得したSPが今回は半端ない。まずはオーガ討伐の報酬だけど、大量の経験値と10SPと言う結果に。マミーもどきと、確か同じ程度かな?

 だとしたら、奴も変異種だったのかも知れないな。


 それは、今となっては別にどうでも良い、次いで《高利貸》での貸した分の徴収だけど。男性教師陣から奪い返したのは、スキル4つとSP21ポイントと超大量。

 どんな計算なのかは知らないが、貸しは思っていたより大きかった様子。これを搾取した分、連中は弱体化したって事だろうか?

 まぁ、このポイントで俺が強くなれば、奴らも本望だろう?


 ついでにCPも650ポイントと、過去最高の稼ぎとなってしまった。総CPは1千越えと、これも過去最高である。後で交換品のチェックも、忘れずにしよう。

 それからスキルだけど、3Pの《潜行》は恐らく元は田沼のだろう。4Pの《剣術》は仁科のに違いない、同じく4Pの《光魔法Lv2》と《剛力》は押野のかな?

 やけにパンチが重いと思ってたが、奴はスキル込みで殴ってたのか。


 《光魔法Lv2》については、良く分からないけど……強奪で奪われたスキルの筈なのに、《高利貸》さんったら、貸しただけと認識したのかも?

 とにかく、これだけ一気に増えてしまった俺のスキル。悲しい事に、これだけあっても一番高いスキルが4Pと言う変チクリンな構成……。

 いいけどね、レベル上げ易いのは本当だし。


 さて、これで昼の収入は全部である。後は敵討伐の報酬にと、SPジュエルとPカプセルを使って得た分だけ。後はこれを使って、自分を成長させる作業をするだけ。

 まずは均等上げかな、今回はスロットが増えるまで頑張ってみるか。




 皆轟春樹:Lv10   HP:37(61)   MP:52(86)

======―――――――――

物理攻撃:45(67)   物理防御:36(62)

魔法攻撃:33(54)   魔法防御:27(44)


スキル【15】《夢幻泡影Lv2》《光魔法Lv2》

予備スキル《餌付け》《観察Lv2》《平常心Lv2》《日常辞典》《投擲Lv2》《追跡》《時空Box(極小)Lv3》《エナジー補給》《購運》《潜行》《硬化Lv2》《罠造Lv3》《高利貸》《借技》《剛力》《剣術》

獲得CP【1197】   獲得SP【21/0】


『称号』:《安寧》

状態異常:呪い《衰弱》《悪夢》《陽嫌》

装備:銀の槍、手作りフレイル、工具の盾、蜘蛛糸のマフラー《空気浄化》、木綿のポーチ《収納倍加》

持ち物:ポーション×4、マナポ×3、毒消し薬、架空スマホ



 有り余るポイントを駆使して、思いっ切り自己強化に励んでしまった。まずは均等上げをする事5回、幸いにして最初にスロットが増えてくれたので、もう一度上がるまで強化して。

 見事、スロット枠が+2となってご満悦、それでも毎回スキルのセットには悩むんだろうな。取り敢えず新スキルの《潜行》は、潜んでいれば敵に見付かり難い系の隠密スキルらしく。

 そういう場面では、便利には違いないと思う次第。


 《剛力》はそのまんま、筋力を強化するスキルである。その割には、押野は使いこなせて無かったかな? パンチは重さだけじゃなく、速度も重要だし。

《剣術》も説明不要だろう、これまた仁科は使いこなせて無かったけど。そもそも素人がスキルを得ただけで、達人になろうと思うのが大間違い。

 精々が仁科みたいに、味方を誤って傷つけるだけだ。


 道場に通っていた俺が、それなら上手く使いこなせるかと言うと。それも現時点では微妙かも、何しろ《衰弱》の呪いで平時の筋力や速度が出せないから。

 感覚と言うモノは微妙で、そもそも刀の一振りで敵を一閃なんてのは、時代劇の中だけの現象でしかない。ゴブリンにだって骨格は存在するし、肉の脂肪で刀の切れ味はあっという間に鈍るモノらしいし。

 ウチの師匠は割と実践派だったから、そう言う話には詳しいのだ。


 《剛力》も……単純に、モノを持ち上げる時とかには有効かもだけど。戦闘に使おうと思ったら、やはり感覚がズレを生じさせる可能性が否めない。

 レベルアップでもそうなのだ、毎回馴染むのに少々時間が掛かってるし。現にこうやって、夢の世界で模擬戦闘をこなして感覚をチェックしている次第。

 たゆまぬ努力が、生き残りの秘訣ってね。


 ついでに余ったSPで、色々なスキルをLv2へと上げてみた。最近使っていない、《観察》や《平常心》まで、1Pで済むのでついでに上げた。

 《時空Box(極小)》に至っては、6Pは安いなぁとLv3へと上げてしまった。後悔はしていないが、現時点ではどの程度収納量が増したかは不明。

 後は《投擲》と、お世話になっている《夢幻泡影》も上げてみた。


 これでどの程度性能が増すかは判然としないが、まだSPは残ってるので問題は無いかと。例の如くに保険扱いだ、これでピンチにもちょっと安心?

 ついでに1Pで、MPを集中上げもしておいた。主力の《罠造》も《光魔法》も、割とMPを消費するからなぁ。今後の戦いでも、きっと必要になって来る筈。

 備えあれば憂いなし、慌てるのは大嫌いだからな。


 それもこれも、大量のポイントのお陰ではあるんだけど。などと遊んでいたら、朝になっていたようだ。頭痛に似たギスギス感も、かなり和らいでいた。

 『安寧』と言う称号のお陰か、かなり体調も持ち直している。もっとも呪いの不快感と倦怠感は、完全には消え去ってはくれない様子。

 それでも今日を乗り切る程度には、体力も気力も回復してくれている。




「おはよう、皆轟君……ちょっと話があるんだけど……」

「なんだ、朝食前だってのに……いいけど、2人っきりって事か?」


 俺が朝の支度を済ませて、寝床周辺の罠を解除して回っていたら。南野が深刻そうな顔をして、こちらに話し掛けて来た。少し離れた場所で、それを窺う仲間の視線。

 どういう事だろう……そう言えば部長が、俺達が寝る準備の際にも、女子グループが何やら真剣に話し合ってたと言ってたっけ。

 その時の議題の内容など、こちらは想像もつかないけど。


「ええ、そうね……簡潔に言うわ、皆轟君にパーティを抜けて欲しいの」





 ――青天の霹靂へきれきの申し出に、俺の思考は一瞬停止してしまった。





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